幸食のすゝめ#047、逆手の団扇には幸いが住む、東中野
「お前さぁ、ちっともヒトの話聞かないからさ、豚耳のピリ辛和えでも食っとけば!」、ボルサリーノ被った下町のダンディ、岩さんが飲み友達のユウジに話しかける。
「えっ?今何か言いましたか?、ちょっとボーッとしてました」、「ほらなぁ」。
親子ほども歳の違う2人だが、立石の名店『宇ち多゛』で仲良くなり、日曜日は野方『秋元屋』の口開けに並ぶようになった。そんな中、今年の春に、馴染みだった店長が独立。呑んべいたちの足は、野方から東中野に向くようになった。
松ちゃんこと松浦辰也さんは、8年半の長きに渡り修業。しかも、そのほとんどの間、本店の店長を勤め上げた、いわば『秋元屋』の顔だ。美容師だった松ちゃんは、客として入った『秋元屋』で「安くてうまくて、こんなに幸せな気分になれる店があるのか!」と強烈なインパクトを与えられ、その後の人生をもつ焼きに捧げる決心を固めた。
『秋元屋』に入ると瞬く間に頭角を現し、店長として店を背負う存在へ。そのため、多くの後輩たちの独立劇をいつも見守る立場になった。
そんな松ちゃんが満を持して、とうとう自分の店を持つ。長年の松ちゃんファンたちは、一斉に東中野を指した。
『秋元屋』で学んだすべてがある店
東の『宇ち多゛』、西の『牛太郎』とは全く違う文脈で、飲食業界に新たなるドリームストーリーを生んだ『秋元屋』の物語は1人の熱狂的なもつ焼きファンから始まった。『秋元屋』の創始者、秋元宏之さんだ。
元々、もつ焼きブロガーとして著名だった彼は、いつの頃からか自らの理想の酒場を実現しようと思い立つ。自分が食べ歩いた名店の叡智と教訓に従って、言わばいいとこ取りのオマージュ酒場を作ろう。尊敬してやまない名店の味や技を積極的に取入れ、切磋琢磨を重ねるうちに、店は行列ができる人気店となって行く。
途中からは経営に専念することが多くなった秋元さんに代わって、兄弟子である『たつや』の藤井龍成さんに続き、店の味を委ねられたのが松ちゃんだ。
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