上大岡に誕生した「ラーメン店併設型ブルーパブ」で、新たなラーメン&ビールに出逢う
クラフトビール人気を反映し、個性的なブルーパブ(店内にビールの醸造所を併設する飲食店)が急増するなか、2018年5月にオープンしたのがラーメン店併設型ブルーパブ『Roto Brewery、麺や天空』。
もともとビールとラーメンの相性は抜群だが、この醸造所では、よりラーメンと相性のいいビールを追求しているという。
『Roto Brewery、麺や天空』があるのは、京急本線・横浜市営地下鉄ブルーライン上大岡駅から徒歩5分ほどのところ。外からも、窓越しに醸造タンクが見える
カウンターのみの店内は、いかにもラーメン店らしい作りだが、インテリアは渋めの隠れ家風である。
入口近くのカウンター席は「醸造所」ビュー。
タイミングが合えば、ビールを仕込んでいる様子を眺めながら、できたてのビールを味わえる特等席だ。
やるならとことん追求、衝撃的な出逢いからビールにのめり込む
『Roto Brewery、麺や天空』店主の麻生達也さんは、上大岡で生まれ育ち、現在は上大岡周辺に家系ラーメン店『ぱるぷん亭』、江戸前鮨店『まほとら』など6店舗を経営している。
経営するバーでは自らバーテンダーとしても店に立っていたが、徐々に売っている酒を混ぜるだけではなく、自分で一から作りたいと思うようになったという。
そんな折にスコットランドの「パンクIPA」というクラフトビールと出逢う。今までにない味わいに衝撃を受け醸造元を調べたところ、そのブルワリーが設立まもないにも関わらず、権威あるビールコンテストを総ナメしていることが分かった。
「クラフトビールの世界では、若い会社でも品質がよければ高く評価される。そこにも強く心を動かされました」(麻生さん)。
ラーメン店を併設したのは、クラフトビール界のカリスマで、大のラーメン好きとしても知られているミッケル・ボルグ・ビャーウスさんへの憧れからだという。また、ファミリーの多い上大岡という地を考慮し、クラフトビール以外の大きな魅力が必要だったのも理由だという。
出店を考える前にビール作りをきちんと学びたいと、東京農業大学醸造科学科 に入学。仕事が多忙になり中退したものの、1年間、ビール作りを含む醸造学をみっちり学んだ。2018年4月上旬に満を持して最初の仕込みを始め、5月12日に初回醸造分を京急百貨店でお披露目し、自身のビール作りに自信を持てたという。
小麦をたっぷり使った、シンプルなホワイトエールの爽やかさ
オリジナルの「上大岡ビール~日焼けしたアリーナ~」は、爽やかなホワイトエール(大麦と小麦を使用した白ビール)。
煮沸(しゃふつ・麦汁を加熱して分解を完全に止め、かつ殺菌し、好ましくない香りを飛ばす工程)時にコリアンダー、オレンジピールで風味付けするのが伝統製法だが、こちらではあえてそのような副素材を使わず、たっぷりの小麦だけでキレのある酸味を際立たせ、ラーメンに合う味に仕上げている。
▲均一になるよう攪拌(かくはん)し、温度を調整して麦芽の糖化を進める
▲仕込みの時、甘い香りの広がり具合で、糖分の仕上がりイメージがつかめるという
アッサムティーの茶葉を使ったビール「ハッサン」、ほんのり黒豆が香る「黒豆エール」、「レモンエール」など、新たな味わいのビールも次々に完成している。
「今後は蜂蜜を使ったハニーエールも作ってみたいですね。ビールって料理と一緒で、組み合わせ次
第で無限に作れるんですよ」と麻生さんは目を輝かせる。
「上大岡ビール~日焼けしたアリーナ~」(写真上)は、ホワイトエールの特徴であるフルーティな酸味も強いが、小麦の香ばしさもしっかり伝わる。喉を通る時の、麦の香りの広がり、甘い余韻の長さ…。
これだけでもたまらなくおいしいが、ラーメンとのペアリングはどうなのか。いやがうえにも期待が高まる。
スープにも麺にも“隠し技”が満載の絶品ラーメン
「鶏白湯と煮干しラーメン」(写真上)はプロの技が満載。トッピングは低温調理した鶏胸肉のチャーシューと豚の肉刺し、さらしネギとシンプル。
豚の肉刺しはスープの熱ですぐに火が通るので、ぜひ最初に味わってほしい。
上記通り、まずは豚の肉刺しをいただく。薄くやわらかいのに、かみしめると肉のうまみがあふれ出す。鶏胸肉のチャーシューは、どこまでもしっとりなめらか。そして麺とスープに進む。
最初に驚いたのが、鶏白湯スープのうまみの濃さ。鶏と煮干しの2種類のだしを別々にとり、鶏1:煮干し3の割合でブレンドしているのだが、煮干しの魚臭さが皆無で、うまみだけが効果的に凝縮されている。
麺は川崎にある『大橋製麺所』の平打ち麺を使用。口当たりに変化をつけるため、太さの異なる番違いの麺を混在させるというこだわりようである。
このうまみたっぷりのスープをさらに引き立てるのが、「上大岡ビール~日焼けしたアリーナ~」のすっきりした酸味。ビールの小麦の香りと麺の小麦の甘みが響き合い、ビールとラーメンを交互に味わうたびに両者の味わいが増幅していく。まさに完璧なペアリングだ。
ラーメンだけじゃない! 仕掛けだらけの一品料理も絶品
フードメニューでぜひ味わってほしいのは、ラーメンのトッピングにも使用している「豚の肉刺し」(写真上)。低温調理でとろけるように仕上げていて、作りたての生ハムのような味わいだ。
十数種類ある天ぷらは、サブメニューながら、しっかり下味をつけて揚げている。「こうすることで生揚げにならないし、おもしろい味わいが生まれるんです」と麻生さん。
また、「大根の天ぷら」にはとろろ昆布、「アスパラガスの天ぷら」には削りたてのチーズ、「ベビーコーンの天ぷら」にはパンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)など、トッピングの工夫も秀逸。
芯まで味がしみた「大根の天ぷら」(写真上)は、まず衣の香ばしさとクリスピー感でビールが進み、大根にしみただしの味でさらにビールが進む。1品200円ながら、侮れない立派な一品料理だ。
近所のおじいちゃんたちも飲める、おだやかなビールを作りたい
ここで素朴な疑問が。
なぜ、ビール作りのきっかけになったIPAビール(大量のホップを使用した苦みの強いビール)を作らないのか。
麻生さんに聞いてみると、「大好きな上大岡の地元の人たちが、気軽にクラフトビールを楽しめる店にしたいんです。まずは地元のおじいちゃんたちが喜んで飲めるような、おだやかなビールを作りたいですね」という答えが。関西風の優しいうどんをメニューに入れているのもそのためだ。
また運営しているパン屋で余ったパン生地をビールの中に入れて風味付けをしたり、ビールをろ過した後の小麦を近隣の牧場に分けたりと、食品リサイクルにも積極的だ。
「日本は食品廃棄量が世界トップクラス。せめて自社内ではできるだけ廃棄しないでやっていきたい。こうした取り組みをどんどん広めたいんです」と語る。
ここ『Roto Brewery、麺や天空』には、隠れ家風の洗練された雰囲気のなかに、麻生さんの優しさがいっぱい詰まっている。
【メニュー】
上大岡ビール~日焼けしたアリーナ~ 700円
ハッサン 700円
黒豆エール 700円
レモンエール 700円
鶏白湯と煮干しラーメン 750円
豚の肉刺し 600円
大根の天ぷら 200円
とり天うどん 600円
※価格はすべて税別
Roto Brewery、麺や 天空
- 電話番号
- 050-1360-1069
- 営業時間
- 11:00~23:00(料理L.O. 22:00、ドリンクL.O. 22:30)
- 定休日
- 日曜日 ※ほかに夏季休暇、年末年始休暇あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。