プラントショップの奥に広がるレストラン空間で食事の時間を楽しむ
完成当時、東洋一と謳われた全長800mのアーケード商店街があり古き良き街並みが残る武蔵小山。商店街の反対側である駅東口は、現在再開発の真っただ中で、これからさらなる注目が見込まれる街のひとつだ。ここに新たにオープンしたのが『WINE/BISTRO Eme(ワイン/ビストロ エメ)』。グリーンのアーチが目印のプラントショップ『TRANSHIP』の奥に入ると、木の温もりあふれるレストラン空間が広がっている。
こちらをオープンしたのは、武藤恭通シェフ。1979年生まれの武藤シェフは学生時代から職人に憧れを持ち、将来の職業を考えていた。
料理経験はなかったものの、身近で幸せになれるものをと考えた末、食に特化した職業である料理人の道を志すようになった。高校卒業後は、都内の有名店でカリフォルニアフレンチ、横浜の自然派料理店などで下積み時代を過ごした後、ニュージーランドや台湾でジャパニーズフュージョン料理をふるまい、外国の文化や素材に幅広く触れてきた経験も持つ。
「さまざまな料理を作ってきましたが、ヨーロッパの小さな村や街に伝わる“おいしいもの素敵なもの”を巡る旅に出ている中で、その歴史と技術の奥深さを感じてさらに追及したくなり、本場のフランスにも訪れました」。
武藤シェフがフランスに出かけたきっかけはもうひとつある。バスクにいる豚の飼育から生産を行う肉の加工職人であるシャルキュティエのピエール・オテイザ氏の作るシャルキュトリー(食肉加工食品)のおいしさに感動し、この人のもとで働きたいと強く思ったことが背中を押した。
2009年に渡仏後はこちらで働く機会を狙いながら、パリやブルゴーニュの町場のレストランから現地フランスの『ミシュランガイド』で星に輝いたフレンチの名店まで、さまざまな店で働いていたという。そして、ついにバスクで働く切符を手に入れてシャルキュトリーの仕事も経験し、バスク地方で食べたバスク料理にも魅了された。
帰国後は、代官山の老舗フランス料理店『マダム・トキ』で副料理長に就任し、2013年にはソムリエ資格も取得した。さらに、2015年にはニュージーランド時代に出逢ったマスタードをメインにした店『wine & mustard A』の新規立ち上げに参加し、料理人兼ソムリエとして店を盛り上げていた。
その間にも武藤シェフは自身の店のオープンのためにさまざまな活動をしていたが、理想の物件が見つかり、今年晴れて『Eme』をオープンした。
「レストランのみの場所にとどまらず、心も満たしてくれる場所としてライフスタイルショップとの併設店舗をずっと探していました。プラントショップの『TRANSHIP』さんと空間を共有することで、お客様はもちろん、自分たちも居心地のいい空間を目指しました。店頭では調味料やシャルキュトリーの販売も行って、地域の人が気軽に訪れることができるような店舗づくりを目指しました」と、武藤シェフ。
フランス郷土料理、南西部のバスク料理や総菜を中心にした素材にこだわる料理
料理の一部を紹介しよう。「フレンチタパスの盛り合わせ」(写真上)は、前菜を少しずつ盛りつけた贅沢な一皿。この日は、定番のパテ・ド・カンパーニュにインドネシアの純胡椒をトッピングしたもの、ピエール・オテイザ氏のサラミやチョリソー、ミキュイ(半生)に火を通した一本釣りの鮪の南仏マリネ、マンゴーの白和えが盛りつけられた。バスク料理といいながらも、豆腐やだしなど日本の素材や調味料などを使いながら仕上げていくのが武藤シェフらしさの表れだ。
「天然海老のビスクのクレームブリュレ」(写真上)は、甲殻類尽くしの日本料理を出す『うぶか』から紹介してもらったという天然の車エビを丸ごと潰してアメリケーヌソースにしたものをクレームブリュレ仕立てに。濃厚な海老の甘みがうまみと相まって、素材の味わいをダイレクトに感じられる一品だ。
バスクを代表する郷土料理の「スープ ガルビュール」(写真上)は、白インゲン豆と香味野菜を生ハムのだしでコトコトと煮たもの。加工肉の食文化が発達しているバスクでは、生ハムの骨に近い部分まで余さずに料理に活用しており、このようなスープ料理が生まれた。生ハムからは濃厚なだしが出て、野菜の甘みと相まって、滋味深い味わいだ。「地方の文化や伝統を大切にしていきたいと思っています。先人たちの知恵が詰まっている“名前のある料理”をベースにして、自分なりの解釈を加えた一品を作っています」。
メイン料理には「ハニーローストポーク ピペラード添え」(写真上)を。低温でローストしてからハチミツでキャラメリゼした千葉県産の三元豚は、武藤シェフがニュージーランドで働いていた時にマヌカハニーを塗ったBBQ肉がおいしかったところからヒントを経て生まれた一品。付け合わせには、バスク料理には欠かせない赤ピーマンのトマト煮込みであるピペラードを添えている。バスクにしっかりと軸を置きながらも、経験から生まれたおいしいが一皿に凝縮されているのだ。
ソムリエの資格を持っている武藤シェフは、ワインにも造詣が深い。バスク地方はもちろん、フランス、オーストラリア、ニュージーランド、スペイン、イタリアなど世界各地から仕入れた200種ほどのワインは、自らが畑や生産者を訪れて出逢ったもので、どのワインも自信をもって提供できるものだ。
「まだ店はスタートしたばかりですが、食を通じて豊かさを伝えていきたいと思っています。店名のEmeとはフランス語でlikeやloveという意味の動詞の発音記号なんです。好きな人、大切な人とモノが集い、おいしい食事やお酒を楽しめる空間にしていきたいという願いを込めています」。
武藤シェフが今まで出逢ってきた“好きなもの”が集まったレストランは、訪れる誰をも笑顔にしてくれる空間になっている。
撮影:平瀬夏彦
【メニュー】
季節のフルーツ白和え 800円
天然海老のビスクのクレームブリュレ 900円
ミキュイにした一本釣り鮪の南仏マリネ 1,500円
フレンチタパス盛り合わせ 1,300円
スープガルビュール 1,300円
シャルキュトリー盛り合わせ 1,500円~
ハニーローストポーク ピペラード添え 2,100円
※価格は税別
Eme(エメ)
- 電話番号
- 050-5487-3703
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- ランチ 12:00~14:30
(L.O.14:00)
ディナー 16:00~22:00
(L.O.22:00)
- 定休日
- 月曜日
不定休あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。