前回が日本の「地方料理」だったので、その延長線上で外国料理について考えてみる。
バスク料理についてはスペイン北部のバスク州のものなのか、フランスを含めたバスク人由来のものなのかよく知らないが、「とても合う」という自分のなかのイメージがある。
初めて知ったのは、アラン・デュカスが出していたブーダン・ノワール(血のソーセージ)であり、とてもおいしかった記憶が舌に刻まれている。
わたしのオフィスの向かいに、大阪のスペイン料理店グループの『エル・ポニエンテ』がやっているバスク料理店『アマ・ルール』がある。
5年前の開店当初からぽつぽつという具合で行くようになって、現在は毎月のペースで必ず行くようになった。
昼にやっている1,080円のランチも安くておいしい。
はじめにスープが出てくるのだが、ニンニクのスープやポタージュにこの店の持ち味がよく出ていると思う。
それはバスク料理の特徴がそうであるのか、そうでないかも知れないが、こういうふうにして「なんとなく」「いつしか」他国の料理に親しむのはラッキーである。
この店は淀屋橋とキタに6軒のスペイン料理店を展開する『エル・ポニエンテ』のボス・小西シェフによる店の1軒だ。
以前、中之島の旧ダイビル本館にあった『エルポニエンテ・カボ』とオフィスが同フロアだったこともあって、昼も夜もそれこそ毎週のように食べていた。
『エル・ポニエンテ』の料理は完成度が高くて実に楽しい。
その中にあって『アマ・ルール』は、「スペイン・バスク料理店」として異彩を放っている。
それがわかるのは、もちろん『エルポニエンテ・カボ』によく行っていたからであり、同じグループの『アマ・ルール』の料理についての「ちょっと違うスペイン料理だな」という実感は、カボであれこれと食べた実経験があってこそリアルに感じることだ。
行ったこともないスペインの地方料理であっても、スペイン料理に対しての自分の「基点」をしっかり持っていると、よけいに近づきやすくなるのは事実だ。
ただその場合、中国やインドの地方料理でもそうだが、自分の「既知なるもの」の延長線上に落とし込んだり、カテゴリー的に類型化するのはあまり有効ではない。
「ならでは」の楽しみを削いでしまうからだ。
例えば中国の福建料理であれば、地理的に上海や広東の間にあるからちょうど中間ぐらいの味であるはずで、アイテム的には華北の餃子や饅頭とは違うなどと類推したりする。
とっかかりとしてそれはそれで良いのだと思うが、あとで思い知ることは福建地方のテロワールの多様さとその偉大さだ。
なんでも「想定内」「類概念」で捉えようとするところに、プチ・グルメたちの不毛な陥り方と貧弱さがある。
何回も書いたりしているが、「うまいもの」は消費情報でない。
広く知られたり評判として流通する店名は、ファッションのブランド名のようなものだが、「スペイン・バスク料理」のような具体的な「そのもの」は、記号を超えたところに「おいしさ」があると思った方が楽しい。
地方料理のバックボーンには、その土地の動かない歴史があって、そこで積み重ねてきた人の営みがあり、その土地ならではの食材や調理法もその上に成り立っている。
もちろんいやまた、ある意味「その店の料理」としては「個別」なものだ。
例えば『アマ・ルール』のメニューは、「イワシの酢漬け」「炭焼き玉ネギの冷製アンチョビ風味」「アサリと生ハムの炊き込みご飯」などといった書き方がされていて、なにひとつバスク料理を象徴する「ブランド名」や「固有名詞的」なものはない。
このカジュアルなレストランで出される料理は、その土地の食文化への敬意や創意工夫のうえに成り立つスペイン・バスク料理であって、それ以上のものではない。
知らない料理を知らないままで食べることは、なかなか厄介なことであるが、その日その時、食べたことのない外国料理の「かけがえのなさ」と、何回もその店行って「馴染んだ味」にくつろぐことは、「おいしさ」においては相反しない。
むしろそれらを行ったり来たりする「反復」こそが、外国料理の奥行きへのアクセスの仕方のひとつなのだと思う。
アマ・ルール
- 電話番号
- 06-6451-8383
- 営業時間
- 11:00〜14:00、17:30〜22:30(金・土・祝前日〜23:30)
- 定休日
- 日曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。