これほど口コミの拡散が早い時代になると、「知る人ぞ知る」というレストランは、なかなか見かけないものになってくる。食に特別な関心を持つ人同士のコミュニティになると、良い評判は瞬く間に広がって行く。信頼できる人からの紹介となれば、すぐにでも出かけたくなるのが人の常ではないか。このフランスという広い国では、唯一障害になりそうなのは、物理的な距離。しかしながら、想像もつかないような辺鄙な場所で、「その地域の食材の特性や料理人の個性を反映した食事の楽しみ」を提供するレストランが多々存在するのが、この国の魅力ともいえる。
スペインとの国境にほど近い南の小さな街Montesquieu-des-Albères(モンテスキュー・デ・ザルベール)にあるレストラン、『Le Cabaret(ル・キャバレ)』もそんなレストランのひとつ。スペインに向かう高速道路にある、出口を間違えるとそのままスペインに入国してしまうフランス最後の料金所を出て、夜にもなると真っ暗な闇に沈む森の中の道を進んだ先にある暖かな明かりの建物。賑わう駐車場を眺めると、皆よくここまで来るもんだと、自分たちの事は棚に上げて感心してしまう。
素朴な風情のエントランスを通り過ぎ、店内に入って座るのは、お気に入りの特等席であるキッチン前のカウンター席だ。オーナーシェフのアントワンヌは個性的なキャラクターの持ち主。豪快な彼と時折会話をしながらワインを傾ける愉悦のひとときは格別だ。彼がこの店にいることの楽しみを増幅してくれているように思われる。
ルシヨン地方のワイン生産者であるジャン=フランソワ・ニック(Domaine des Foulards Rouges)とヨヨ(Domaine YOYO)のカップルもお気に入りというこの店。決まったメニューは無く、シェフのアントワンヌが、その時々に取れた魚介を中心にその日のメニューが構成される。技巧的な料理とは対極を成す、素材を活かしたシンプルな調理法だが、なぜかこの店でしか体験できない個性が、一皿一皿から感じられる。素材選びから既に料理が始まっているのだと、今更ながらに当たり前の事に気づかせてくれるのが、アントワンヌの料理たち。
オススメしてくれたヨヨのワインを飲みながら、表面が真っ黒になるまで炙ったカルソ(長ネギ)のとろりと焼きあがった中心の部分を手づかみで食べ、はたまたシンプルに焼き上げられたパラモスのエビを頭部のミソまですする。他にも地元の農家や漁師から仕入れた食材で、シンプルながら味わい深い、カタラン地方ならではの料理が続く。
フランスは広く、東西南北どちらに向かうのかで建物の様相も異なれば、人柄も違う。そして、その土地その土地の卓越した食材があって、その食材を活かした多様な料理が楽しめる。レストランの評判を聞きつけて、わざわざ出向いて行くことで、そのレストランのことを本当の意味で「知ることができる」のではないだろうか。
<価格>
コースのみ
35ユーロから
カード支払不可
Restaurant Le Cabaret(ル・キャバレ)
- 電話番号
- 0033 4 68 83 34 57
- 営業時間
- 20:15~21:00の間に入店(予約のみ)
- 定休日
- 日・月・火・水
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。