料理好きが高じて週末限定のシェフから実店舗のオーナーに
名古屋駅の太閤通口から徒歩すぐの場所にオープンした『スパイスカレー あかつ亭』。ファン待望の実店舗出店である。というのも、店主の赤坂拓洋(たくひろ)さんは会社員時代に週末だけ間借りして料理を提供する「ワン・デイ・シェフ」を3年ほど続け、着実にファンを増やしていたからだ。
赤坂さんは、小さい頃から筋金入りの料理好き。以前から好物だったカレーを作り続けるうち、だれかに振る舞いたいとの思いがふつふつと沸き起こる。その思いを事あるごとに口にしていたところ、あるカフェオーナーから「うちは日曜定休だから、ワン・デイ・シェフをやってみたら?」という提案があり、二つ返事。日曜限定で出店すると、噂が噂を呼んでなかなかの盛況ぶりに。すると他のカフェからもオファーがあり、月1〜2回のペースで厨房に立つようになった。
その間にインド、ネパール、スリランカを歴訪して本場のカレーにインスパイアされ、その都度カレーもアップグレード。マニアックなカレー好きが集まるようになり、ファンからの後押しもあって実店舗オープンの運びとなった。
だし好きによる、だし好きのための、だしカレー誕生
『あかつ亭』ではランチタイムに3種のスパイスカレーを提供している。この日のラインナップは「大根とサバのカレー」「胡麻チキンカレー」「レンコンとキノコ入りコーンクリームカレー」。これを1種、2種、3種と好みで相盛りできる。写真は「今週のカレー 2種盛り」(写真上)。
中でも「大根とサバのカレー」(写真上)は『あかつ亭』のルーツとも言えるレシピ。赤坂さんは日本の「だし」に並々ならぬ思い入れがあり、いろいろな節でだしを取るのが趣味かつ得意技。丁寧にとっただしでおでんを作り、翌日その残りにミックススパイスの「マサラ」を入れたところ、心がホッコリするカレーができあがった。
スリランカのカレーも「モルディブフィッシュ」と呼ばれる日本のカツオ節に似た食材を使う習慣があり、だしとスパイスの融合は決して間違ってはいない。これは、日本だからできるカレーと確信。以来、だしで煮た根野菜と、肉や魚を組み合わせたカレーを好んで作っている。
「大根とサバのカレー」の大根は、サバ節や昆布、シイタケからとっただしでやわらかく煮込んでから、サバとカレーペーストを合わせて煮込み、1日寝かしてから提供する。だしを含んだ大根と、ホロホロに煮崩れたサバを口へ入れると、滋味深い味わいが広がった。その後、スパイスが追いかけるように鼻孔を満たし、カレーであることを主張。なるほど、日印融合の味である。
スパイスのポテンシャルを最大限に生かすレシピへ
「胡麻チキンカレー」(写真上)のベースにも誕生ストーリーがある。カレーを作り始めた当初は、多種多様なスパイスを使って複雑な味わいを作り出すのがベストだと思っていた赤坂さん。ある時、南インドカレーのレシピを見たところ、使われているスパイスはほんの数種類。こんなに少なくて本当においしくなるのか?と半信半疑でレシピ通り作ってみたところ、少ないからこそ生きるスパイスの爽快感に衝撃を覚えたという。
以来引き算のレシピになり、この「胡麻チキンカレー」のベースも非常にシンプル。シャープなスパイスの輪郭がゴマのコクで丸みを帯び、オリエンタルな余韻を残す。
ちなみにスパイシーというと日本人は辛さを想像しがちだが、赤坂さんはスパイスの香味と唐辛子の辛みは別物と考える。よって、スパイスカレーをウリにしている同店に激辛カレーは存在しない。『スパイスカレー あかつ亭』と名付けたのも、このためである。
プレートにはスリランカカレーに欠かせないトッピング「ポル・サンボーラ」や、インドの漬物「アチャール」、青菜の塩炒め「サグ」などが添えられる。だたしこれらもすべて『あかつ亭』風にアレンジ。「ポル・サンボーラ」はモルディブフィッシュの代わりに日本のカツオ節を用い、「アチャール」は日本の浅漬け風。「サグ」も醤油味だ。
「現地のやり方をそのまま踏襲しても、なんか違うな?ってことが多くて。インドにはインドの風土、名古屋には名古屋の風土があり、風土に合わせた味の方が絶対おいしく感じると思うんです」と赤坂さん。お店のモットーは“日本人だから作れるスパイス料理”。2つのカレーを味わうと、その意味がよく分かる。
店主の人生を変えてしまった「ダルバート」との出会い
毎週、金曜と土曜のディナー営業で提供している「ダルバート」(写真上)は赤坂さんにとって、特別な料理。「ダルバート」はネパールの国民食で、ダル(=豆)のスープとバート(=ご飯)、「タルカリ」と呼ばれるカレー料理や漬物などがセットになったワンプレート料理だ。
赤坂さんは現地で食べ、あまりのおいしさにいたく感動したという。また、ネパールはさまざまな出会いや、奥様との結婚式など、人生の転機を与えてくれた国。恩返しの思いも込めて、日本で提供したいと心に決めた。ただし、そのまま再現するのではなく、やはり『あかつ亭』的解釈で、日本人の味覚に合うよう調えている。
「ダル」や「チキンのタルカリ」のほか、「サツマイモのアチャール」、「小松菜のサグ」、スパイスソースの「チャトニ」、豆の煎餅「パパド」などがプレート上を賑わす「ダルバート」は、あるものすべてを、混ぜこぜにするのが本場の食べ方。
美しく盛られたプレートは、みるみるうちに食材の合戦場と化し、お世辞にもおいしそうとは言えない見た目に…。しかし、混ぜこぜ状態をすくい上げて食べてみると、複雑に絡み合ったスパイスと素材が口の中の味蕾(みらい)全体を刺激し、実にうまい。あっさりしているので、多いと思われたご飯もペロリとイケる。
「うちのダルバートを食べたお客様が、ネパールに興味を持ってくれたらうれしいです」と照れ臭そうに語る赤坂さん。「ダルバート」を食べるときは、ネパールへ想いを馳せつつ、躊躇せずにガッツリ混ぜて、皿の上の調和を楽しんでいただこう。
【メニュー】
今週のカレー
1種盛 900円
2種盛 1,100円
3種盛 1,300円
ダルバート(金・土曜の夜のみ提供、限定20食) 1,200円
※価格はすべて税別
スパイスカレー あかつ亭
- 電話番号
- 052-755-7373
- 営業時間
- ランチ11:00〜14:30(L.O.14:00)、 ディナー18:00〜21:30(L.O.21:00)※ディナーは金・土曜日のみ営業
- 定休日
- 月曜、第1・3・5火曜
- 公式サイト
- http://akatsutei.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。