今から約10年ほど前から、日本でも食通と言われる人たちの間で、北欧料理が注目されはじめた。昔から都内にはいくつかの北欧料理店があるにはあったが、そこで供される料理は素朴で、いわゆる「美食」の世界ではなく、どこかほっとする、ある種の郷愁のようなものさえ感じさせるメニューが並んでいた。
そんななか、2008年外苑前にオープンした『AQUAVIT』は、それまでの日本人の北欧料理観を覆す、洗練されたスタイルで表れた。
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NYに本店を構える、超人気店
もともと、『AQUAVIT』は1987年にニューヨークで創業したレストランだ。エチオピア出身のスウェーデン人シェフであるマーカス・サミュエルソンが1994年にエグゼクティヴシェフに就任するやいなや、スウェーデンの伝統にエチオピアのエッセンスを融合させた独創的な料理で高い評価を受け、一躍ニューヨーカーが注目するレストランとなった。さらにマーカスの後をついで2014年からスウェーデン出身のエマ・ベングソン女史がエグゼクティヴシェフとなるとさらに華やかな料理となり『ミシュランガイド ニューヨーク シティ 2015』においても一つ星から二つ星に昇格。今やニューヨークで知らない人はいない超有名店となっている。
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7月に就任したばかりのエグゼクティブシェフによる新しい『AQUAVIT』料理とは
外苑前の店舗もこの10年近い歴史の中で4人のシェフが人々の舌を唸らせてきた。7月に新しくエグゼクティヴシェフに就任した千葉尚シェフの料理は特に注目に値する。それまでの3人のシェフがトラディショナルな北欧料理をベースに進化させたスタイルであったのに対し、千葉シェフの料理はもっと自由で、まさにいま世界で注目されているモダン・ノルディック・キュイジーヌを時差なしに体感できるものだ。
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フレンチ出身シェフだからこその自由度
そもそも千葉シェフはフレンチの人。都内で修業後、渡仏し、ブルゴーニュ・ヨンヌ県の古都・ヴェズレーの名店『レスぺランス』を経て、リヨンの『オーベルジュドリル』、パリ『タイユバン』といった名だたる店で修業。帰国後は『エディション・コウジ シモムラ』で下村浩司シェフの薫陶を受けた、まさに王道というべきフレンチの道を歩み続けてきた人物。それゆえに、料理の引き出しは十二分に持っている。
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キーとなるのは、『酢漬け』『燻製』『発酵』
フレンチとの違いについて千葉シェフは「北欧料理はフレンチより引き算をすることが多いです。一皿の要素を削り落とし、素材感やナチュラルなイメージをより強調させます。また酸の使い方が、フレンチとは違います。それはNYの店舗でも強烈に感じました。そして、軸となるのが『酢漬け』『燻製』『発酵』という北欧の伝統です」と語る。フレンチのテクニックに、その根底に「保存」というキーワードを持つ北欧の伝統的な調理法を用い、さらにデザインの国スウェーデンらしい高い美意識を感じさせる盛り付けを施すことで新しい『AQUAVIT』の料理は完成する。
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毎日変わる料理と品数
ところで千葉シェフは、サービスマン泣かせだ。その日に出す料理は素材を見てから最終決定される。もちろん、ある程度の内容は決まっているのだが、夜のコースは品数が12~15皿の間で構成される。また、それだけの品数のため、コースは味付けやボリュームに抑揚がある。ペアリングする飲み物もシャンパーニュから軽い白を経て重めの赤に至るという単純なものではなく、その抑揚に沿うようワインを中心に日本酒やお茶までをマリアージュしていく。途中で赤が出たかと思うと、一度お茶でクールダウンして、また白へ戻るといった具合だ。
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型にはまらない自由な北欧料理
料理も和牛にイカを組み合わせたり、テクスチャーの異なる鮎料理が連続して供されたり、見た目も食感も楽しく、顔がほころんでいくものばかりで、心躍らされる。こういった、余分なものは削ぎ落とし、素材の良さを全面に出し、型にはまらない自由な料理を作り上げていく姿勢は、下村シェフのスタイルを受け継いでいると言える。まだまだ、使いたい素材があるという千葉シェフの料理はこれからどのように進化していくのだろう?
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<データ>
ランチ3,500円(プリフィクスランチ:前菜2品、メイン、デザート)、6,500円(ディナーのショートバージョン、6~8皿)
ディナー8,800円
席数85席、個室2部屋 ※バーだけでの使用も可能、ノーチャージ。
全面禁煙
AQUAVIT
- 電話番号
- 03-5413-3300
- 営業時間
- 11:30~15:30(L.O.14 :30)、18:00~23:30(L.O.22:00)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。