幸食のすゝめ#031、大きな靴には幸いが住む、中延。
「自分でも、いつかお店を持ちたいと思っていて、彼女のクラウドファンディングを見た時に興味を持って投資しました。最初は割と軽い気持ちだったのかもしれない。でも、今は彼女の夢に同乗することで、自分の未来を見つめられるような気がしています」。カウンター端に座った黒いパーカーの男性は、浅草橋でブランド用のタグを作っている。
大きな瞳をキラキラ輝かせ、DVDのリズムに乗って、店主の彩乃ちゃんがカウンターとテーブルを踊るように駆け回っている。
人はいつも、明日の夢に転がされ続けている。でも、そんな夢に実際に踏み込もうとはしない。冷えた時代にエールを送るように、「夢を取り戻せ!」というキャッチコピーでスタートした店がある。『宅飲み酒場 アヤノヤ』。少し気合が入ったキャッチとは対照的に、店は限りなく温かな空気に包まれている。
都会に突如現れた「みんなのリビング」。彩乃ちゃんのコンセプト通り、『アヤノヤ』は素敵な彼女の部屋に遊びに行ったような沢山の喜びでできている。
品川の古い商店街の1つである「なかのぶスキップロード」。その中ほどあたり、商店街の脇を少し曲がると、大きな窓が付いた緑色のドアが見つかる。明るい店内には、カウンターに立つ彩乃ちゃんの姿が見える。一見、普通の飲食店に見える。でも、『アヤノヤ』には、たくさんの際立った特長がある。
まず、チャージが一切ない。「大井町線、池上線、浅草線、ここに来て頂く電車賃がチャージです」、彩乃ちゃんは言う。
では、ドリンクが割高なのだろうか?
ルジェのカシス、赤兎馬や海などの芋焼酎、モルツの生、山崎やマッカランなどのウイスキー。サワーやホッピーを割るのも、金宮焼酎。どれも、厳選された美味しい酒ばかりが並んでいる。しかし、その全品は毎日でも通える300円均一。最新鋭のカラオケも無料で歌い放題。しかも、食べ物は持ち込み自由だ。
最大のセールスポイント、彩乃ちゃんの接客もきめ細かいホスピタリティに満ちている。300円じゃ美味しい酒は飲めないから、缶チューハイや発泡酒でいいや。『アヤノヤ』は、そんな庶民たちの諦めを打ち砕く優しいパンクロックだ。
「今日あなたに会えてよかった、明日を生きる活力になったよ」。
19歳の時、アルバイト先の居酒屋で客から貰ったひと言が飲食業に進むきっかけとなった。新卒入社した会社では、21歳で系列店の店長へ。でも、目標だった店長になれたから退職。次の会社では、イタリアンの立ち上げから参加し、2年で退職。その理由は、自分の店を持つこと。大好きな酒を並べて、原価なんて口うるさく言わず、客と「美味しい」を共有したい。ストレスを抱えながら働くより、好きな音楽を聞きながら元気に頑張りたい。
でも、自己資金は40万円しかなかった。創業の知識なんて、もちろんない。あるのは、抱えきれない程の夢だけだった。
夢を現実に変えた自己資金40万からの開業ストーリー
Googleで検索し、無料の冊子をダウンロードして、手探りの開業作戦が始まる。1つだけあった信念は「お金がなくても飲める店を作るのに、お金がないから店を作れないなんて矛盾している」というパラドックス。税理士と奮闘しながら、公庫からの融資250万円が決定。足りない100万円はクラウドファンディングで集めることにした。
「わたしの夢に投資してください」、それ自体がSNSなどで話題を呼び、終了の3時間前にいよいよ達成。退職から1カ月後、『宅飲み酒場 アヤノヤ』がスタートする。
シンデレラの最終兵器は笑顔とポジティブな誠意
小さい頃から、人より少し手足が大きかった。靴選びが大変で、無理して平均サイズの靴を履いたこともある。でも、ある時から合わない靴を履くのは、もう辞めた。少しコストと時間はかかっても、オーダーメイドで自分にぴったりの靴を履こう。だから、自分に合う会社=店がなかったら、自分で作ってしまおうと思った。
とうとう自分ぴったりの靴を手に入れた、中延のシンデレラのワクワクする冒険は、今始まったばかりだ。
商店街で自分の好きなツマミを見つけて、どこよりも美味しい300円の酒を交わそう。午後3時から、「みんなのリビング」で彩乃ちゃんが待っている。大きな靴には、幸いが住んでいる。
<メニュー>
ドリンクすべて300円、カラオケ無料、持ち込み自由、チャージなし
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宅飲み酒場 アヤノヤ
- 電話番号
- 03-6421-6299
- 営業時間
- 15:00~23:00
- 定休日
- 水・日曜
- 公式サイト
- http://ayanoya.favy.jp/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。