あの『ル・サンク』から生まれた、パリでも大注目の正統派・若手シェフのレストラン『ロランジェリー』

パリ在住。パリのレストラン経営コンサルタント。余暇はヨーロッパ内の美味しい料理と食材とワイン探しに余念がないグルトンヌ(大食い)。好きな言葉は「美味しくないものを食べて飲んでいられるほど、人生は長くない。」

2017年01月08日
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あの『ル・サンク』から生まれた、パリでも大注目の正統派・若手シェフのレストラン『ロランジェリー』
Summary
1.約90年の歴史を誇るパリの名門ホテルの新しいレストラン
2.メインダイニング『ル・サンク』から巣立った実力派シェフ、ダヴィッド・ビゼ
3.仕事ぶりは真摯で誠実なシェフのスペシャリテは、リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル

2016年6月にオープンしたばかりの『L’Orangerie (ロランジュリー)』。
「フォーシーズンスホテル ジョルジュサンク」のメインダイニング『Le V(ル・サンク)』のすぐ横に位置しており、かつて『La Galerie(ラ・ギャルリー)』として客を迎えていたテラス部分を別のレストランとしたこの『L’Orangerie』では、客席数20席の、天井が7メートルの高さの温室のようなガラス張りの明るく開放感のあるテラスで、季節を感じながら食事が出来る。晴れた夏には、昼は燦々と陽が射す明るいテーブルを囲み、夜はなかなか陽の沈まないパリの長い夜を楽しめる。窓を開ければさわやかな風が吹き抜ける。寒い冬は窓の外の特設のアイスバー(室温が−8度から−15度に保たれた、内装全てが氷で出来たバー)や中庭の小さなマルシェ・ド・ノエル(クリスマス市)やクリスマスの飾り付けを横目に、ぬくぬくとお食事ができるのだ。

老舗の高級ホテルがテラスを別レストランとするという取り組みをした目的は、シェフによると「料理人同士のよい競争心をあおり、サービスの向上に資すること」なのだそうだ。

注目すべき若手シェフ、ダヴィッド・ビゼ

シェフのDavid Bizet(ダヴィッド・ビゼ)はメインダイニングである『Le V(ル・サンク)』でオープニングから17年勤め、待望のシェフの地位についた若干38歳の若き新星。新星ではあるが、いま流行のヒップスター気取りの料理人(=うわべや雰囲気やマーケティング力で勝負する料理人)なんかでは決してない。長年老舗の最高級レストランできっちりと基本を忠実に料理を学んできただけあって、仕事ぶりは真摯で誠実。シェフは「現在は自分のアイデアでやることができるようになった」と嬉しそうに語る。聞いているこちらがわくわくして嬉しくなってくるほどのやる気のみなぎりが感じられる。

既に1つ星以上の実力はあると言って間違いない

客のことを考えて、このレストランはできている。
シェフは客が食べ方や食べるものを選べる事が重要であると考えており、アラカルトで頼みたい客、短いコースや長いコースで食べたい客、それぞれの要望に応じられるよう、メニューが構成されている。
毎日、アラカルトの皿が数多く用意され、コースメニューが2種類、デギュスタシオンメニューが1種類。これはオープンしたての小さなガストロノミックレストランでは普通は無理な事。原価をおさえるため、料理に集中する為、コースメニューを1種類しか提供しないレストランも多いのがパリの現状である。しかし、この取り組みは高い目標を掲げるDavid Bizetにとっては普通のことなのだろう。

20席と限定されたテラスにやってくる客のためにできたレストラン、彼がこのレストランだけの為に率いている新しいチームのメンバーは8名。とはいえ、『ル・サンク』時代からともに働いているメンバーが数名、その他のメンバーは、彼が1年以上前から探し、オープンのずっと前から採用し、シェフのスタイルに慣れてもらう目的で共に働いてきた。

シェフのメンバーに対しての信頼は非常に厚い。チームについて話を振れば、言葉の端々にチームメンバーへの敬愛があふれる。チーム内の互いへの信頼があるからか、出てくる料理の完成度の安定感は抜群。若きシェフのクリエイティブな感性と洗練と繊細さ、料理人としてしっかりとしたベースのある彼だから出来る、「奇抜なだけの新しい試み」とは異なるシックでモダンな感性が味わえる料理。自然を愛し、地方の食材を活用している。味ももちろん素晴らしい。コースが進む過程で、徐々に塩加減が程よく強まっていき、メインの肉料理に到達するまでは美味しくワインを飲みすすめられ、その後は心地よく口直しとデザートに進める。
オープンしたてのレストランにありがちな「皿による質のばらつき」「調整中」「安定しない」「メインでがっかり」という言葉はこのレストランの表現には不要だろう。

数年前に、Bocuse d'Orでグランプリをとったシェフによる地方のとあるレストランに行った際に、見た目は美しくて凝っているが、最初からコースの各皿の塩の量が単調に多すぎて、素材の事も、コース全体の事も、客のことも一切考えていないんだろうな、と思わせるレストランに当たったことがある。この記憶に、この『ロランジュリー』のコースメニューは既にそんなレベルは軽く凌駕していると確信させられた。

訪れた日は天気も良く、明るい陽射しの中で、一番長いコースであるムニュ・デギュスタシオンを試した。ここで、一部をご紹介することとしよう。シェフのスペシャリテである野うさぎの皿、リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤルは今回はおあずけ。次回訪れる時の楽しみとなった。

ホタテの皿には栗と菊芋のチップスと香り高い白トリュフが添えられている。ホタテの火入れはもちろん完璧で、程よい質感の栗と菊芋のソースをホタテがきれいに纏い、絶妙に美味い。

最後のメインの鳩はシェフの得意料理。素晴らしい火入れの鳩の皿には黒オリーブが用いらていれる。なんだか無性に南仏が恋しくなってしまう。

デザートは、シェフが絶大な信頼を寄せるシェフ・パティシエのマキシム・フレデリックによる、バラの花の姿を模したメレンゲと柑橘のデザート。レストランで食べるデザートは、皿に盛りつけられてテーブルまで運ばれて口に入るまでの一瞬のきらめきで成り立つ。繊細で、優美で、美味しくて。でも、それだけではつまらない。それらに加えて創意工夫や季節感のあるデザートが私は好きだ。その意味では、これは最高のデザート。

心地よい緊張感の中、高い志のもと、シェフのダヴィッド・ビゼの努力と献身の日々は続く。

<メニュー>
アラカルト 28ユーロから
ムニュ・デクーベルト 95ユーロ
ムニュ・デギュスタシオン 125ユーロ

予約は下記ウェブサイトの右上のRÉSERVERをクリック。
http://www.lorangerieparis.com/

L'Orangerie - Four Seasons Hotel George V

住所
31 Avenue George V | Four Seasons Hotel, 75008 PARIS FRANCE
電話番号
33 1 49 52 72 24
営業時間
7:00~22:30
定休日
無休
公式サイト
http://www.lorangerieparis.com/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。