第十五夜:黄昏 リュシルさん
今回の案内人は、福岡在住3年目のフランス人、リュシル・マルタンさん。留学生として福岡へやってきたリュシルさんは、第十夜に登場した手嶋渚さんが店主を務めるワインバー『黄昏』のスタッフとして働いている。来日前は、モロッコやギリシャで暮らしたこともあるという。「福岡はフランス以外でいちばん長く住んだ場所」であり、お気に入りの店もたくさんできたとか。そんな彼女に、お気に入りの店を案内してもらった。
フランス人から見た福岡の酒場の魅力はどこにあるのか、早速紹介したい。
■博多といえば山笠!のお膝元に今秋OPENした『参道ワイン 香』へ
11月某日の午後3時。この日、最初に訪れたのは、櫛田神社の参道にあるワインバー。リュシルさんが勤める『黄昏』同様、ヴァン・ナチュールを揃えている。店主の板倉憲一郎さんは、東京・恵比寿の自然派ワインショップ&バー『3amours(トロワザムール)』出身。奥様の出身地である福岡で、この店を今年10月にオープンさせたばかりだ。
「彼を知ったのは、私が大名のワインショップ『ヴァンナード』でアルバイトをしていた頃。お店にも来てくれていたし、西中洲の『ABRACADABRA』で働いていたときには、ときどきお店にも伺っていました」と、リュシルさん。
▲ホテルのエントランス部分を活用した不思議な空間
リュシルさんがワインを飲み始めたのは23歳を過ぎた頃。ワイン好きのお父様の影響でクラシックなワインを飲んでいたが、次第に自然派ワインへの興味を深めていったという。
「自然派ワインは本当に面白いですね。フランス人は生活を楽しむことを大切だと考えていますが、自然派ワインにはそれぞれにメッセージがあるなと感じます」と、リュシルさんは言う。
ワイン談義に花を咲かせていると、徐々に屋根がオープンに。
「すご〜い。気持ちいい〜。ここ、パリみたいね」と、はしゃぐリュシルさん。
その言葉を聞いた、板倉さんはすかさず、
「それがやりたかったんだよね。パリに行ったときにテラスが超面白くて。あんな感じで日本もオープンだったらいいのにって思ったんだよね。そう感じてもらえるのは、めっちゃ嬉しい」と、大喜び。
▲奥様が勤めていた大井町のワインバー『8huit(ユイット)』お墨付きの「クミンキャベツ」(380円)や「サーモンのリエット」(500円)など、フードも充実
店主ご夫妻のあたたかなもてなしに、思わず長居してしまう。
▲板倉さんご夫妻が店の外まで見送りに
参道ワイン 香(SANDO WINE Ko)
- 電話番号
- 080-3251-1631
- 営業時間
- 15:00〜24:00頃
- 定休日
- 月曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
■日本文化を感じる、モダンな茶酒房「万(よろず)」
タクシーに乗り、10分ちょっと。赤坂エリアにやってきた。訪れたのは、住宅街の一角に佇む「万 yorozu」だ。
銅製の炉をぐるりと囲むカウンター席の一角。店主・徳淵卓さんの美しい所作が見える特等席に座る。
「『黄昏』のお客様、八島さん(『焼とりの八兵衛』店主)に連れてきてもらったのが最初。この空間もすぐに気に入ったし、何よりお茶が美味しくて。フランスに住む家族や友人を連れてきたいと思いました。夜、来ることが多いけど、明るい時間もいいですね。実はつい最近、2階の『万 分室』にお粥を食べに来たんですよ」と、リュシルさん。
1階は「茶と酒、果子とアテ」を嗜むバーとして知られるが、今年7月にオープンした2階の分室では、「お粥」のコースを味わうことができるのだ。
▲まずは、茶葉そのものの香りを楽しむ
「11月は炉開きの時期で、お茶のお正月と言われます。この時期にいただくのが、口切茶。5月に摘んだ新茶を壺の中に入れてうまみが出てくるのを待つのですが、この壺の封を開ける(=口を切る)ことを口切りといい、炉開きと合わせておめでたい行事なんです」と、店主・徳淵さんが、丁寧に教えてくださった。
▲真剣な表情で徳淵さんの所作を見つめる
▲一煎目、二煎目、三煎目と、温度や色、味わいの違いを楽しむ
「一煎目はうまみを、二煎目で渋味や苦味を、三煎目はさっぱりと名残を楽しんでください」と徳淵さん。
「お茶とワインってすごく似ていると感じています。ブドウ畑と茶畑ってとても近い気がして。日本に来る前から紅茶は大好きだったし、日本茶独特の味わいは苦手ではありませんでした。ワインも日本茶も、常に新しい発見があって面白いね」と、リュシルさんは言う。
▲見目麗しい和菓子も人気。リュシルさんはリンゴとニッキのお菓子をセレクト。「お茶と季節の和菓子セット」(1,000円)。
「お茶の淹れ方など、おいしいもののために手間をかけるという日本の考え方に惹かれます。せっかく日本にいるのだから、休日はできるだけ日本の伝統的なものに触れたいですね。帰国まで少ししかないですが、それまでに歌舞伎も相撲も行くんですよ。すごく楽しみです」
▲最後に、茶葉に味付けをしたものが登場。最後の最後まで驚きの連続だ。
▲少しずつ、日も暮れてきて良い雰囲気に
万 yorozu
- 電話番号
- 092-724-7800
- 営業時間
- 15:00〜翌3:00
- 定休日
- 日曜
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■福岡から世界へ発信!3軒目は『万』を教えてくれた八島さんの店『焼とりの八兵衛』へ
この日は気候も良く、普段はタクシーに乗る距離の赤坂〜薬院を徒歩で。15分程度で目的地の「焼とりの八兵衛 上人橋通り店」に到着。ここは(前出の)八島さんが営む焼鳥店で、国内外に展開中。今秋にはハワイ店もオープンした。
「八島さんは『黄昏』によく来てくださるお客様のひとり。偶然、私が一人のときに来られることが多くて、仲良くさせてもらっています。このお店は八島さんに連れてきてもらいました。一人で行くのは大名にある系列店『BUTABARA TO THE WORLD』が多いかな。仕事が早く終わったときに一人でふらりと行っています」
この日はテーブル席だったけど、「焼鳥屋さんはネタが見えるからオーダーがしやすい」と、リュシルさんは言う。フランスで焼鳥といえば、甘いタレのものが殆どだそうで、いろんな部位をシンプルに味わえる日本の焼鳥に感動したのだとか。
▲(写真左上から)「バーニャカウダ」(930円)、「えんどう豆の串揚げ」(250円)、「ぼんじり」(1本150円)、「チーズ巻き」(1本280円)。
▲この日は、ハワイ出張中の八島さんから、シャンパンのプレゼントが!
「一人で飲みに行くことが増えたのは日本に来てから。福岡は街がコンパクトだから、行く店、行く店で知っている人によく会います。昨夜も友人の店で飲んでいたら、次々に知り合いがやってきて、楽しかったですね。
福岡に住んで2年半。知り合いも増えたし、馴染みのお店も増えました。けれど、私自身、新しいことを知るために動くことが好きなんですね。以前はモロッコやギリシャにそれぞれ半年住んでいたこともあります。気づけば、フランス以外で住んだ街の中で、福岡がいちばん長くなりました」
福岡は、日本人だけでなく、外国人にとっても暮らしやすい街のようだ。
焼とりの八兵衛 上人橋通り店
- 電話番号
- 092-732-5379
- 営業時間
- 月~日 18:00~翌1:00(L.O.24:30)
- 定休日
- 無休
- 公式サイト
- http://www.hachibei.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
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■オープンエアが大好きなフランス人は、屋台がお気に入り!?
▲以前は冷泉公園の前にあったが、北天神(日銀前)に移転
最後に訪れたのは、博多!といえばの屋台。福博の屋台は、ラーメンのみならず、多種多様な料理やお酒が楽しめる店が多いが、ここ『屋台Bar えびちゃん』は、バーというだけあって、本格的なカクテルもしっかり味わうことができる。
▲二代目店主ご夫妻が切り盛り。カウンター越しの会話も屋台の醍醐味!
「ここも、『黄昏』によく来てくれる女性2人に連れてきてもらいました。カクテルも美味しいし、ヴィンテージっぽい雰囲気がかっこよくて、すぐに好きになりました。屋台という福岡の文化はいいですね。オープンな雰囲気がフランスに通じるというか。『黄昏』は県外から来られるお客様も少なくないけど、『リュシルはどこの店が好きなの?』と聞かれると、『えびちゃん!』って答えています」
▲お酒のことはもちろん、観光のこと、お土産のこと、なんでも教えてくれる海老名さん
▲えびちゃん名物の「カマンベールチーズのマーマレード焼き」(860円)と、10〜5月限定の「牛テールスープのおでん」(1個110円〜)
カクテルはもちろん、フードもかなり本格的。「ここのおでんはポトフみたい。すごく美味しい!」と、リュシルさんもお気に入りの様子。
この日はスタートが15時だったこともあり、22時より前にお開きに。
屋台バー えびちゃん
- 電話番号
- 090-3735-4939
- 営業時間
- 19:00〜L.O.翌1:30
- 定休日
- 不定休(雨天時休)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
実は、リュシルさんが福岡にいるのは12月中旬まで。残りわずかな福岡暮らしだけど、福岡、さらには九州各地のヴァン・ナチュール仲間から愛される彼女の送別会は、何度も開かれる予定とか。
またいつか、福岡の街で“はしご酒”しましょうね。