幸食のすゝめ#053、アペロの杯には幸いが住む、上野毛。
「ねぇ、今度の水曜日、夕方から空くでしょ、アペロしない?」、いろんなロケが重なって、『カフェ・ド・フロール』近くのホテルに1カ月以上暮らしていた1986年の6月、コーディネーターのタエコさんに誘われた時、ちっとも意味が分からなかった。あれから30年近く経って突然、「イッキちゃん、月曜日ピエールも私も2人とも休みだから、ムサコ辺りでアペらない?」と愛ちゃんこと、ミッシェル・田村愛さんからLINE。忘れかけていたアペロという言葉を思い出した。
フランスそのままの時間
アペロとは、アペリティフ=食前酒の略。しかし、食前酒そのものではなく、本格的なディナーの前に軽く飲んで、軽く食べるアフターファイブの大切な時間。
仕事とプライベートをはっきり分けるフランス人たちが、気の置けない友だちやガールフレンドなど、気の合う人たちとお喋りを楽しむ至福の時間帯だ。では、実際にどんなものを飲んで、食べるのか?ここは、アペロの国からやって来た、ブルゴーニュ生まれのシェフ、愛ちゃんのパートナー、ミッシェル・ピエール・オリヴィエさんが作ったPlat du Jour、本日のフランス盛りプレートを覗いてみよう。
パリでのアペロの楽しみ方を
パリのアペロでお馴染みのメニューが盛り合わされたプレートは、晩夏らしくトマトの存在感が目立っている。セミドライのプチトマトのサラダや、モルドバ風のトマトの酢漬けと玉ネギが和えられたもの。ちっちゃなバゲットと鴨の下にはカリフラワーのムース。サラダに添えられたサラミとキッシュのハーフ。これだけでも、アペロがぐいぐい進む。
ドリンクはまずは泡かキール、パスティスやリカールなどのアニス系のもの、涼しげなモヒートやサングリアもいい。
最近は愛ちゃん特製の塩レモンフローズンサワーも人気だ。ピエール本人はアルジェリアのエキゾチックな香りを持つビターなリキュール、ピコンを注いだピコンビールを飲む。
チーズだってパリそのもの
本格的なディナーの前に、少しだけワインが欲しくなったら、自家製のシャルキュトリーもいい。
黒く見えるソーセージは鹿。ディジョン・ホットドッグという命名の通り、3種類のマスタードを主体としたソースが潜んでいる。グレービーソース仕立てや、アプリコットとカレー風味を利かせたもの、マスタードオイル、色々な味変が楽しい。
そのままバゲットに挟んでホットドッグにしてもいいし、少しずつ千切って、添えられたピクルスとも合わせながら、いろいろな味を楽しんでもいい。パリの『キャトルオム(Fromagerie Quatrehomme)』から直送されたチーズ盛りプレートも、パリそのままのチョイスだ。
すべての会話はアペロから始まる
アペロは食事の前に胃袋を開け、次なる夕食に備えるという食の国フランスならではの生活習慣。
夕食にはたっぷりワインを飲み、最後に食後酒として強いリキュールなどで〆る。そのイントロダクションとして、アペロは重要な役割を担っている。そして、何よりも、人と人のコミュケーションを深めるための美味しい潤滑剤だ。
「アペロしない?」は、ニュアンスとしては「お茶しない?」に近い、すべてはアペロから始まるのだ。
最近の0次会という言葉も、少しだけ近いかもしれない。でも、やっぱりまだ、東京はアペロを圧倒的に楽しめていない。
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