今、世界的に脚光を浴びている「英国ワインとサイダー」について【シャンパーニュ騎士団オフィシエ】
イギリス、いわゆるUK=連合王国は、ワインの消費においては、アメリカと並びトップクラス。消費だけではなく歴史的に見ても、高級ワインを世界に広げる役割を果たしてきた国でもある。
そんなワイン王国・イギリスのワインとサイダーがここへきて、世界的に注目を集めているという。連載第9回目の今回は、「英国ワインとサイダー」について、ワインナビゲーターであり、シャンパーニュ騎士団オフィシエである岩瀬大二氏に解説していただいた。
ワインの価値を世界に広めた国、それがイギリスだった!
フランス、イタリア、ドイツ、スペイン。欧州の主要国はワインでも世界の主要国だ。となればあの国はどうなっているのか? そうイギリスのことだ。
例えばフランスワインがここまで成長し、世界に広まったのもイギリスの商人や貴族たちの貢献があったからで、また19世紀から世界中に広がったイギリスの版図に伴い、欧州の高級ワインが世界に広がっていき、その広がった先で良質なワイン造りが始まるという流れも見逃せないところだろう。
「ロイヤル・ワラント」、いわゆる英国王室御用達ワインやシャンパーニュともなれば、世界的にも高い評価を得られる。イギリスのお墨付き、目利きを得たワイン。単なる大消費国という以上の価値をイギリスはワインの世界に与えているというわけだ。
では、「イギリス産」ということではどうかといえば、真逆。最北となるスコットランドはもちろん、南部・中央部であるイングランドも、基本的にはワイン造り、ブドウ栽培では北限を越える。欧州でもブドウ栽培の北限と言われるフランス・シャンパーニュよりもほとんどのエリアが北になる。フランス国内では、そのシャンパーニュより北になるブルターニュやノルマンディといった地域では、ブドウではなくリンゴ。リンゴから造られるシードルやカルヴァドスといったお酒が造られる。こうした気候的なこともあり、イギリスでもリンゴを使ったお酒は昔から造られ、そして愛されてきた。
世界中からトレンド視されている「英国サイダー」とは?
それが「サイダー」。日本では先行してリンゴのお酒といえばシードルというフランス語が認知され、また、サイダーというと炭酸飲料というイメージが定着してしまったが、英語圏ではサイダーと一般的に呼ばれている。アルコール度数は高くなく、心地よい飲み口ということもあり、子供が大人になる際、パブデビューで最初に親しむお酒とも言われている。大人は苦みのビールで、子どもはほのかに甘さもあるサイダー。素敵な酒デビューの場面が浮かぶ。
現在は多彩なクラフトサイダーメーカーが増え、新しいスタイルの果実酒として脚光を浴びている。イギリスだけではなく、近年ではニューヨークにおいても、ちゃんとしたお酒としてのサイダーということで、「ハードサイダー」というクラフトシードルのムーヴメントも起こった。
お子様、労働階級の酒というところからスタイリッシュなお酒としての評価も高まっている。その背景について、東京・台東区のワインショップで、英国ワインとサイダーを取り扱う『ワイン・スタイルズ』代表の田中球絵さんに聞くと、「健康志向や、食、素材へのこだわりの高まり」を挙げた。
▲英国ワインとサイダーを取り扱う、ワインショップ『ワイン・スタイルズ』(御徒町)
「イギリスでは近年、地産地消、ローカル食材への注目、ヴィーガン(徹底した菜食主義)といった動きがあり、こうした動きに合うライトで健康志向かつ本物志向のお酒が求められていて、そこでサイダーが注目されたのではないかと思います。実は、イギリスは欧州の中ではリンゴ生産大国で、質量とも豊富。こうした環境のため、優良なオーチャード(果樹園)が優良なサイダーメーカーとして腕を振るうこともできます」
地産地消、健康志向、本物志向、そのキーワードを満たすサイダーの人気向上は、必然的なことのようだ。
今、英国ワインとサイダーを押さえておくことは“先物買い的”な楽しみでもある!
再びワインの話。北限なのでワイン造りは困難と書いた。しかし近年、イギリスのワインは目覚ましい成長を遂げている。ブドウ栽培、ワイン生産が行われるイングランドの一部地域は、もともと土壌には恵まれていた。シャンパーニュ地方や北部ブルゴーニュと同様の地質、そこに果敢なワイン造りへの挑戦が重なり、評価の高いワインが生まれている。
「サイダー同様、食への関心の高まり、国内で生産されるものへの意識が変わってきたことも後押しになっていますが、ワインもそれに応えられるものが増えてきています。世界的に、冷涼地域で造られる酸のきれいなワインが注目されていますが、最近のイギリスワインはこの傾向にあっています。その上で、樹齢がちょうどよい時期に入ってきたワイナリーもあり、いいワインが造れる要因になっています」(田中さん)
昔は北限以北と思われていた産地が、ワインに求められるトレンドにフィット。適度な樹齢が、ブドウに適度な栄養や生命力を与える。近年の食のライト化にもちょうどいい。
そして、イギリスのワインは、ワイン業界でも存在自体があまり知られていない。だから面白い。今、英国ワイン、そしてサイダーを押さえておくことは先物買い的な楽しみもある。そこで田中さんに「はじめてのイギリスワイン&サイダー」としておススメの3本をセレクトしていただいた。お店の情報とあわせて紹介しよう。
おすすめ1:スパークリングワイン「リッジヴュー ブルームズべリー ブリュット NV」
「イギリスワインの評価を高めたのはスパークリングワインの存在。現在も生産量の約7割はスパークリングワインです。ブドウ品種のシャルドネも高品質。中でもこのリッジヴューは象徴的なワイナリーです」(田中さん)。
1994年、小さな畑からスタート。いわゆるシャンパーニュ製法を取り入れた本格派で、2000年には早くも世界的コンクールで受賞ワインを出し、今後は外国のワインに占められている王室御用達に選ばれる可能性も。シャンパーニュを育てたイギリスの目利き。今度は自国の宝物も育てていきそうだ。
おすすめ2:世界的トレンド「ギフォーズホール バッカス 2015」
「冷涼と樹齢」という田中さんが挙げた2つのキーワード。これを体現するのが、イングランド・サフォーク州の白ワイン。ラベルに記された「WINE OF ENGLAND」が誇らしい。バッカスは、同じく冷涼な産地であるドイツのブドウ品種。白い花や柑橘が甘やかにアロマティックに香りつつ、冷涼エリアならではの美しく儚い酸と芯の集中力もある。重苦しさを感じさせないワインなので素敵な休日の午後や、軽めのランチと合わせたい。
おすすめ3:サイダー「へニーズ イングランズ・プライド」
イングランドのアイコン、白地にレッドクロスのセントジョージ旗をあしらったラベルが印象的。そのラベル通り、イギリスサイダーの伝統的な造り方と素材を生かしながら、ほんのり甘く、エレガントさと軽やかさもあわせもち、気軽に楽しめる。アルコール度数は6度。食事と合わせることはもちろん、ピクニックでの乾杯やスポーツ観戦にもちょうどいい。今、イギリスには本格的なクラフトサイダーも多数ある。その扉を開いてくれるサイダーとなるだろう。
なお、取材にご協力していただいた『ワイン・スタイルズ』(写真上)は御徒町にあるワインショップ。フランス、イギリスを中心に、無農薬やこだわりのある生産者のワイン、サイダーを直輸入。気軽に飲めるバリュープライスのワインからレアなワインまでが並ぶ。
特に代表の田中さんは国内でイギリスワインやサイダーについての第一人者。素敵なワインが並ぶ店内ではOASISをはじめ田中さんお気に入りのUKロックが流れるなど、ワイン好きだけではなくイギリス好きにも居心地のいい空間だ。テイスティングカウンターでは日替わりでおススメワインの有料試飲やイベントも行われる。
写真提供(一部):PIXTA
ワイン・スタイルズ
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