『柳家』から届く天然素材を、「ガストロノミー(美食学)」でフレンチに
熟練の猟師が射止めたジビエや店主自ら釣り上げる天然鮎など、春夏秋冬の山の幸を供する『御料理 柳家』。
山間にひっそりと店を構えているにもかかわらず、全国から美食家たちがこぞって訪れる。
その名店が2018年の4月、名古屋の一大繁華街・錦三丁目に『Gastronomie Saule柳家(ガストロノミー ソールヤナギヤ)』をオープンした。「Saule」はフランス語で「柳」の意。素材をリスペクトする『柳家』の精神を継承した、フレンチレストランである。
この華々しい舞台のシェフに抜擢されたのが野々山アキラさん(写真上)。名古屋の著名なホテルや数々の人気レストランでシェフとして活躍した、実績と信頼の厚さを評価しての人選である。
野々山さんが料理人の道を志したのは母の存在が大きい。料理に使うだしはもちろん、うどんやパン、スイーツなども、すべて手作りで、自宅で既製品を口にすることはまずなかったという。
恵まれた家庭環境で繊細な味覚を育み、率先して台所に立つうちに料理の楽しさに魅了され、気づいたらこの世界を歩み始めたそうだ。
野々山シェフの料理をさらに昇華させるのが、ソムリエの平田雄(ひらた ゆう)さん(写真上)のセレクトするワインたち。ワイン選びのセオリーを守りつつも、「あるべき論」を振りかざすことなく、野々山シェフが創造する味わいにピタリと寄り添うワインを提案する。
この息の合ったコンビが追求する「ガストロノミー(美食学)」を具現化したひと皿と一杯が、お客を甘美な世界へと誘うのだ。
フレンチのアプローチとテクニックで、地元の優れた素材を昇華させる
盛夏のこの日に提供された前菜は「イノシシのタンとハツのゼリー寄せ クルミ風味のサラダ添え」(写真上)。
ジビエ=冬の味覚と捉えがちだが、『柳家』を母体に持つ同店では、一年を通じてジビエを扱うことができる。真夏にジビエは重いというイメージは、ひと口食べれば瞬く間に払拭されるだろう。
香味野菜と一緒に煮込んだハツとタンをジュレ寄せにし、口内で軽やかにほぐれるよう仕上げているので、ヘビー感はまったくない。とはいえジビエらしさは損なわず、ワイルドで濃厚なうまみはしっかりと舌に伝えてくる。
くるみオイルベースのヴィネグレット(フレンチソース)をまとったサラダに、世界のシェフが注目する南半球の黒トリュフが香りと味わいに膨らみを持たせつつ、さっぱりとした後味に導く。
まさに『柳家』と『ガストロノミー ソール柳家』がコラボレートした味わいで、この先の料理にも期待感が高まるばかりだ。
素材選びに余念がない野々山シェフは、長時間の物流でストレスのかかった野菜や魚介類は極力使わないのがポリシーだ。
「落とし鱧にキャビアを添えて ベトラーヴのピュレ」(写真上)にもその理念が貫かれている。主役のハモは三河湾で水揚げされた、極めて新鮮なものを使用。三河湾のハモは皮が薄くて肉付きがよく、京都の料亭からも評価が高い。
丁寧に骨切りして湯引きしたハモに合わせるのは、ベトラーヴ(ビーツ)。ローストしたベトラーヴをトマトのスープで煮てピュレにし、そこへ土っぽい香りが立ちすぎないよう、練り梅のようなニュアンスを持つドライトマトのピュレを合わせて香りと味をコントロール。ここへキャビアのシャープな塩味が加わり、フレンチ然とまとまる。
育った環境が異なる素材同士を、月並みだが「ハーモニー」させるのも、野々山シェフのセンスと技量だろう。
続く魚料理の「スズキのエスカロップ ソースバジリック」(写真上)で扱うスズキも、三河湾の一色(いっしき)漁港から仕入れたもの。
網ではなく漁師が一本釣りしたスズキを即座に活き〆してあり、最高の状態で手元に届く。これを一人前ずつスライスし、低温でフワッフワに火入れ。ズッキーニなどの夏野菜を合わせ、ドライベルモット、ポルト酒(ポートワイン)、仔牛のフォンで作ったインパクトのあるソースとバジルのソースを調和させていただく。
ソースにスズキが負けてしまうと思いきや、全くそんなことはない。重さ4kgを誇る夏スズキは、脂がしっかりのってうまみが強く、フレンチで多用されるラパン(家ウサギ)のような印象だ。
付け合わせの野菜も地元の農家が丹精込めて育てたもので、味の濃さが素性の良さを物語る。このひと皿、赤ワインとマリアージュさせても面白い。
泉のように湧きあがるアイデアで、オリジナリティが光る一皿を構成
料理のラストを飾るのは「ブルターニュ産仔牛ロースのロティ ソースマデールとトリュフのピュレ」(写真上)。
仔牛を食べる文化のない日本では、サシの入った成牛を珍重するが、フランスでは脂身が少なくシルキーな肉質の仔牛を好んで食べる。
野々山シェフも仔牛に魅了されたひとりで、今回扱うのは、さらに希少な乳飲みに近い仔牛。そこへ芳醇なトリュフの香りと、ふくよかなマディラ酒(ポルトガル領マディラ島でつくられるアルコール度数の高いワイン)の味わいをマッチングさせ、相乗効果を狙うというから、期待せずにはいられない。
ナイフを入れると、肉汁をたたえたベビーピンクの断面が現れる。ソースとともに口へ運ぶと、和牛とは異なる繊細な食感に驚くばかり。仔牛のミルキーな香味と芳醇なソースが鼻腔を満たし、思わず目をつぶってしまうおいしさだ。
脇を固める野菜たちも、全体の構成を考えて手を加えてある。白ワインヴィネガーに漬けたゴボウは、ブリの照り焼きに添える「はじかみ(芽生姜の酢漬け)」をイメージ。箸休め的な存在となり、ひと口かじればまた肉とソースに戻りたくなる。
グリルしたポロネギ(地中海原産の茎の太いネギ)は、なんと野々山シェフのお父様作。栽培が難しいポロネギ作りにチャレンジするお父様のエピソードも、料理のスパイスになる。
お客、シェフ、ソムリエのセッションで作り上げる、料理とワインのマリアージュ
『ガストロノミー ソール柳家』にはいわゆるお品書きやワインリストはない。メニューは予約時にお客の好みをヒアリングし、季節感を反映させつつ構成する。
ワインはセラーのストックと平田ソムリエの頭にインプットされた情報をリンクさせ、その都度提案。「料理とワインのマリアージュには、バイザグラス(グラス単位でのワインオーダー法)でのサービスが一番だと考えています。シェフのお料理をよりおいしく召し上がっていただくために、今ある知識と経験を総動員してご提案します」と平田ソムリエ。
「彼のワインセレクトは本当にユニークです。ワインに造詣の深い方も『おもしろくておいしかったよ』と、必ず満足して帰られます」と野々山シェフからも太鼓判。オープンして間もないが、このやりとりだけでふたりの信頼関係が十分うかがえる。
これから秋が深まると『柳家』からシカやイノシシ、青首のカモなどが届き始めるだろう。『ガストロノミー ソール柳家』は周りの期待を一身に集め、初めてのジビエシーズンを迎える。
【メニュー】
コース料理 12,000円〜(料理・デザートで7品前後)
ボトルワイン(赤・白) 6,000円〜
※価格はすべて税込
Gastronomie Saule柳家(ガストロノミー ソールヤナギヤ)
- 電話番号
- 052-972-1230
- 営業時間
- 17:00〜(L.O.)22:00
- 定休日
- 日曜日、第1・3月曜日(年末年始・お盆休あり)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。