ワインで繋がった2人による「アランチーニ」専門店プロジェクト
イタリアをブーツの形に例えると、そのつま先がポンッと蹴り出しているように見えるのがシチリア島。「アランチーニ」はこの島で生まれた郷土料理で、見た目が「アランチーニ(小さなオレンジ)」に似ていることから名付けられた。
「アランチーニ」はわかりやすく言うとライスコロッケ。
サフランライスの中心に具を入れて丸め、衣をつけて揚げたファストフードだ。シチリアでは家庭で作るのはもちろん、バールや屋台で手に入れることができ、食事やおやつとして日常的に親しまれている。現在、イタリアの首都ローマにはストリートフードのブームが到来し、「アランチーニ」の手軽さとおいしさはローマっ子にも大好評。そんな話が海を越えた遠い国に住む2人の間で交わされた。
2人とは、名古屋の老舗昆布店『石昆(いしこん)』社長の石川哲司さんと、トラットリア『SETTE COLLI(セッテコッリ)』のオーナーであるファビオ・パトラッシさん。石川さんはソムリエやワイン品質鑑定士の資格を有し、ワインには造詣が深く、仕事柄ヨーロッパへ渡航することも多い。ファビオさんはローマ出身で大学時代に日本語を習得し、来日してからワインについて学び、名古屋でワインバー『DA Fabio(ダ ファビオ)』を開業。続いて故郷のローマ料理を提供する『セッテコッリ』を開いた実業家であり、ワインのプロである。
そんな2人はワイン色の糸に引き寄せられるかのごとく知り合った。
ある夜、グラスを傾けながら「今、ローマはストリートフードがアツい」という話題に花が咲き、2人が真っ先に思い浮かべたのが「アランチーニ」。本国イタリアには専門店がたくさんあって繁盛しているのに、日本では専門店どころか知名度もかなり低い。だったら自分たちが先駆けて専門店を出店しよう! と話がまとまったのが2017年の6月。9月にシチリア島へ現地視察に赴き、11月にオープンと、トントン拍子に話が運んだ。店名はその名も『アランチーニ ナゴヤ』。
場所は名古屋市の下町、大須。ストリートフード文化が根付いて久しい街だ。
日本初の「アランチーニ」専門店始動!アイデアを次々と具現化
オープンを前にし、大正7年から続く老舗昆布店『石昆』と『セッテコッリ』がコラボレーションするのだから、両者の得意分野を存分に発揮しようと、試作が始まった。
まず使用する米選びから。色々な米で試みたところ、地元が誇る「あいちのかおり」が食味・粘り・粒感などの総合評価でベストだと判断。イタリアン・メニュー用にはサフランライスを炊き、ジャパニーズ・メニュー用には石昆自慢の昆布を使った和風だしで炊く。具材はシチリアのオリジナルレシピをはじめ、松阪牛のすき焼きなど、アイデアが次々と具現化されていった。
「カルネ クラシコ」(写真上)は「アランチーニ」の定番中の定番メニュー。肉のミンチをトマトソースで煮込んだソースをサフランライスでしっかりと包み込み、パン粉をまぶしてオリーブオイル100%で揚げる。そう、このパン粉にも工夫がなされている。具材の粘度が少ないと、揚げているうちに米の間を通って外へと流れ出てしまう。そこでパン粉メーカーに極々細挽きパン粉を特注し、水分や旨味を封じ込めることに成功した。
揚げたてを割ってみると、中から湯気が勢いよく立ち上る。ゴロッとしたミンチが中心部を占拠し、粒感のあるライスにトマトソースが染み込み、いかにもおいしい見た目が食欲を掻き立てる。かぶりつくと衣のカリカリ感にまず驚く。その後、米とミンチが口の中でパラパラとほぐれ、かみしめた瞬間「揚げミートソースドリア」という架空の料理名が頭に浮かんだ。
食べる前からなんとなく味の想像がつく組み合わせだが、実際に食べてみると「食感」という要素がかなり作用していることに気づくはずだ。
先にも述べたが、本国イタリアでは「アランチーニ」専門店が数多あり、中には40種類ものバリエーションで差別化している店もあるという。
サーモンとホウレンソウを組み合わせた「サルモーネ エ スピナッチ」(写真上)はイタリアでも人気が高いメニュー。焼いて旨味を凝縮させたサーモンと、独特の甘みを持つホウレンソウをクリームでまとめたら、おいしい方向に行かずしてどこへ行く。この組み合わせは日本でもパスタやグラタン、シチューなどで定番の組み合わせとして根付いており、老若男女問わず愛される味わいだ。
大正5年創業の老舗昆布店のノウハウを注ぎ込んだ新・名古屋メシ
さて、ジャパニーズ・メニューを紹介しよう。
「松阪牛のすき焼き仕立て」(写真上)は、佃煮や炊き込みご飯などの加工食品も得意とする、『石昆』入魂の一品だ。ストリートフードと侮ることなかれ。使用するのはA5ランクの松阪牛。世界広しと言えども、松阪牛のすき焼きを「アランチーニ」仕立てにしているのは、ここ『アランチーニ ナゴヤ』だけだろう。
仕込み作業を見学させてもらったところ、おにぎりを作る光景そのものだった。松阪牛のすき焼きを昆布だしで炊いたご飯にたっぷり詰め、やさしく握る姿に心がほっこりする。揚げたてをカパっと割って頬張ると、芳醇な香りと奥深いうまみを持つ松阪牛とだしご飯が相まって、心だけでなくお腹もほっこりした。
「尾張名古屋は城でもつ」と言われるほど、名古屋のシンボルとして名古屋城の地位は揺るぎない。名古屋城といえば甍(いらか)に燦然と輝く金のシャチホコ。金のシャチホコを見て名古屋人が連想するのはエビフライ。連想ゲームはこの辺にして、名古屋人のエビフライ好きは全国でも有名だろう。
それを逆手にとってネーミングしたのが「金鯱えびふりゃー」(写真上)。石川さんが県外にも熱狂的なファンを持つ「天むす」をイメージして創作したメニューだ。エビの尻尾がちょこんと飛び出し、中にはしっかり一尾分が鎮座。エビ感満載で食べごたえもあり、名古屋人ならずとも満足するはずだ。SNS映え的にも申し分ない。
ドリンクはメイド・イン・イタリアのものを中心にラインナップ。イタリアの地ビールやワインの小瓶、炭酸水など、食べ歩きがフォトジェニックになる品揃えだ。2階にはテーブル席があるので、そちらでゆっくり楽しむこともできる。
小学生の頃、バカンスでシチリア島に渡るフェリー内で初めて「アランチーニ」を食べ、衝撃的においしかったと記憶しているファビオさん。シチリア渡航で「アランチーニ」を頬張り「なんておいしいんだろう!」と感動した石川さん。そんな2人が遠く離れた名古屋で出逢い、イタリアと日本のエッセンスを注ぎ込んで誕生した『アランチーニ ナゴヤ』。
溢れ出るアイデアからプロファイルされた未発表レシピが、まだ多数あるという。外見は同じでも、中を開くと「アッ」と言わせる「アランチーニ」。今後どんなメニューが登場するか楽しみだ。
【メニュー】
カルネ クラシコ(イタリアンオリジナル) 420円
サルモーネ エ スピナッチ(サーモンとほうれん草) 420円
松坂牛のすき焼き仕立て 480円
金鯱えびふりゃー 460円
イタリア地ビール各種 900円
ワイン小瓶各種 900円
(ボトルを返却すると100円バック)
※価格はすべて税込
アランチーニ ナゴヤ
- 電話番号
- 052-228-7875
- 営業時間
- 11:00〜20:00
- 定休日
- 不定休(公式サイトを参照)
- 公式サイト
- http://arancini.jp
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。