渋谷から東急東横線で約10分の都立大学は、閑静な住宅街にもかかわらず、知る人ぞ知るこだわりのお店や緑の多い公園などがあり、見どころが詰まっている街だ。そんな自然と都市が融合する都立大学の駅前にビストロ『hugo (ユーゴ) 』がオープンした。
都立大学駅から徒歩1分、線路沿いに見える『hugo』
ビルの二階にひっそりと現れた、隠れ家的なビストロだ。店内は、街の雰囲気にあった、温かなウッドを基調としている。
燻製醤油の豊かな香りに包まれた力強くも美しいグリーンサラダ
一品目に出てきたのは、緑あふれる都立大学と共通点を感じる「タコ、アボカド、パクチーのサラダ」。みずみずしいパクチーとグリーントマトが美しい緑のひと皿。
パクチーの爽やかな香りに包まれながら、一口。グリーントマトは赤いトマトよりさっぱりした甘さだ。サラダの山をかき分けると、クリーミーなアボカドが現れる。舌触りの良いアボカドとタコの食感の違いも楽しい。パクチーの清涼感が全体の味を包み、一足早く春の風を感じさせるような味わいだ。
自家製のドレッシングは、レモン汁と塩、ビネガー、燻製醤油を合わせている。燻製醤油は、軽井沢で作られている「風の仕業」のもの。信州上田で昔ながらの本醸造製法で作られている燻製醤油で、スモーキーな香りがアボカドやタコと相性抜群。葉物野菜の香りも格段に豊かにしてくれる隠し味だ。
国産、天然のアナゴをビストロの味付けで楽しむ
ふんわりと香ばしいかおりが店内に漂う。この香りの正体は、岩手県三陸産の国産アナゴ。日本人が好む食材、天然のアナゴをビストロで味わえるとは。
天ぷらを彷彿させるアナゴのフリットは、自家製のディルマヨをつけていただく。サクサクの軽い衣を割ると、ふっくらとした純白の身が湯気とともに現れる。ソースのディルマヨは、濃厚かつ酸味のあるマヨネーズにハーブのディルを細かく刻んだものとレモン汁を合わせている。ディルの爽やかな香りが鼻に抜け、淡白なアナゴが口のなかで踊りだす、相性の良いソースだ。付け合わせのクレソンは、揚げ物をさっぱりと食べられるようにビネガーで味付けをしている。ディルマヨとビネガーの酸の違いを楽しむのも良い。
希少なエゾシカのモモ肉と、フルーティーな黒ニンニクのハーモニー
おまちかねメインの肉料理「エゾシカのモモ肉のロースト」が登場。 どっしりした肉厚のエゾシカのモモ肉は、マッシュポテトの上に乗り、美しいワイン色の断面を見せている。
散りばめられているキラキラと光るものの正体は、岩塩。美しいモモ肉にナイフを通すと、うまみ成分が詰まった肉汁がじんわり染み出してくる。まずは、シンプルに岩塩のみでいただく。
ジビエと言うと硬い肉のイメージが強いが、ここで出されるエゾシカは桁違いに柔らかい。ゆっくりとオーブンで火入れされているので、肉汁が十分に行き渡り、うまみがつまっている。良質な水と厳しい環境下で生きた、生命力の溢れるエゾシカのモモ肉は、雪のように細やかな肉質とあっさりした脂肪が特徴的だ。
肉本来のうまみを堪能したところで、赤ワインソースと青森産の黒ニンニクのペーストとともにいただこう。ジャムのようなねっとりとした舌触りと甘みを持つ黒ニンニクのペーストは、肉のうまみをさらに引き立ててくれる。付け合わせの野菜は、千葉県サンバファームの有機野菜を使用している。軽く焼いたケールと赤カブ、マッシュポテト。ケールの程よい苦味、みずみずしい赤カブ、しっとりクリーミーなマッシュポテトが肉の演出に役立っている。
ワインは、白と赤を各3種類ずつ、料理に合うナチュラルワインを揃えている。お通しの自家製オリーブも大ぶりでみずみずしく、レモンピールの爽やかな香りづけがしてあり、とてもおいしい。土日は、2,500円のコースでスープ、前菜、メイン、デザート、ドリンクが存分に味わえるランチメニューも展開している。近隣に住むマダムたちにも、瞬く間に人気になりそうだ。
五感を心地よく刺激してくれる佐々木シェフの料理とは?
『hugo』で腕を振るうのは、代々木上原の名店、『Gris』で3年間シェフとして活躍してきた佐々木 啓太氏。背伸びしない、だけど訪れた人をとても贅沢な気持ちにさせてくれる佐々木さんの料理は、長年培った経験とセンスが生み出す技である。
出される料理の盛り付けと共にうっとりしたのは器の美しさ。笠間焼やオーストラリアの焼き物など、センスのいい器が料理に花を添えてくれる。オーストラリアの作家luna ceramicや笠間焼の作家、根本幸一、鈴木宏美などの作品が揃っている。「器は昔から大好きで、自分でも作るくらいです」と照れくさそうに教えてくれる。口数が少ないながらも、料理への思いや器へのこだわりの強さが伝わって来る。
お店の名前『hugo(ユーゴ)』の由来とは?
お店の名前『hugo(ユーゴ)』は、伊坂幸太郎の小説「オーデュボンの祈り」に出てくる、しゃべるカカシ優午(ゆうご)からとっているそうだ。この小説では20世紀初頭に絶滅してしまった渡り鳥・リョコウバトが話の鍵となるのだが、そこからインスピレーションを受け、店内にはアンティークの鳥の絵が飾られている。
自分の目の届く範囲で満足の行く料理を出したいという思いで、席数は16席のみ。料理が人と街を繋げ、渡り鳥のように素敵なストーリーを繋いでいくにちがいない。さらに進化をするであろう『hugo』に期待が膨らむ。
メニュー
・タコ、アボカド、パクチーのサラダ 1,500円
・穴子のフリット ディルマヨ クレソン 1,600円
・エゾシカのモモ肉のロースト 黒にんにく カブ 2,800円
※価格すべて税抜、チャージ、パン代として別途500円
・土日祝日限定 ランチコース 2,500円
※価格は税抜
(取材・文/矢野詩織)
hugo(ユーゴ)
- 電話番号
- 03-5726-9728
- 営業時間
- 平日 17:30-23:00 (22:00L.O.) 土日祝 ランチ12:00-14:00 (14:00 L.O.)/ ディナー17:30-23:00 (22:00L.O.) 定休日 水曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。