お米屋さんなのに、タパスが楽しめるバル? 神田小川町で毎日通いたい2017年的大衆酒場のこと

【連載】幸食のすゝめ #048 食べることは大好きだが、美食家とは呼ばれたくない。僕らは街に食に幸せの居場所を探す。身体の一つひとつは、あの時のひと皿、忘れられない友と交わした、大切な一杯でできている。そんな幸食をお薦めしたい。

2017年07月28日
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お米屋さんなのに、タパスが楽しめるバル? 神田小川町で毎日通いたい2017年的大衆酒場のこと
Summary
1.神田小川町の“お米屋さん”
2.ナチュラルワイン&タパスを楽しんだ〆にはルーロー飯やパエリアといった、お米料理を
3.食材も、ワインも店主自らが刺激を受けたものだけを置くという潔さ

幸食のすゝめ#048、旅の記憶には幸いが住む、神田小川町。

「セッキー、これって山椒入ってるでしょ?」、「いや、入ってないよ。スパイスはフェンネルとオレガノ」、店主・セッキーが穏やかな笑顔で答える。「コレ、うまいわぁ。出した方がいいよ、絶対、売れるって!」、「いや、もう今売れてるから」。カウンター奥の男性は、どうも小学校からの同級生らしい。
今度は女性の3人組からワインのリクエストが入る、「セッキー、赤の重くないの頂戴、スペインがいいかな」。
コの字カウンターの店は、まるで下町の大衆酒場みたいな温かい空気に包まれている。

ワイン=レモンサワー?

居酒屋でレモンサワーを飲むみたいに、気軽にワインが飲める店を作りたかった。だから、近隣にある名店『兵六』のように、店の顔はコの字カウンターと決めていた。表に出している看板にも、「ワインの居酒屋」と書かれている。
創作フレンチのレストラン、銀座の『ポン・デュ・ガール』に勤務していた頃、社員旅行でフランスのロワール地方を訪れた。その時に出逢ったナチュラルワインの造り手たちとの時間が、その後の人生に大きな転機をもたらす。彼らの造るワインの味と、彼ら自身に感銘を受け、大好きなワインだけを並べる小さなタパスバルを作ることを決心、2015年に独立する。

“お米屋さん”の理由

茨城県の日立市で、祖父の代から続く米屋の三男として生まれた。いつのまにか、スーパーやコンビニでも米が手に入る現代、米屋の経営は容易くない。「継がなくていい」と言う父の言葉で、兄弟3人とも違う道に進む。
でも、祖父や父の働く背中を見て育った三男は、店の名前をなんとか残そうと考える。店名は、そのまま実家の屋号だ。
その名前にふさわしく、タパスの〆にはルーロー飯やパエリアなど、何点かのご飯ものを常備している。

パルティーダ・クレウスとの出逢い

黒と茶を貴重にしたシックな佇まいに白い暖簾、和と洋がハーモニーを奏でるドアを抜けると、コの字カウンターの道路側にびっしりとワインの瓶が並ぶ。ナチュラルワイン主体の店では見慣れた風景だが、よく見るとエチケットの様子が違う。
SM、TN、VN、CVなど、アルファベットの大文字を刻印したような印象的なボトル。デザインはバルセロナ出身の世界的なアーティスト、ボルハ・マルティネス。スペインの「パルティーダ・クレウス」だ。
造り手のマッシモ・マルキオリはイタリアのピエモンテ生まれ、仕事で訪れたカタルーニャ地方で、葡萄の希少種であるスモイの古木を発見。2haの畑を購入し、ワイン造りを始めた。
バルセロナの『バル・ブリュタル』で出逢った時から、いつか自分の店で扱いたかったワインだ。

「小さな店だからこそ、ヨソとは違うチョイスを心がけています」、壁にずらりと並ぶボトルのチョイスも個性的だ。その時々の流行や希少品、人気のボトルよりも、食材も、ワインも自らが刺激を受けたものだけを置く。
例えば、サラダに使うブラウンマッシュルームは、信頼する筑波の農家から届けられる。その香りとうまみを活かすため、注文を受けてからスライスし、刻んだエシャロットとパセリ、レモン汁だけで和える。ブラウンマッシュルームだけのシンプルなサラダだ。魚介類は、島根や岡山の漁港から直送して貰う。

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