西麻布で営業をしていたフレンチレストラン『ワインバー&レストラン エラン・ヴィタール』が代々木の地に移転して、コンセプトを新たにニューオープンした。料理界に旋風を巻き起こした『エル・ブジ』の料理に代表される“分子ガストロノミー”を取り入れながら、味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚すべてを刺激する“5Dレストラン”、『elan vital(エラン・ヴィタール)』として復活した。
シェフの深作直歳さんは、和食店で修業を積んだ後、フレンチの世界に飛び込んだという経歴の持ち主。「和食の世界は、とても伝統を重んじる世界でしたが、僕は新しい技術や技法を取り入れたフレンチに興味が沸き、フレンチの世界に入りました。和の要素も柔軟に取り入れながら、五感で味わってもらう分子料理を追求しています」と話してくれる。
料理は驚きの演出の連続
「アミューズです」と出てきたのは、鳥の巣の上に卵が乗った一品。虚をつかれたような驚きがまず広がる。「卵カルテット」と名付けられたこの料理は、カニのムースの上にウニ、イクラ、キャビアを添えたもの。4つの素材が奏でる味わいから、カルテットとその名を付けたそう。『エラン・ヴィタール』ではペアリングコースのみを置き、料理にはソムリエが選んだペアリングの酒がつく。こちらの料理に合わせた1杯は、名を同じくしたカリフォルニアのスパークリングワイン「カルテット」。シャンパーニュの「クリスタル」で知られるルイ・ローデレールがカリフォルニアのアンダーソン・ヴァレーで手がけたスパークリングは、味わいもシャンパーニュの格に負けずとも劣らない。
次に出てきたのは桐箱。その中には和菓子の包みが入っている(写真・上)。包みを開けると「フォワグラ最中」の登場だ(写真・下)。最中の中には、フォワグラと餡、クルミをバルサミコと生クリームで合わせたものが入っている。濃厚な甘みがありながらもバルサミコの酸味ですっきりとまとまった一品だ。
こちらには、栃木県の日本酒「仙禽」を合わせる。「フォワグラは、甘いワインを合わせてもおいしいですが、甘みもありながらさっぱりとした口当たりの「高知 亀泉」を合わせることで、和の雰囲気を演出したかった」と深作さんは話してくれる。
この桐箱の「フォワグラ最中」は味わいもさることながら、提供された時のプレゼンテーションに誰もが度肝を抜かれるはず。それがプロジェクションによる演出効果だ。桐箱が供されると、突然、照明が落ち店内は真っ暗に。テーブル上の桐箱に、天井真上から約20秒間の動画・プロジェクションマッピングを当てて、浮世絵が浮かび上がってくるという目にも楽しい演出(写真・上)を施しているのだ。プロジェクションマッピングは各席の真上に設置されているので一人ひとりが体感できる仕組み。サルバトーレフェラガモの広告映像制作のほか、数々の映像デザインを制作しているイタリア出身のジョバンニ・アンティニャーノ氏がそのプロジェクションマッピングを手掛けており、柔軟な発想で人々をあっと驚かせる。
続いてメイン料理は「牛と縄」(写真・上)。ユーモアにあふれたメニュー名で、山形牛のローストをポン酢ベースの特製ソースでいただく。飾りのようにあしらわれた縄も、もちろん食べられる。この素材は非公開とのことなので、食べてからのお楽しみだが、山形県産のある食材に味噌で味付けをして、縄のように編み込んだもので、その食感がまた面白い。山形牛のローストとも相性はばっちりだ。
合わせるお酒は、日本産の土づくりからこだわって造ったブドウの赤ワイン。「ストーリー性を感じる料理を作りたい」という深作シェフならではの合わせ方だろう。
そして次に出てきたのは、これまたびっくりの盆栽のようなもの(写真・上)。「どこが食べられるの?」と疑問が浮かぶが、テーブルを賑やかすために出てきたのではなく、グラニテとして登場。
実は花の部分が食べられるようになっている。口に入れるとパチパチとした食感と梅の酸味が広がり、口直しにはぴったり。「店をオープンして、お花をいただく機会が多かったのですが、この花も食べられたらいいなと思ったところから、このグラニテを思いつきました」(深作シェフ)。
最後のデザートとして登場したのは白い球体(写真・上)。手前のQRコードは、店のフェイスブックページに飛ぶという。「SNSでチェックインしやすいように、遊び心でつけました」と深作シェフは笑う。
テーブルに置かれると、こちらも店内の照明が暗くなり、天井からプロジェクションマッピングの動画を当てる仕掛けになっている。その映像が写真・上だ。実際の動画を見たい人は同記事サイトを下までスクロールしてみよう。球体の上に地球が映り、まるで宇宙空間にいるような感覚に陥る。プロジェクションマッピングが終わると、机の引き出しに用意されたトンカチで球体を割り、その中にさらにデザートが登場するが、何がでてくるのかは、ネタばれになってしまうので非公開。実際に訪れた時の楽しみにとっておこう。
細部にまでこだわった仕掛け
テーブルに備え付けられた鍵付きの引き出しには、さまざまな“道具”が置かれている。こちらもすべて料理に使うもの。例えば一番右のチューブは、パンに塗るバター。スコップのようなスプーンやピンセットは自分で作るサラダのためのアイテム。トンカチはデザートに使用。左の引き出しにあるビーカーに入っているのは食後のコーヒーのための砂糖など。一見、何に使うのか想像もできない道具たちだが、すべて料理を一歩進んで楽しむための仕掛けなのだ。
5Dレストランを作ったその理由とは!?
『エラン・ヴィタール』は五感すべてを使って料理に向き合うことができるレストランを目指すが、このような店を作った理由を深作さん(写真右)はこう話してくれる。「和食は引き算の料理ですが、フレンチは素材とソースのマリアージュで足し算の料理。その面白みにどんどんのめり込んでここまできました。テーブルの上すべてを皿に見立てて、料理、映像、音楽と五感で楽しんでほしいと思っています」。一つひとつの料理にはテーマがあるが、この発想を得るために日常生活で直面するシーンからさまざまなインスピレーションを得ているという。
おいしい野菜がどう作られるのか農家を訪れたり、香料を扱う会社へ行き嗅覚はどのように刺激されるのかを勉強したり、『食べられるシャボン玉が作りたい』と大学の教授に会いに行ったり、ネイルアートの技術を料理に転用したり……と、シェフの勉強の幅はとどまることを知らない。「実際、試行錯誤の連続です。料理を10品作ってもその中の9品が失敗作。それでも、料理というジャンルを拡大解釈して、自分にしか作れない世界観を作っていきたい」と深作さん。
特別な日には、ぜひともこの体験型の“5Dレストラン”に出かけてみてはいかがだろうか。新鮮な驚きと、笑みが絶えない食事の時間を約束してくれるだろう。なお、プロジェクションマッピングの関係上、昼も夜もペアリングコースのみ。ランチのスタートは12時または15時から、ディナーは19時から完全予約制となっている。
(文・取材/千葉泰江、撮影/浅山美鈴)
【メニュー】
ワインペアリングとフルコース16,000円
※価格は税込
elan vital
- 電話番号
- 050-5492-9437
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 12:00~20:00
- 定休日
- 不定休日あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。