西暦2000年を超えたあたりからフランス本国の仏料理評論家がしきりに言及しだしたのが「美食のタパス化」現象というものだ。
フランスでは「おやつを少しずつかじるような食事(grignotage)」は風習として社会的にもよくないものとされてきた。
ところが『エル・ブリ』のフェラン・アドリアが世界の料理界を席巻するあたりから、フランス人の料理人は方向性を失いかけた。
スペインの食文化の大きな特徴の一つにはあれこれ少量食べるタパスがあり、フェランの料理も例えばオードブルはナイフやフォークを使わず、あらかじめスプーンに盛られた料理を口に入れるという「気軽に少量ずつ」のタパス文化が根底にある。
ひるがえって日本でも、タパス中心のスペイン・バルは「気軽に飲み食いできる店」として、ここ10年ぐらいかけて人気を博してきた。
元々和食は、懐石にしてもちょこ盛り料理をあれこれ多種食べる。だからタパスやピンチョスは日本人に親和性が高い。
フランス料理のビストロやブラッセリー、イタリア料理のトラットリアやタベルナが本来、日本においてもその「気軽に」「安く」の役割を担うはずだが、「飲んで食べて5,000円以内」のコストパフォーマンスに関しては、街場の居酒屋や小料理屋、駅前中華に及ばなかったといえるだろう。
スペイン・バルにしても流行りの領域では楽しいが、実力面ではまだ互角に太刀打ちしているとはいえない。
また関西においては、お好み焼き店がその領域にくい込んでくる。
お好み焼き焼きそば以外の鉄板焼きがあるからだ。
つまりお好み焼きを食べる前に、牡蠣のバター焼きやゲソの塩焼きなど「鉄板で焼いた料理」をつまんで飲む。「とりあえず生中と何かアテ」の際に、さっと鉄板で炒めて食べるツマミはとても良い。
ちなみに神戸では敗戦直後、お好み焼き店の『みその』が占領地で遊ぶ進駐軍に鉄板で但馬牛を焼いて、それがうまいと大いに話題になった。
それが嚆矢となって「神戸ステーキ」の一つのジャンルとして定着して今に至っている。
ちなみに神戸では、「うちは厚さ15ミリや」とぶ厚さを誇る鉄板什器の由来が「船に使てた鉄板や」というミナト神戸特有のネタが出たりもする。
本題はここからで、前半のスペインのタパス的料理+後半の鉄板焼きという方法をとことん追求している店が神戸にある。
すでに開店8年目でいつも人が入っている。さすが神戸の鉄板焼きという感じの店だ。
ユニークなのは「ピンチョ(ス)」と書いてあるメニュー群。
「赤ピーマンとアンチョビのピンチョ」にしても「ブルーチーズと蜂蜜のピンチョ」にしても、それぞれ鉄板で焼かれたパンの上にピンチョスが乗っているというスタイルだ。
エビのアヒージョは土鍋を鉄板で熱くしてそこにエビを入れるのだが、頭の部分は鉄板で上から重しを載せてカリカリに焼いて土鍋の端に置かれて出てくる。
客の前で見せれば鉄板焼きの店でコック帽コックスーツの料理人が「キュー」と焼き音を出してパフォーマンスよろしくやるシーンと同じだ。
この『鉄板バルclap』のシェフ菅沼さんは、神戸・三宮のお好み焼きの『花門亭』出身だとのこと。
この店はチェーン店化して東京や九州にもあるが、鉄板焼きのツマミをいろいろ食べて飲んで、神戸の下町・長田特有の粉を薄く引いて上からキャベツをのせるスタイルのお好み焼きを食べて締めるスタイルの店で、お好み焼きメインではなく鉄板焼きの小料理がメインの居酒屋使いをする客がほとんどだ。
ちなみにここのお好み焼きはその『花門亭』の逆をいくもので、そのぶ厚さたるや見て驚く。
言っておくが単なる見かけ倒しではなく、丁寧に温度計をさし込んできちっと焼き具合を測ったお好み焼きは、軽い食感で「ホットサラダ」のよう。
「『花門亭』の賄いで、いつも薄いのを食べているので面白がってやったらおいしかった」とのこと。
神戸ステーキを生んだ神戸の鉄板焼き〜お好み焼き事情は、今も面白い。
鉄板バル clap
- 電話番号
- 078-392-0280
- 営業時間
- 17:30~翌2:00
- 定休日
- 月曜
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※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。