鍋料理は「気心知れたメンバーで」というのが鉄則だ。
逆にいうと、好きでない人や上下関係がはっきりしているメンツで鍋を囲むのはあまりよろしくない、ということになる。
すき焼きで抜群にサシの入ったロース肉の薄切りを前にツバを飲み込みながら我慢したり、カニすきで目の前のぶっとい脚をとらずに控え目にする、というような「行き過ぎた遠慮」の経験は誰しもあるものだ。
まあ激しい肉の争奪戦に火花を散らしたり、身をほじるのに必死で無言になる、というような「まるで無遠慮」状態の鍋もどうかと思うが。
そのために「鍋奉行」があるのだろうが、唯我独尊の奉行が仕切ったり、いきなり目上の人から押しつけられたり、結果的にそれもやはり嫌なメンバーということになる。
そういうことを気にしないで心おきなく楽しむためには、いろんな鍋に慣れること、これに尽きるのだが、てっちりにしてもカニすきにしても満足に到達するためには、相当の出費が必要となってくる。
その点『美々卯』の偉大な商標登録「うどんすき」は、理想的な鍋ではないかと思う。
あまり親しくないメンバー(笑)だと余計に実力を発揮するのだ。
まず圧倒的な具の質・量。クルマエビ、ハマグリ、アナゴ、鶏肉、椎茸、小芋、白菜、湯葉…といったものだが、始めに仲居さんが来てくれてそれら具材の半分ぐらいを入れてくれる。
数はちょうど人数分なので誰にも明快だし、なによりも「ええ具材を一杯入れたら、ええだしが出ておいしいやろ」という大阪的な気楽さが、初めての人同士でも鍋コミュニケーションをスムーズにさせる。
そして「最後はおのおの、うまいだしのうどんを食べたいだけ食べれば良い」という、ゴールのわかりやすさがある。
だいたい年に1回は思いついたように必ず行くが、つくづく「ほんまに良くできてる」と思うのだ。
おまけに値段も本店のずわい蟹脚つきのコースで4,500円。仏レストランのコースや割烹の懐石の半分の値段。
この老舗で鍋料理についてのあれやこれやがわかることも多い。
最後に蘊蓄グルメ話が好きな人のために。
『美々卯』は堺の発祥でもともとが蕎麦屋。「うどんすき」は創業者の薩摩平太郎、妻キクの考案試作により昭和3年に完成。
極め付きはやはりだし。土佐清水のメジカと利尻の昆布で朝2時間かけてだしをとる。そこへ香り付けの枕崎の鰹を入れる。香りが命の鰹は毎朝削っている。
素晴らしいのは、いろんな具材を煮込んでアクが出てダシが濁らないように、おのおの下ごしらえをしてある。
だしとそれら具材のうまみが十分溶け出したつゆをうどんが吸って食べ頃になるように計算されている。
最も大阪らしい食べ物といっても過言でないと思う。
美々卯
- 電話番号
- 06-6231-5770
- 営業時間
- 月~土 11:30~21:30(L.O.20:30) 月~土 11:30~22:00(L.O.21:00)((12月))
- 定休日
- 毎週日曜日 祝日 ※(一部を除く)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。