「サッカーワールドカップ2018」をもっと楽しく観戦できる、プロイチオシの「ワイン」ガイド

みんな大好き「お酒」だけれど、もっと大人の飲み方をしたいあなた。文化や知識や選び方を知れば、お酒は一層おいしくなります。シャンパーニュ騎士団認定オフィシエによる「お酒の向こう側の物語」
#ワールドカップ観戦は、こんなワインと合わせたい!

2018年06月14日
カテゴリ
コラム
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「サッカーワールドカップ2018」をもっと楽しく観戦できる、プロイチオシの「ワイン」ガイド
Summary
1.サッカーの祭典はワインと共に燃えろ! ワインを軸に楽しむ観戦ガイド
2.ワールドカップ観戦は、こんなワインと合わせたい!
3.イニエスタがワイナリーを所有していた!? オススメの一杯は?

ワールドカップはワインと共に! 【ワインナビゲーター・岩瀬大二】

4年に1度のサッカーの祭典……などと前置きの説明を書く必要もないだろう。いよいよ6月14日(現地時間。日本では15日(金)深夜0:00)、「2018 FIFA ワールドカップ ロシア」が開催される。さまざまなワインと“なにか”のペアリングを提案してきた当コラム。今回はワインナビゲーターの岩瀬大二さんにサッカーとのペアリングを紹介していただこう。

前置きとして、筆者とサッカーの関係を簡単に紹介していく。最初に見た印象深いシーンは1978年アルゼンチン大会、紙吹雪舞う日本ではみたこともないスタジアムの熱狂の中で、闘牛士のように舞い踊るアルゼンチンのスーパースター、マリオ・ケンペスの姿だった。まあ、これで世代がわかる。

さらに、当時は海外サッカーの中継などほとんどない時代だったが、その数少ない試合はドイツやイングランドが中心で、自然に欧州サッカー、中でもGK(ゴールキーパー)という存在に憧れ、中学の部活、その後の草サッカーやフットサルではGKを志願した。

ハラルト・シューマッハー(当時西ドイツ)、レイ・クレメンス(イングランド)がファーストアイドルで、その後も、ダサエフ(ロシア)、シュマイケル(デンマーク)、チェフ(チェコ)、ヒルデブランド、ノイアー(ともにドイツ)とGKを追いかけ続けてきた。

縁あってJリーグの取材をする機会もあって、各チームの練習でもGKを中心に試合を追いかけ、GKコーチとディスカッションという……全然、簡単な紹介ではなくなった、どころかどんどん脱線している(苦笑)

ワインとワールドカップに話を戻そう。こんなにもサッカー好きでありワイン好きでもあるのだから、4年に1度の祭典は、大いにワインと共に楽しみたいと毎回考えている。さあ、今大会、こんなワインとの楽しみはいかが? という提案をさせていただこう。

開幕は公式シャンパーニュで乾杯!

大会には公式シャンパーニュというのがあり華を添えてくれる。今回の公式シャンパーニュは、前回のブラジル大会に続いて2大会連続で「テタンジェ」が選ばれた。大会にあわせて日本でもリリースされる限定ボトルのデザインイメージは「宇宙」。人類初の無人人工衛星をはじめとする開催国ロシアの宇宙への技術的偉業に敬意を表してのものだが、スタジアムにもまた、まさに宇宙に浮かぶ星のごとく世界中からスター選手が集結する。そういえば強豪レアル・マドリードはスペイン語の「ロス・ガラクティコス」、和訳をすれば「銀河系軍団」と称えられていた。

まず、ふさわしい舞台は開幕戦。日本では6月15日(金)深夜0:00、モスクワ、地元ロシア対サウジアラビア。ウォッカで乾杯という手もあるが、酔っぱらって後半にはふらふらというのも困るので、ここはやはり祝祭のシャンパーニュといこう。

ちなみにナポレオンの名言。「勝ったときには祝福のためのシャンパーニュが必要だ。負けたときには癒すためのシャンパーニュが必要だ」。

サウジが波乱を呼ぶか、ロシアが好調な滑り出しとなるかという結果はともかく、どちらのチームにとってもシャンパーニュは必要かもしれない。そして決勝の舞台もシャンパーニュにふさわしいだろう。すべての試合で勝者と敗者のドラマが交錯するが、そのどちらへのリスペクトもこめて、シャンパーニュと共に迎えたい。

サッカーの注目カードはワインも注目の対戦

開幕戦の翌日には早くもサッカーファン注目のカードが控える。ポルトガル対スペインのライバル対決という大一番だ。華やかなスペインサッカーと色気を発散するポルトガルサッカー。ワインも同様に両国とも素晴らしい。いろいろワインはセレクトできるが、より近いもので選ぶと個性がわかりやすい。

ということで今回はお互いに北部、大西洋岸で評価の高いブドウ品種「アルバリーニョ」を使ったワインでいこう。両国ともこのブドウ品種からは非常にクオリティの高いワインが数多く生まれている。爽やかなもの、瑞々しいもの、ちょっとエロティックなものに、職人の匠が生きるもの。お互いの選手のタイプと当てはめて想像するのも悪くない。

翌16日(土)はフランス対オーストラリアというワイン好きとしてもたまらないカード。これはありがたいことに現地昼開催なので、日本時間でも同日19時開始。たっぷりおいしいフードも揃えて堪能したい。フランスを代表するシャンパーニュといえば「モエ・エ・シャンドン」があるがそのオーストラリアでのプロジェクトにスパークリングワインの「シャンドン」がある。スポーツ好きにはF1、マクラーレンチームの現行のスポンサーというと思い出す人もいるだろうか。シャンパーニュとスパークリングワインのいわば同門対決なんていうのも面白い。

日本ワインはもちろん選手が活躍する国も揃えて

そして日本時間19日(火)21時にはいよいよ日本代表の登場。強豪コロンビア相手だが、ここは勝利を祈ろう。さて、今回日本が入るグループHはポーランド、コロンビア、セネガルとワイン生産とは縁遠く、それぞれの国のお酒も日本ではなかなか入手しづらい。となればもちろん日本ワインと行きたいところだが、せっかくの日本代表、もっとやらかしてしまおう! ということで選手の出身地、そして現在活躍するリーグのワインでひいきの選手を応援するなんていかがだろう。

GKの東口は大阪出身。ここはユニークな都市型ワイナリーが多い。槙野は広島出身。こちらも『三次(みよし)ワイナリー』といういい造り手がいる。

▲鹿島アントラーズ・植田選手の出身地、熊本の『熊本ワイン』


鹿島から選出の植田は熊本出身。ここは美しく親しみやすい「デラウェア」をはじめとする『熊本ワイン』がいい。

そして海外。長友はトルコ。こちらも日本ではまだ輸入量は少ないがワイン大国の一つ。プチ自慢として筆者はイスタンブールで、ガラタサライ対ベシクタシュという熱狂のダービーマッチを観戦したことがあるが、その時の主目的はワインの取材だった。この機会にぜひトルコワインを味わっていただきたい。

▲長友選手が活躍するトルコはワイン大国の一つ。トルコのワインを傾けながらワールドカップを観戦するのもいい


ドイツ、スペインとこれもワイン大国のリーグに所属する選手が多い中、本田のメキシコ、吉田麻也のイングランドもワインはうまい。こうしてみると日本代表の多国籍化はワイン好きとしても楽しいものだ。

あの英雄の最後とこれからを焼き付けろ!

サッカースペイン代表であり世界的スタープレイヤーのイニエスタ。今回が最後のワールドカップの舞台だが、衝撃的なニュースがその前に入ってきた。なんとスペイン一筋の彼が日本を次の人生の舞台にするというのだ。そしてこれはワイン好きにもインパクトがあった。というのもイニエスタは『ボデガ・イニエスタ』というワイナリーを生まれ育った地元で設立し、このワインの評判がいいのだ。決して高級な芸術品ではなく、彼の人柄のようにどこか優しく気さくで、でも、彼のピッチ上のプレイのような喜びもある。

▲イニエスタが設立したワイナリー『ボデガ・イニエスタ』の輸出部長、ホセ・ラモンさん


以前から日本でも販売されていて注目をしていたが今年3月、輸出部長のホセ・ラモンさんが来日され、じっくり飲みながらお話しできる機会を得た。ワインそのものはもちろん、ボデガの背景、イニエスタがこのワイン、ワイナリーにかける想いなどを軸に、今まで知っていた情報をアップデートできたが、何よりもワインを通してまたイニエスタの優しさなど、故郷への想いを強く感じた。ホセ・ラモンさん自身もこの故郷出身。ドイツの大学で学び、世界を旅して、ドイツ語、英語などの語学、世界での体験をお土産に故郷に戻り、イニエスタにジョインした。

「ドイツは学ぶ環境としては素晴らしかったけど、なにもなくても僕はやっぱりこの村が好き。イニエスタは素晴らしいチームで素晴らしい仕事をしています。この村には英語を話せる人はいないんですよ。僕の経験とスキルがここで役に立てること。これもイニエスタが地元でこうしたワイナリーを設立したからできること」

農業が主要産業で若者は都会に出ていく中、イニエスタのワイナリーは、地元のボーイズたちを雇用するという目的ももち、オリーブオイルや小麦なども栽培する。どこか優し気な、ワインの専門的な言葉でいえばステンレスタンクながら軽い樽の包容力を感じるのは、オカルト的といわれてもかまわないのだが、人柄がにじみ出てるのかなあ、という感覚。そういう物語に、より酒も食もうまかった。

最後の大会を見ながらのテーブルに用意したいアイテムは?

それは、イニエスタ自身が忘れられないゴールの場面を名前にした「ミヌートス116」だろう。ブランコ(白)とティント(赤)の2種。この「ミヌートス116」は、直訳すると「116分」。サッカーファンなら歓喜の声をあげるかもしれない。2010年南アフリカ大会、ヨハネスブルグ、スペイン対オランダによる決勝戦。激戦というよりもイエローカードが続出する削りあいの死闘はPK戦までもつれこむかという延長後半11分。つまり通算116分目。センターライン付近で自らの華麗なパスで起点となり、最後は右45℃、静かに弧を描くトラップから見事なゴール! これが決勝点となりスペインに栄冠。この彼の中でも最高のシーンを名前にしたワイン。それだけでなにか、飲んだだけでも気持ちが揺れ動く気がする。

最後はかなり熱い一文となったが、今大会もきっと記憶に残る試合、場面が続出することだろうし、そこにいい酒、いいワインがあればなおさら熱い。ぜひテレビの前に、あなたらしいワインセレクトで楽しんでみてはいかがだろうか。


写真提供(一部):PIXTA