温泉地「熱海」は、熟した風情ある名店が魅惑
日本を代表する観光地「熱海」。東京駅から新幹線利用なら1時間弱。JR東海道本線でも1時間30分という魅力の温泉地だ。海と山に囲まれて、四季を通じて地産地消が叶う豊かな場所で、古くから文化人や食通たちを唸らせてきた。
四半世紀前はハネムーンのメッカとして繁栄し、一時はさびれ閑古鳥が鳴くも、昨年頃から再ブームが到来。年間300万人の観光客が押し寄せているという。テレビの情報番組では行列ができるファストフード店などに話題が集中するが、実は、路地裏や駅遠にこそ、知る人ぞ知る名店が点在するのだ。
ガイドブックは持たず、嗅覚だけを頼りに、いざ!
1.ランチ3種だけという潔さ! 昭和20年創業の「割烹」
原宿竹下通りのようににぎわうアーケードから、細く怪しい路地を進むと最初の角地に『割烹 大西』がある。
あまりにもレトロで、一瞬入るのをためらうが、看板が傘さしている光景に店主の心意気が見えて、暖簾をくぐる。店内は、磯の香りが染み付いていて、カウンターがやたら広く、うまい魚を楽しむにはもってこい。切り盛りするのは3代目の保坂勇三さん。
「昭和20年10月に屋台のおでん屋から始まって、今年で73年目になります。最盛期は板前が3人、広い宴会場もありました」と華やかだった頃を語ってくれる。今は、保坂さん夫妻が、昼定食3種類、限定40食を、ひそやかに丁寧に提供。夜の営業は、常連客の予約を受ける程度だという。
たった3つのメニューの中からチョイスしたいのは「伝承の味 金目鯛煮付」(写真上)。すると、保坂さんは「煮魚はインスタ映えはしないけど、おいしいよ」と、ニヤリ。続けて、「うちは新鮮な魚に支えられているからね」と言い放つ。
ほどなくして登場したキンメの大きさに、わお! でっかい目玉にドキリ。濃厚そうな煮付けだが、意外にサラリとしていて甘さは控えめで、添えられた豆腐にも味がじんわりしみて、白飯がすすむ。
網代の魚市場などに日参して、水揚げしたての鮮魚を調達するので、内容は日替わり。ちなみに、この日の「天ぷら盛り合わせ定食」は、エビ、サクラエビのかき揚げ、山菜、旬の野菜。「さしみ盛り合わせ定食」は、メジマグロ、ヒラウオ、スルメイカ。
11時30分を境に、熟年夫婦やナイスミドルな観光客がカウンターを埋め始め、あっという間に満席に。『割烹 大西』を目指すなら、開店と同時に暖簾をくぐるのがいい。
【メニュー】
天ぷら盛り合わせ定食 1,200円
煮魚定食(金目鯛) 1,200円
さしみ盛り合わせ定食 1,200円
地酒「英君」(特別純米ひやおろし) 800円
※価格は税込
割烹 大西
- 電話番号
- 0557-81-3746
- 営業時間
- 11:00〜(売り切れ次第閉店)、夜は2人以上要予約(予算は5,000円〜)
- 定休日
- 水曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
2.熱海名物「いかメンチ」を、昭和2年創業の老舗で
ショーウィンドウのサンプルにそそられる『食事とお酒の店 るな。』。この場所は、現在にぎわっているアーケードができる前、熱海のメイン通りだった。昭和2年の創業は、界隈でも超古株だ。
4代目の浅井弘有(こうゆう)さんが、先代から受け継ぐ味を守り厨房に立つ。熱海の繁栄を見てきた母・幸子さんが気さくな接客で心地良さを醸し出す。地元民と観光客の胃袋を、地元の幸で満たしてくれる名店なのだ。
『るな。』に来たなら、注文必須は「いかメンチ」。今では熱海グルメとして知られるが、『るな。』には「シーフードメンチ」の名で昔からメニューにあった。イカとアジとタマネギを使用して、魚嫌いの子どもでもおいしく食べられる自慢料理だ。
接客を担当する幸子さんのおすすめは、アジフライ。「うちのアジフライを食べたら、よそのは食べられない」と、断言するほど。なぜだろう?
「ひと手間かけているからね。開いて、ショウガ汁を垂らして、ひと晩置きます。するとアジ特有の臭みが消えるだけでなく、アジの味がノッてくるんです」
メニュー表に、いかメンチとアジフライセットになった「イカメンチ定食B(いかメンチ+アジフライ)」(写真上)を発見。注文すべきはこれだ!
揚げたてアツアツのゴールデンコンビは、黄金色に輝いている。肉厚のアジは、サクッ、ふわっ。なのに食べごたえたっぷり。「いかメンチは何もつけないでね。味が付いているから」と浅井さん。ジューシーで軽く、うまみが凝縮されていて、もう1個食べたくなる。そんな気持ちになる人が多いのだろう、「いかメンチ1個380円」で追加注文できる。
入口近くに鎮座する保冷箱をのぞくと、大きな金目鯛と目が合った。下田港で水揚げされた、2kgほどある肉厚のキンメ。「次回は、キンメを食べてね。このサイズが一番おいしいし、うちで食べるとリーズナブルなんですよ」と、幸子さんが自信たっぷりに話す。再訪を約束。
【メニュー】
イカメンチ定食B(いかメンチ+アジフライ) 1,000円
刺身定食 1,500円
キンメ煮つけ 1,500円
カキフライ定食(冬季限定) 1,600円
三ケ日豚のとんかつ 1,100円
生しらす 450円
いか塩辛 350円
あじ干物 500円
三ケ日みかんハイボール 550円
※価格は税別
食事とお酒の店 るな。
- 電話番号
- 0557-81-5469
- 営業時間
- 11:00〜20:30(L.O.)
- 定休日
- 火曜(不定休あり)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
3.和食と洋食が一度に味わえる、根っからの地元客が愛す『和洋食 竜田』
湯めぐり観光を楽しみながら、市役所方面へ。糸川沿いは遊郭があった場所で、「糸川べり」と呼ばる熱海で最もディープなエリア。細い路地をくねくね入っていくと、今も名残の建物があり、小さな飲食店が集まっている。
そんな町並みに凛とした外観が印象的な『和洋食 竜田』は、根っからの地元客、熱海マンション族が通う人気店だ。
2代目の加藤慎也さん(写真上)と、姉の寛子さんが迎えてくれる。カウンター越しに見える水槽で泳ぐアジが気になり、まずはアジから注文する。
刺身と迷った挙句、「お酒に合うのはなめろうですね」と慎也さんの助言で、なめろうを注文。すると、「今日は大きいアジなので、お刺身も少しつくりますか?」。この気配りに、瞬時に心奪われてしまう。
日本酒は、全国の銘酒のほか、静岡の地酒がある。「富士正」の特別純米は、ふっくらボリュームがあるのにスーッとキレが良く、ねっとりしたなめろうにピッタリだ。
『和洋食 竜田』は、その名の通り洋食も充実するのがユニークなところ。メニューには、海老グラタンやビーフシチューなど、ひと通りの洋食が揃う。「父がもともと洋食をやっていたので、それを受け継ぎました。洋食と、私が得意な和食の両方を味わっていただけます」。
一人でも注文しやすいサイズの「メンチ・カニコロセット」(写真上)は、日本が誇る日本生まれの食文化、正統派の「洋食」。温泉地で日本酒を傾けながら食べる洋食はなんとなくミスマッチに感じる。が、食べ進むうちに、熱海×洋食×日本酒が、妙にしっくりくる不思議……。
慎也さんの一番のおすすめは「海老れんこん団子」(写真上)だ。お椀のふたをあけると、まず澄んだ銀あんに驚く。中央に鎮座するれんこん団子は、山芋のふわふわ感とれんこんのもちもち感の中に、しめじや海老などいろんな歯ごたえが残り、食感の楽しいことと言ったら……。シェアせず一人で一椀を満喫したい。
【メニュー】
アジのなめろう 900円
アジのお刺身 900円
海老れんこん団子 800円
メンチ・カニコロセット 800円
ビーフシチュー 2,300円
熊本産馬刺 1,800
ヒレカツ煮 1,100
※価格は税別
和洋食 竜田
- 電話番号
- 0557-81-3751
- 営業時間
- 11:30〜14:00(L.O.13:30)、17:00〜22:00(L.O.21:30)
- 定休日
- 月曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。