酒呑みにとっての聖地はどこか。この問いに対して唯一絶対の明快な回答を出せる人はいない。ある人にとっては赤羽だろうし、立石に決まっているじゃないかという人もいるだろう。その他、新橋や神田など「酒場の聖地」はあまたある。
では「焼肉の聖地」はどこか。全国をぐるりと見渡せば大阪の鶴橋、川崎のセメント通りなど焼肉店が集中する「聖地」とみなされるスポットはある。東京にしても、北区・鹿浜の『スタミナ苑』のようにそう言われる店はあるが、「町としての焼肉の聖地」はあまり可視化されてこなかった。
ところが昨年、20年ほど前に住んでいた町を歩いて気がついた。どうやら焼肉店が増えているようなのだ。ふらりと何軒かのれんをくぐってみた。カウンターだけの店もあれば、食べ飲み放題でもないのに90分一本勝負の店もある。実にバリエーションが豊富になっている。
だが共通項もあった。一人客に対応してくれる店が多いのだ。近年、立ち食い焼肉チェーンの台頭もあって、「一人焼肉」のすそ野は広がったが、この町では立ち食いでなくとも、一人で肉を食べに来る客が多い。そして店側も当たり前のように一人客を受け入れている。というわけで、最近僕はこっそりこの町、高円寺を「一人焼肉の聖地」というふうに位置づけている。
さてある日、今日はどこで焼こうか……。なんて考えながら高円寺の南口を歩いていたら、高円寺パル商店街から脇道に入った暗がりにぼうっと「塩ホルモン」の文字が浮かんでいた。このあたりは、一人焼肉店が多いエリアからはちょっと外れている。
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