東京、渋谷。真っ白なカウンターに組み木の洒落たテーブル。都会のカフェ空間に漂う、たった今挽いたばかりのコーヒーのアロマ……ではなく、全身を包むような煮干だしの香気。5月11日、公園通り沿いにオープンした『久留米うどん』は、東京唯一の“筑後うどん”の店だ。
昆布、鰹節、煮干から引いただしと、地粉の粘りを感じるやわらかい麺が筑後うどんの特徴
久留米や八女といった福岡県南部に位置する筑後地方で食される筑後うどんについて詳しく知る東京人はそう多くないだろう。福岡出身者でも首をかしげる人もいるかもしれない。豊富な水と肥沃な大地に恵まれた筑後地方は、古くから米と小麦の二毛作が盛んな地域。特に小麦においては国内有数の作付面積を誇る福岡県でもトップクラスの生産高で、ご飯と一緒にうどんが食卓に上る光景は決して珍しいものではないという。
筑後うどんの特徴は、昆布や鰹節、煮干などから引いただしと、地粉の粘りを感じるやわらかい麺にある。この独特な食感を、筑後では親しみを込めて「ふんわり粘りゴシ」と表現するそうだ。
「初めて口にしたときは、こんなにやわらかく、かつおいしいうどんがあるのか? とびっくりしました。これまで『かろのうろん』や『因幡うどん』など博多の有名店にも足を運んできたのですが、筑後で食べたうどんが一番気に入りました」と話すのは、同店オーナーシェフの芳賀大地さん。
渋谷で生まれ育った生粋の都会っ子である芳賀さんが、知名度が高いとはいえない一地方うどんに関心を持ったのは、友人で久留米市地域おこし協力隊の中村透さんに誘われて筑後地方のうどんを食べ歩いたことがきっかけだった。
驚きはやがて興味へ。しかも、東京では昨年から今年にかけ、福岡の人気うどん居酒屋や大手企業などの出店が続いたことで福岡うどんブームが熱を帯びつつある。こうした流れも追い風となり、中村さん協力のもと、慣れ親しんだ渋谷での挑戦を決意した。
提供直前の「煮込み」によって麺とだしが融合し絶品うどんに!
筑後地方には約180軒ものうどん屋が存在するというが、うどん自体のあり方は柔軟なものだ。というのは、筑後うどんという呼称に厳格なルールはなく、店によっては茹で置きもあれば茹でたてもあり、また麺も細いものから太いものまであり、とバリエーションが豊富なのである。
開店にあたり、さまざまな筑後うどんを研究した芳賀さん。「煮込みスタイル」で知られる現地の人気店『久留米荘』など、だしが効いた味を理想にしているという。また、できるだけ福岡産のものを使いたいという思いから、麺は久留米の製麺会社『久留米製麺』に特注し、粘性に優れた福岡産ニシホナミを使ったほっそりとしたタイプにたどりついた。
つゆは瀬戸内産の煮干やムロアジ、サバ節、羅臼昆布、鯛など7種類の素材からだしを引き、久留米の老舗醤油『クルメキッコー』の淡口醤油で調味。提供直前にこの中で麺を煮込み、だしのうまみをたっぷりと吸わせるという。
1時間以上茹で置き、内側に水分を閉じ込めた麺は、うっかりすると上下の唇で挟んだだけで切れるほどやわらかく、すするたびに振動が伝わり、ぶるんと揺れる。煮干の特徴を捉えながら均整のとれたかけつゆも甘美な味わい。器の中で麺とだしがぴたりと調和し、上品なお吸い物をいただいているかのように素材の風味が口いっぱいに広がる。
品書きは、福岡の定番トッピング「ごぼう天」や、同じく筑後地方にあるみやま市で作られる無添加「丸天」、風味の良い『有明海苔紫彩』の「のり」など6種類に加え、福岡県人にとってご飯のお供ならぬ“うどんのお供”の「かしわ飯」や「いなり(2個)」などのサイドメニューも。
当面はランチ営業のみだが、同ビルに店を構える『久留米うどん』の系列店、『やきとん大地』や『おとしぶた。』でも飲んだ後の〆の一杯として提供可能とのことだ。
【メニュー】
かけ 450円
ごぼう天 580円
丸天 580円
かしわ飯 240円
無添加抹茶アイスクリーム 220円
※価格は税込み
久留米うどん[移転先]
- 営業時間
- 11時~15時30分(ランチのみ)
- 定休日
- 土・日・祝日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。