原点は“ラーメン愛”ではなく、“オマールエビ愛”
高級フレンチなどでしかお目にかかれない、オマールエビ。そのおいしさを知る人が限られていることを残念に思ったあるフレンチのシェフが、オマールエビを大量に使ったラーメンを考案し、話題を呼んでいるという。
そんな大注目ラーメンとはいったいどんなものなのか。神保町にある噂の『海老丸らーめん』を訪ねた。
お店は白山通り沿いで、水道橋と神保町のほぼ中間にある。道路に面して大きな「海老〇(丸)」の文字が目を引く。間口も広く、外から中の様子がよく分かるので、女性でも安心して訪れることができる。
店内はラーメン店というより、ビストロのようなお洒落な雰囲気。各所に(お手洗いにまで!)エビをモチーフにしたアート作品が多数飾られており、エビへの愛情がひしひしと伝わる。
「どん底に落ちたからこそ、本気でラーメンと向き合うことができました」
店主のマサさん(写真上)は、老舗フレンチ『シェ・イノ』や海外の一流レストランで腕を振るった経歴を持つ。西麻布のフレンチレストラン『エゴジーヌ』のオーナーシェフでもあるが、現在は信頼できるスタッフにほぼ任せ、基本的に毎日『海老丸らーめん』の厨房に立っている。
「この店では、僕の作ったラーメンだけを出したい。『エゴジーヌ』のお客さんも『マサは今、本気でラーメンを作っているから』と理解し、応援してくれています」(マサさん)
今でこそ人気店だが、オープン当初はフレンチの技法で作ったエビ全開のスープに、多くのラーメンマニアたちからダメ出しが炸裂。半年ほどは閑古鳥が鳴いていたという。ショックを受けたマサさんは、そこから本気でラーメンを研究し、ラーメン独特のセオリーに気がついたそうだ。
フレンチでは、スープに塩を加えてうまみを引き出すのが常識。だがラーメンスープは、「かえし」と呼ばれるタレにうまみ成分と塩分を凝縮させている。そこで、エビのうまみをさらに引き出すための「かえし」を研究し、改良を重ねた。
現在は煮干し、鯖節、鰹節、酒、味噌などを煮詰めた「和のかえし」、ホタテやカキなどの貝類と少量のエビで作った「魚介のかえし」を3:1の割合で配合。そこに、かえしと合うようシンプルに仕上げた「オマールエビのスープ」、丸鶏やモミジ(鶏の足先)を15時間ほど煮込んで作った「鶏白湯」を9:1の割合で配合したWスープを加えている。
麺は、濃厚なスープとの相性を考え、6分半茹でる太めのものを使用。
こちらが研究を重ねて改良した「元祖海老丸らーめん」(写真上)。
スペイン産豚を低温でじっくり真空調理したチャーシュー、スモークで風味をつけた卵、サワークリームをトッピングしたフランスパン、みじん切りのオニオン、生野菜が彩りを添えている。
想像以上のエビの濃厚さ!多層的な味わいが、まるでフルコースのよう
スープをひと口飲むと、想像以上に“エビが濃い”こと、さらにうまみが多層的なことに驚く。エビの強烈なアタックに続き、後からあらわれる様々なうまみに連打されるようなインパクトである。
その多層的なうまみを、もっちりとした麺がどっしり受け止めている。具も一つひとつの存在感が強く、まるでフレンチのフルコースを味わっているかのようだ。
さらに驚いたのが、“味変”の幅の広さ。
エビのうまみが凝縮された卓上の「自家製ラー油」をプラスすると、エビの味わいが一段と濃厚に。さらに「オリジナルカレースパイス」で一気にアジアン風、トッピングの「サワークリーム」を溶かすとクリーミーに……と、同じスープとは思えないほど幅の広い変化を楽しめる。
驚きは、麺を食べ終わった後も続く。
「〆のリゾット」(写真上)を注文すると、熱々の器に入った白米、卵黄、小エビが運ばれてくる。そこに残ったラーメンスープをかけてよく混ぜ、さらにマサさんが削る大量のパルミジャーノチーズで雪化粧を施した後、さらに混ぜれば絶品リゾットの完成。ラーメンを食べ終えたばかりでもスプーンが止まらないおいしさだ。
常連の目当ては、2週間で消える超ユニークな「限定まぜそば」
実はこの店には、常連のハートをがっちり掴んでいるメニューがもうひとつある。それは2週間ごとに変わる「限定まぜそば」。「ラーメンという軸でどこまで遊べるか、新しいラーメンゾーンを追求しています」(マサさん)というだけあって、どれもユニークなものばかり。
「新メニューが登場する前になるとみんな、新作のイメージの探りを入れてくるんですよ(笑)」とマサさんは嬉しそうに語る。
▲壁には歴代のまぜそばメニューが細かく描かれている。
5月21日から6月3日まで提供していた第5弾の限定まぜそば「恋に落ちた青のりとベーコン スモークの誘惑」(写真上)。青のりを混ぜると和風味に、レモン汁を混ぜると冷やし中華風に、最後にスモークオイルを混ぜると高級パスタのような味わいになるという“味変まぜそば”だ。
これらに加え、「海老のアヒージョ」(写真上・左)、「海老ワンタン」(同右)など手軽な小皿料理も豊富なので、バルのようにも使える。これには、ファンも大歓喜間違いない。
情熱と謙虚さを持って、さらなる進化を続ける
オマールエビを大量に使用した贅沢なラーメンを850円で提供できるのは、年間5tのオマールエビを一括購入契約しているからだという。かなりの借金をしたというが「850円で出せなければ、この店をやる意味がないと思ったんです」(マサさん)。
取材中、レシピの極意をあまりにもあっさり教えてくれることに驚いた。そのおおらかさは、「教えても真似できるわけがない」という自信の表れなのだろう。一方、HPには「もし、お口に合わなかったらごめんなさい。ヒントになるアドバイスください」というお願いも。
突き抜けた情熱と謙虚さで、これからますます進化を遂げそうな『海老丸らーめん』から目が離せない。
【メニュー】
元祖海老丸らーめん 850円
〆のリゾット 300円
本日のイケ麺(限定まぜそば)950円
海老ワンタン 350円
海老のアヒージョ 480円
※価格はすべて税込
海老丸らーめん ebimaru Lobster Soup Noodle
- 電話番号
- 03-6272-6416
- 営業時間
- 平日:11時半〜15時/18時〜22時 土日祝日:11時半〜20時
- 定休日
- 月曜定休 ※月曜が祝祭日の場合は火曜定休
- 公式サイト
- https://ebimaru.com/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。