酒場も美容室も、人が集まり出逢い語らう「サロン」である【酒旅ライター・岩瀬大二】
サロン。それはもともとの語源をたどれば、知的な交流の場だ。それはただ人が集まり、それをもてなすというだけではなく、文化や芸術、学問や世の中のいろいろなことを語り合える場。自分を磨くこと、美しくすること。こうしたことに関心のある人たちは、心を豊かにする集まりの場を欲しているのだろう。美容室のことをサロンというが、それもうなずける。
昔、床屋はサロンだった。その地域の旦那衆が集まり、政治のことを話し、地域のことを話し、たまには思わぬ助け合いや、新しい文化的な活動がそこから始まったりもする。床屋談義と書くと、ただのガス抜き的な雑談にも思えるけれど、ただ髪の毛を切り、髭をそってスッキリするという目的で使う場ではなく、何かが得られるインプットの場でもあり、自分の知識を誰かに伝えられるアウトプットの場でもあるわけだ。髭の手入れと歴史小説を語ることがワンセット。なんとも豊かな時間じゃないか。
酒場も同じだと思う。酒や食を楽しむということは、一義的には、酒と食そのものを楽しむということなのだけど、もうひとつは、サロンや床屋同様に、何かが得られるインプットの場でもあり、自分の知識を誰かに伝えられるアウトプットの場でもある。地元の酒場でも、旅先の酒場でも、そこの主人やそこで出逢った客同士、心を豊かにする集まりになる。酒旅ライターなんて仕事をしているのも、こうした一期一会だったり、どういうわけだか長く続く縁になったりという得難く、嬉しい体験をしているからなのだろう。
お酒を飲みながらヘアカットができる、酒旅ライター行きつけの「サロン」
さて、今回のコラムの本題。僕が長く通っている場所がある。それが、サロン、美容室であり、ある種酒場でもある、というユニークな場所だ。NYブルックリンの一角にでもありそうな雰囲気のエクステリアとインテリア。ドアをあけるとカフェバースペースとカウンター。その奥が美容室としてのスペースだ。この店がユニークなのは、単純にカフェバースペースと美容室が併設されているということではないことだ。そう、美容室として利用しながら同時に酒が楽しめるのだ。
僕の利用法はこうだ。まず通常のサロンメニュー。ヘアカットとシャンプー、そしてカラーリング。このカラーの時間に、ビールをオーダーする。カラーの出来上がりを待っている間に、雑誌をめくりながら、また、スタッフと談笑しながらビールを楽しむ。基本は、ハートランドかバスぺールエール。これを気分で変える。ボトルを1本飲み終わるころが、ちょうどカラーの様子がチェックされるという良きタイミング。これがまた気分がいい。
再びシャンプーをして軽くマッサージしていただき、最後にヘアをセット。気分がスーッと軽くなっているうえに、ちょっとだけアルコールを飲んで気分上々。ヘアスタイルもプロの手で決まっているから、町に出て飲みに行く気持ちも高まる。ということで、僕はこのサロンと夜の酒場は1セットの予定で組んでいる。
例えばこういう使い方もいい。夫婦やカップル。どうしても男性の方に時間が余ったりする。その場合、男性はカフェバースペースで、ゆったりとビールやライトなカクテルを楽しみながら待つ。待たせる方も気が楽だろう。そして、2人ともリラックスして、気持ちも上がって、帰りに一緒に食事にでる。お子さんと一緒でも、余裕をもって待てそうだ。もちろんどちらかだけを利用することもできる。お客さんの中には、毎日、コーヒーだけを飲みに来る人もいるらしい。
肝心のお店の情報だが…
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