レストラン業界のトップ集団の店が西麻布にある!
満を持してとはこのことだろう。『アピシウス』でサーヴィスのプロとなり、長年『カンテサンス』でディレクトールを務めた小澤一貴氏が、ずっと大切にしていた仲間たちと共にオープンさせた店。それがフレンチレストランの『クローニー』だ。場所は西麻布、そしてシェフに迎えたのは同じく『カンテサンス』で岸田周三氏に師事後、北欧、北米で修業してきた春田理宏氏である。春田氏だけではない、この店のスタッフはソムリエ、サーヴィス、料理人とそれぞれその分野で有名な凄腕スペシャリストたちである。
上質でリラックスできる空間で最高の料理を楽しんでもらうため、ナプキンもグラスも器もカトラリーも何もかもすべて皆で話し合って決めた。例えばナプキンは正式なフランス式である麻を使ってインドで特別に製作しており、女性の膝がすっぽり隠れる70cm角に。なぜか? それはテーブルクロスがないこの店のどこからでも膝下を見られないようにという配慮だ。どんな些細なことでも計算し尽くされている。「すべてはお客さまのために」、その気持ちがこの店の一体感を生んでいるのだ。
「美しさと驚き」、革新的な料理に裏打ちされた確かなフランス料理の技法
春田シェフの料理は余計なものを加えず、日本の食材の“今”を大切にしたものだ。フランス料理であることを前提にニューノルディックのエッセンスを融合している。まるでコースというひとつの音楽の中でそれぞれの料理が楽章を奏でているようだ。
3種のスナックの後には熱い牛テールスープが出て、次は冷たい前菜の「ホースラディッシュ パセリ 鯖」だ。鯖を酢漬けにして皮を焦げるくらい焼いている。液体窒素をかけたパセリとホースラディッシュと共にいただくのだが、面白いのが主役は鯖でなくホースラディッシュとパセリということだ。このソースに鯖をつけて食べる。ありきたりではなく「なに、これ?」と思わせるのが春田シェフの料理。
続いては温かい前菜である「ホウレン草 ミル貝 クリーム」。さっと火を入れたミル貝が下に隠れていて、噛んだ時のミル貝のうまみ、ホウレン草の甘さと塩みを感じるひと皿。ハーブオイルとクリーム、貝のだしで作ったソースが新感覚。重くなりがちなクリームのソースだが、貝の風味が際立っているので軽い。普通ならバターソテーするとくたっとなるホウレン草だが、これは葉もしっかりしていて甘みが強い。だからソースをかけるとまた味わいが変わる。この緑色、とにかく見た目のインパクトがあり記憶に残る。
このあとは自家製のパンがくる。普通は2次発酵までさせるが、シェフは1次発酵したあと鍋に入れて焼く。するとまわりはカリッとした揚げ焼きのようになる。最後に高温のオーブンで仕上げれば、甘い香りとモチっとした食感がクセになる。
酵母は研修先だったサンフランシスコ『セゾン』のシェフから最後の日に分けてもらった大切なもの。ヨーグルトの上澄みを入れたホイップバターをつけると格別。このパンは対比がテーマ。重たいパンと軽いホイップバター、ガリガリとふんわり。いわゆるパンではない、れっきとした料理なのだ。
そして魚、肉、チーズ、デザート、アイスクリームと続き、最後に「ミニャルデーズ」で終わる。運ばれてきたものはゴロゴロっとした石。一瞬何を食べれば良いのかわからず本気で観賞用かと思ったほど。石ころに見立てたヘーゼルナッツのクッキーはとてもソフトな食感で噛むと言うより溶けていく感じ。ヘーゼルナッツの香りが余韻となって漂い続ける。間違って石を食べないように!
春田シェフは皿を考える時にまずパーツをひとつ決める。例えばホウレン草といったようにメニューのはじめに記載されているものがそれである。そしてそのパーツに合うものを足していく。皿の上にのせるものは極力少なくして、いま何を食べているのかがはっきりとわかるようにしている。だから印象的なのだ。
では客から「ホウレン草がすごくおいしいって言われたら勝ちですね」と言うと「はい、ものすごく嬉しいです」と。「ミル貝って言われたら?」「そこじゃないんだなぁみたいな(笑)。でも楽しみ方は人それぞれなので、やはりおいしいと言われれば素直に嬉しいです」と言う。カッコ良いけれど、おっ!と思わせるお茶目な面がある。料理もシェフも似ているのかもしれない。
料理、ワイン、サーヴィス、空間、この一体感が心地よくさせる
なぜ小澤氏はシェフに春田氏を迎えたのだろうか。パリの三つ星レストラン『ルドワイヤン』から日本に戻り、約2年間『カンテサンス』で一緒に働いていた時、春田氏の作る賄いにその才能を見出していた。技術の高さ、味のセンス、料理に対しての意識、そして何よりも普段の立ち居振る舞いから感じる人間性を買っていたと言う。
いつかまた春田氏と仕事をしたいと思っていた。春田氏はその後、北欧へ旅立ちデンマークの一つ星で最先端の料理と言われる『カドー』、北欧初の三つ星を獲得したノルウェーの『マエモ』で研鑽を積み帰国。だが、その時点ではまだ小澤氏の準備が整っておらず断念。しかし2016年の夏、オープニングメンバー5人の体勢が整い、この度かねてよりの念願が叶ったというわけだ。
『Crony』の魅力は料理だけにとどまらない。スタッフ全員がミーティングを重ね、料理や合わせているワインの意図、客の情報を共有し、サーヴィスにあたることで一体感が生まれ、店全体で魅力を引き出している。内装もその一役を担っている。クラシックなフランス料理をベースに北欧での経験が重ねられた料理に合うように、ヨーロッパのアンティークな趣を残しつつ北欧のモダンさを取り入れている。英国王室御用達の「FARROW & BALLの壁紙とペイント」、「DAVID MELLORのカトラリー」、北欧デザインの不朽の名作「Hans・J・WegnerのY-チェアー」、この店にいることが本当に心地よく感じるのだ。
こちらでのもうひとつの魅力がワイン。『カンテサンス』の料理に不可欠とさえ言われた小澤氏のペアリング。こちらでも春田シェフの料理に時には寄り添い、時には主張し合うワインがいただける。
価格帯の幅、振り幅、アイテム数とどの価格帯でも客が選びやすいようにと作られたワインリストには料理の方向性に合うようフランスワインを中心に、ストーリー性のあるものが揃う。
また小澤氏は自身がおいしいと感じたものしか選ばない。だからグラスワインにも絶対の自信があると言う。客の飲む量に合わせた提案力の高さも魅力。例えば今日はグラスで1杯しか飲めない場合、自分で1杯のグラスワインを頼むのではなく、小澤氏に相談すると、量を調整してトータルで1杯分になるように、料理に合わせて何種類かのワインを提供してくれる。そうすることで料理が活き、コースの最後までワインとともに楽しめる。
旧き良き仲間たちによる完璧なるホスピタリティが永遠を創り上げる
実際のところ何人まで目が届くのかという不躾な質問をしてみると、「ひとりで27席全てを完璧な状態にするのは無理です(笑)。しかし昔からの仲間で作った今回のチームなら可能です」。スタッフ全員、修羅場はくぐってきたのでよほどのことがなければ焦らないそう。しかも客の好みや飲んだワイン、コメントまでもすべての情報を全員が把握しており、事前にシミュレーションし全員で準備する。これにより当日はスムーズにオペレーションが行われる。発注も予約時にデータから予測してかけることができる。その情報は閉店後に入力するそう。ワインは空のボトルを見れば思い出しもするが、会話の内容はすべて記憶の中から出す。8時間の営業、個室を入れて27席、どれだけの言葉を交わすことだろう。それをほぼ記憶しているのだ。これがプロフェッショナルの仕事なのだと感服する。
こうも完璧だと覚えない人と一緒に仕事できないのでは? 「記憶がないと言われるより意識の低さが問題です。お客さまとテーブルを観察していれば覚えていないということはないので。今はむしろ僕が教えてもらうことがあります」と笑う。スタッフには「観察すること」、「表情を見ること」、「話を聞くこと」を徹底している。情報はあればあるだけ良い。客に「楽しかった」と言ってもらえることがいちばん嬉しいと言う。
店名の語源はギリシャ語の「永続」、そして意味は「親友、旧友、仲間」。“仲間と永遠に”という想いを込め、小澤氏が旧き良き仲間たちと客を巻き込むように近いところで仕事をしていきたいとこの店を作った。大切なのは“人”。この店に訪れてくれた人とこれからずっと永い付き合いをしていきたいと願う。良いレストランとは総合力であると実感できるだろう。
(メニュー)
ディナーコース/12,000円 18:00〜22:00(L.O.20:00)要予約
ペアリング/6,000円〜
アラカルトもあり 21:00〜26:00(L.O.25:00)
※すべて税別、サーヴィス料10%
Crony(クローニー)
- 電話番号
- 050-5487-1041
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 月~土・祝前日・祝日
ディナー 18:00~23:00
(L.O.20:00)
- 定休日
- 日曜日
不定休あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。