シャンパーニュは刺激的でかっこいい! なぜか……
シャンパーニュは二面性、つまり相反する要素を持った酒で、それを体感するといろいろなことが腹に落ちるし、より幸せを感じることができる。
ワインに恵まれない土地だからこそ、通常のワインでは得られない宝物が生まれたこと。
勝利の場面にも敗者の傍らにもあること。
セレブリティなパーティの場面と、黙々と畑とセラー酒造りに取り組む人々の極端な場面。
黒ブドウの風格(ブラン・ド・ノワール)と白ブドウ(ブラン・ド・ブラン)の気品。
ノン・ヴィンテージという技巧とヴィンテージという自然への畏怖。
男の艶と骨格に対する女性的エレガンスと優しさ。
この相反する要素が強ければ強いほど、そこから生まれるのはハーモニーやバランスではなく、新たに生まれるインテンス(刺激的なかっこよさ)だ。
西麻布なのに…カジュアルスマート! 18時~19時はワンコイン
西麻布交差点のほど近くにある「シャンパン・バー」。と、書くと、謎だったり艶っぽかったり、いずれにしても敷居の高そうな響きしかない。それが一面だとすれば、もう反面がある。
そう、とっても気軽。といってもただ騒がしいとか、やけに安いとかではなく、雰囲気がとても落ち着いている。照明も明るめで、席数も多く余裕があり、カフェ的な感じのテーブルスペースに、フレンドリーなカウンターと人数や気分で使い分けられる空間もいい。サンダル履きではなく、スマートカジュアルやドレスダウンぐらいが気分のいい店だ。
こちらのお店、もともと大阪・北新地でシャンパン・バーを2軒手掛け、当地のシャンパーニュシーンのけん引役でもあった山本一人(かずひと)さん(写真上)がオーナーを務め、山本さん自身もカウンターに入る。シャンパーニュと出会って30年。その間、お酒といえばシャンパーニュオンリー。自ら店を出すだけではなく、関西のシャンパーニュに関わる飲食店を中心に、日本にシャンパーニュ文化を広げることを目的とした「リヤン・ドール・ドゥ・シャンパーニュ」を発足させ、現在も会長としてさまざまなイベントを開催。ワイン学校での講師を務め、生産者からの信頼も厚い。まさにシャンパーニュに魅了された人生だ。
だから知識も経験も情熱も豊富。ちょっと重い? だが、大阪人気質(と、ひと言でいうのは気が引けるが)の軽妙なおしゃべりがそこに加わると、なんともシャンパーニュが楽しくなる。
ある日は、「シャンパーニュのことをもっと知りたい」という女性客たちに、急きょ始まる、オリジナルのクイズで楽しくお勉強タイム。モテたい男性からの「デートに使いたいシャンパーニュ」から玄人っぽい方からの「梅雨時のじめじめの1杯目は?」といったリクエストにも笑顔と軽口で的確なアドバイス。
グラス・シャンパーニュは、常時5種類程度が用意され、いずれも2,000円前後で、グラスには十分な量が注がれる。18時~19時はこれがワンコインというからうれしい。
表の顔はオープンマインド。では、裏の顔とは?
この日最初にオーダーしたのは『ローラン・シャルリエ ブリュット プルミエ・クリュ NV』。エッフェル塔のラベルが可愛らしく、アロマは慎ましやかで、テイストは癒し系。仕事の疲れが少し解ける。すると山本さんが素敵なエピソードを。
「造り手さんご夫妻はおじいちゃん、おばあちゃんなんですけど、このイラスト、実は彼らのプロポーズの場面がそのまま描かれてるんですよ(ニッコリ)」。
月夜のエッフェル塔に、2人を乗せたフランスの国民車シトロエン。なんとも素敵なお話。これもまた、山本さんの楽しませ方。いついってもゲストたちの愉快そうな笑い声がBGM。山本さん曰く「食事も楽しみながら、気軽に楽しんでいただきたい。お店もシャンパーニュも、敷居を下げるというのではなく、世界を広げるお手伝いがしたいんです。そこから深みにはまっていただければ…ね(笑)」
その象徴の一つが「タコシャン」(写真上)。たこ焼きとシャンパーニュのペアリングだ。これが実によくはまる。
熱々トロトロ。食べやすく切られたタコの食感が心地よい。たこ焼きは結構なボリュームで、これにシャンパーニュ2種類をあわせれば、お腹も気持ちも存分に満足できる。
ということで、もう1杯、合わせたのは『モント―ドン』のロゼ。軽やかで快活。ドライなテイストがソースの甘みにもよく合い、色もたこ焼きと引き合う。西麻布で、たこ焼きにシャンパーニュ。なんだか混乱するが、山本さんのキャラクターと経験の蓄積があってか、なんの不思議も生まれず、ただただ居心地がいい。もちろんフレンチ・ビストロ料理も充実。王道の組み合わせも堪能できる。
さて、表と裏がある、と冒頭に書いた。表が、ベテラン紳士の山本さんが創るオープンマインドな世界を存分に楽しむ場とすれば、その裏とは…。そして、こちらの店の名は…
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