注目のベトナム料理店シェフが作る、ベトナム版“おふくろの味”
『ミシュランガイド東京』のビブグルマン部門は、2015年度までフランス料理、イタリア料理、和食のみが対象だった。だが2016年度から、すべての料理カテゴリーに対象が拡大。日本のミシュランガイドで初めて、2軒のベトナム料理店がビブグルマンに評価された。そのひとつである池袋の老舗ベトナム料理店のシェフが独立し、六本木に、自身の故郷であるベトナム南部の伝統料理を提供する店をオープンしたという。
東京ミッドタウンと俳優座劇場のちょうど中間の裏通り。六本木交差点の喧噪が嘘のような静かな通りに佇む、清潔感のある白いビル1階が『ベトナム南部伝統料理 フーンナム 六本木店』(以下『フーンナム』)だ。
▲カウンター席がキッチン側と窓側に2カ所あり、ひとりでも気軽に食事できる空間。
テーブルには、ベトナム語で「いらっしゃいませ」と書かれた箸袋がおかれている。オーナーシェフのグエン・ヤンさん(写真上・右)がひとつひとつ、心をこめて書いたものだ。
グエンさんはベトナムの大学を卒業後に来日。旅行・ホテル関係の専門学校で日本のサービス業を学んだ後、大学に入り直して経営学も学んだという旺盛な向学心の持ち主だ。
グエンさんの作るベトナム料理のルーツは、実家にいた頃、母親が作ってくれた家庭料理にある。「学校が終わって家に帰ると、少しでも早くご飯を食べたい一心で、母の料理を手伝っていました(笑)」。
大学卒業後、日本で和食店のアルバイトをしていたグエンさんだが、東日本大震災の直後に義母が経営していたベトナムレストランの料理人たちが一斉に帰国してしまったため、期限付きで厨房を任されることになり、独学で必死に料理を研究したという。繊細でやさしい味わいのグエンさんのベトナム料理は大評判を呼び、店は『ミシュランガイド東京 2016』から2年連続でビブグルマンに。
その後、約束の期限が来たために店を辞めて独立し、2018年6月、自分の生まれ育ったベトナム南部の伝統料理を提供する店『フーンナム』をオープンした。
ひとくちにベトナム料理といっても、ベトナム北部に位置するハノイの料理と、中国料理の影響を受けている南部のホーチミンの料理はかなり違う。
グエンさんが生まれ育ったベトナム南部ミトー(My Tho)では料理に野菜をたっぷり使い、様々な種類のハーブやスパイスを繊細に使い分けるのが特徴。ミトーはメコン川クルーズの拠点としても知られていて、メコン川で豊富に獲れるエビなどの魚介類を使った料理も多いという。
ベトナムやアジアの代表的なビールを豊富に揃えている。薦められた「サイゴンスペシャルビール」はアジアのビールには珍しくコクがあって麦の甘みが強く、奥深い味わいのあるグエンさんの料理によく合う。
味にも形にも、作り手のやさしさがにじみ出ている
「ネットあげ春巻き」(写真上)は、前職のレストランでも大人気だったメニュー。細かい網目状の生春巻きを揚げることで得られる独特のクリスピー感と、しっとりやわらかな具のコントラストが絶妙で、やみつきになる。
「レタス巻き」(写真上)はベトナム南部で人気の春巻きのひとつ。ライスペーパーではなく旬の葉野菜と薄焼き卵を使って具を巻いている。具にはパクチーやミントなどのハーブがたっぷり。タマリンド(マメ科の甘酸っぱいフルーツ)を使ったたれがよく合う。重なるハーブの香りが爽やかな春巻きだ。
「レタス巻き」は、根元を茹でた野菜で縛ってある。食べやすく、一口で全体の一体感を味わうことができ、さらにおいしさが増す。
「どうしたら食べやすいか、食べる人の気持ちになって考えました」というグエンさん。こうした細やかなやさしさが、すべての料理から感じられる。
ベトナムの地ワインが秀逸。料理にぴったりマッチ!
「フーンナムフルーツサラダ」(写真上)は、グエンさんが特におすすめするメニューのひとつ。具は豚耳かエビのどちらかを選ぶ(写真はエビ)。グレープフルーツのほろ苦さにキュウリ・セロリ、人参など歯ごたえと香りのいい野菜、ハーブ野菜が加わり、全体をやさしい甘みのドレッシングでまとめあげている。
このサラダに合わせたのは、店でも大人気だというベトナムワイン「ダラットエクセレンス」の白。ダラットはベトナム中部にあるリゾート地で、ベトナムの地ワインの生産地としても有名。軽やかな味わいが、同店のベトナム料理によく合う。
中華鍋でじっくり火を通して仕上げるのは、これも大人気の「南部田舎お好み焼き」(バイン・セオ)(写真上)だ。
驚くのはその大きさ! 通常のベトナム料理店で食べる2倍くらいあるが、グエンさんの家庭ではこれくらいのサイズを何枚も焼いて食べていたという。
おいしそうな焼き色とパリッパリの焼き上がりは、米粉にココナッツパウダーを混ぜて焼いているため。
ナイフを入れると、フレッシュな食感を残して炒めた大量のモヤシ、豚肉、エビなどの魚介類があふれ出る。ナンプラーベースの特製だれに漬けて食べると、皮の甘みと香ばしさがさらに引き立つ。
熱々の容器に入って登場した「南部伝統温野菜」(写真上)は、ベトナムがまだ貧しかった時代、手に入りにくかった豚肉の代わりに豚の脂身を炒め、香草やナンプラーなどで味付けをしていた料理を現代風にヘルシーにアレンジしたもの。
肉入りのソースを温野菜でディップして食べると、野菜がいくらでも食べられてしまう。温野菜との相性もいいが、ご飯に乗せてもおいしそうな味なのは、隠し味にもち米から作ったベトナム焼酎を使っているせいかもしれない。
食事中のロータスティー(蓮の茶)とベトナムコーヒーはサービス。料理の一つひとつから、グエンさんの繊細さと誠実さ、ひたむきさが伝わってくる。そのやさしいおだやかな味わいが心にも深く沁みるのは、グエンさんの料理の中に、母親の温かな愛情が息づいているからだろう。
【メニュー】
フーンナムフルーツサラダ 970円
ネットあげ春巻き(2本) 680円
レタス春巻き(2本)780円
南部田舎お好み焼き 1,680円
南部伝統温野菜 980円
サイゴンスペシャルビール 720円
ダラットエクセレンス赤・白ワイン(グラス) 680円
※価格はすべて税込
ベトナム南部伝統料理 フーンナム 六本木店
- 電話番号
- 050-5487-3459
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
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ディナー 17:00~23:00
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