週一回、大阪府東大阪市にある「近畿大学」へ非常勤講師で行くようになった。
近畿大学は3年連続で志願者数日本一に輝く、今最も元気ある大学だ。「近大マグロ」でも注目されている。
最寄り駅の近鉄長瀬駅から大学正門までは昔懐かしい学生街である。
大阪府内の大学は70年代以降、国公立市立を問わず市街地から北摂や泉南などの郊外へ移転するケースが多く、それで古くからの学生街のある大学は近大ぐらいである。
学生街の飲食店は侮れない。
とかく「安い、ボリュームある」だけで捉えられがちである(確かにそういう節もある)が、この「近大前」の場合、東大阪商工会議所主催の「お好み焼きグランプリ」の金賞を2年連続受賞したお好み焼き店『てらまえ』がある。
ここのお好み焼き、とくにモダン焼き系は絶品だ。
レギュラーのモダンミックスは豚、イカ、エビのモダン焼きに、最後の焼き上がりを生卵にのせひっくり返して半熟状態にする。
ここのお好み焼きに共通するのは、キャベツの量に対しての粉の少なさだ。ゆえにモダン焼きなど普通のお好み焼き屋の2倍の量なのに、食感が軽くてペロリといける。
「御堂すじ」はここ15年ぐらいの大ヒット作。
ぐりっと大きな牛スジとキムチがトッピング。スジの焦げた脂とキムチのピリ辛酸味で、これはビール進む。
圧巻は「ホルどん」で、ホルモン焼きに使うテッチャンのシマ腸とうどんバージョンのモダン焼き。
シマ腸はお好み焼きにおいしいように脂の部分を多めに残してあり、鉄板でカリッと焼けた部分が香ばしく、その時に出る熱い脂でうどんのちょっと焦げた具合がこれまたたまらなくビールを呼ぶ。
なるほど「そば」ではなくて「うどん」やねんな、である。
この『てらまえ』の話、ちょっとおまけを…。
たまたまわたしが出講をしている学部の事務長が、田中穂徳(ゆきのり)さんである。
田中さんは88年ソウルオリンピックの水泳日本代表選手で、オリンピック・メダリストを何人も出している名門・近大水上競技部監督を経て、現在は副部長の要職も兼任している。
田中さんは近大附属高から近大に進んだ、日本を代表するトップスイマーであるが、記録連発で各高校から勧誘されていた中学3年の夏の終わりに、近大附属の練習に参加した。
帰りに先輩に連れられてこの店に来た。
「そばロール(今でいうオムそば)」を食べた中3生は、「こんなうまいお好み焼きがあるんか」と思った。
今から30年以上前の話だ。「それで近大へ進んでオリンピックに出られたんだから、あの時の選択は間違ってなかったんです。当然、水上競技部の監督もしてなかった。山本貴司や寺川綾、入江陵介らもうちから出てなかったかも知れんなぁと……そう考えるとこの店は、どえらい影響力ですわ」と豪快に笑う。
世界を転戦して「うまいもの」を食べてきた田中さんは、大阪ミナミではグルメで知られている。
30年以上通う『てらまえ』では、そばロールから始まりモダン焼きにはまり、やっぱりシンプルがいいと豚玉とライスになり、今は「御堂すじ」だとのこと。
見事なお好み焼き変遷である。
お好み焼 てらまえ
- 電話番号
- 06-6725-3271
- 営業時間
- 11:00~15:00(L.O.14:30)、17:00~23:00(L.O.22:00)、土・日11:00~15:00(L.O.14:30)、17:00~22:00(L.O.21:00)
- 定休日
- 月曜(祝日の場合は翌日)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。