自他共に認める日本酒好きのフリーアナウンサー「あおい有紀」が“和酒”の魅力を発信!
いまや空前の和酒ブーム! 日本酒や焼酎、日本ワインなどの“和酒”が楽しめるお店が急増している。けれども本当においしい魅力的なお店は? そのお店のお酒や料理はどう楽しめばいいの?
唎酒師、焼酎唎酒師、一級フードアナリストなどの資格をもち、大のお酒好きとして各メディアで活躍中のフリーアナウンサー、あおい有紀さんが自分の足で探し歩いた「とっておきのお店」を訪れ、選りすぐりのお酒と料理を実際に味わいながらじっくりとその魅力に迫ります。
東京・日比谷の新名所「東京ミッドタウン日比谷」で愉しむ、京料理と日本酒
こんにちは。あおい有紀です。
今回は、2018年3月「東京ミッドタウン日比谷」のオープンを機に京都から出店された、京料理の老舗料亭『南禅寺 瓢亭(ひょうてい) 日比谷店』をご紹介します。
『瓢亭』は京都・南禅寺で400年以上前から営業を続ける老舗料亭。京料理の伝統を今に伝え続け、食の文化遺産ともいえる貴重なお店です。「東京ミッドタウン日比谷」のオープンを機にここに支店を出されたので、15代の高橋義弘さん自ら厨房で腕をふるう料理が、こちらでも楽しめるようになったのです。
じつは高橋さんとは以前から、食関連のイベントや勉強会などでご一緒する機会があり、お父さまである14代・高橋英一さんとも、酒サムライでもある関係で会合などでもご一緒させていただいたことがありました。そうしたご縁もあって、日比谷店オープンに際して、光栄にも私が日本酒のラインナップを広げるためのお手伝いをさせていただきました。
ではさっそく、中へとご案内いたしましょう。
隅々まで京都を感じさせる、美しき和のしつらえ
趣のある入り口から突き当たりを曲がり、客席へ。
石畳が敷かれた通路はゆるやかな上り坂。瞬時に、ここが東京であることを忘れてしまいそうなしつらえです。
靴を脱いで正座ができる茶室も設けられています。奥には椅子席の個室も。
L字形のカウンター席は12席。カウンターには畳が敷かれています。余分な装飾を排し、隅々まで京都を感じさせる和のしつらえはとても落ち着けます。こちらで高橋さんの包丁さばきを見ながら、お料理とお酒をゆっくり味わうのは、この上ない贅沢なひとときですね。
伝統の中にも斬新な工夫がさりげなく。繊細な京料理に寄り添う美酒に感動
お料理とお酒をご紹介しましょう。
初秋の夜のコース 懐石料理(11品)でいただけるお料理のなかから4品と、それぞれに合わせた日本酒のペアリングです。
1品目は「明石鯛のお造り 加減醤油 山椒醤油オイル」(写真上)。明石産の真鯛をシンプルなお刺身に仕立てたものですが、少し厚みのある身のプリプリの食感、繊細なうまみに感動しました。添えられた加減醤油は、トマトを醤油に浸けてなじませ、柑橘などで加減したもの。鯛のもつうまみがぐっと引き出されます。さらに青山椒と醤油の香りを移した山椒オイルを少しつけて味わうと、鯛の甘みが引き立ち、まったく新しい表情をのぞかせます。
加減醤油とフレーバーオイルは日比谷のお店だけで提供する、高橋さんのオリジナル。京料理の伝統に、新しい風を引き込む、高橋さんの試みです。
合わせたお酒は京都『招徳酒造』の「特別純米 京乃辛口」。
こうしたお造りには冷酒を合わせることが一般的かと思いますが、口あたりの優しい京乃辛口を“ぬる燗”でいただくことで魚の油脂分とよく調和します。余韻のキレもよく、鯛の繊細な味わいにぴったりでした。さすがです。
次は「八寸 鮎のうるか焼き ぐじの焼き目寿司 瓢亭玉子 銀杏」(写真上)。瓢亭の顔ともいえる瓢亭玉子は、創業当時400年以上前から提供されてきました。しっかり固まった白身に黄身がとろりととろけ、いついただいても飽きることはありません。
鮎のうるか焼きは、身のほうに鮎のわたの塩辛である「うるか」を塗ってぱりっと焼き上げた、香ばしさが魅力の一品。中骨を除いてあるので、頭からいただけます。ぐじの焼き目寿司は、皮目をあぶった若狭ぐじ(甘鯛)をひと口大のお寿司に。鮮やかな緑の銀杏を添えて、初秋らしい盛り込みになっています。
合わせたのは京都『齊藤酒造』の「英勲 純米大吟醸 一吟」。大吟醸らしい華やかでフルーティな香りが楽しめ、味わいもとてもきれい。彩り豊かな八寸を楽しみながら、少しずつ味わうのにぴったりなお酒です。
高橋さんご自身もこのお酒の魅力をよくご存知でいらっしゃるからか、英勲は八寸との相性がほんとうにぴったり。まだ2品めですが、お酒が驚くほどスイスイ進んでしまいました。
続いては「鱧(はも)と冬瓜のお椀」(写真下)。
骨切りした鱧を、利尻昆布と鮪節のだしで冬瓜と炊き合わせた1品。冬瓜はとろけるように柔らかく、鱧の下にはローストしたタマネギが敷いてあり、優しい甘みが鱧の味をさりげなく引き立てます。青柚子の香りが爽やかなアクセント。
合わせたお酒は宮城『新澤醸造店』の「伯楽星 特別純米」。香りはおだやかで食中酒として万能なこのお酒、合わせてみると、だしのうまみと鱧のうまみに、お酒のうまみがリンクして絶妙の相性でした。
鱧の骨切りをする高橋さん。こちらのカウンター席に座れば、包丁さばきを間近で見ることができます。
最後に「炊き合わせ 蒸し穴子 焼き椎茸 白芋茎 豆乳胡麻豆腐」(写真上)。穴子のふっくらした口当たりに、豆乳で作った胡麻豆腐の柔らかなコクが寄り添います。しゃきっとした芋茎(ずいき)と、肉厚の椎茸のおいしさも印象的でした。
合わせたお酒は福島『松崎酒造店』の「特別純米 廣戸川」。香りは控えめでありながら、口にすると甘みのボリュームが上品に広がり、穴子の味わいとよく調和します。こちらも食中酒として最適なお酒です。
新たな挑戦を続ける15代、高橋義弘さんの魅力
高橋さんがこのお店を任される際、さまざまな挑戦をされました。お造りに合わせたフレーバーオイルなどの試みも印象的ですが、だしの割合を変えていることもその一つ。利尻昆布と鮪節をベースにしているのは先代と同じですが、京都の店よりも昆布の分量を減らし、それに合わせて鮪節の量も調節しています。東京と京都では水が違うことも理由の一つですが、環境の変化から収穫が減り、値付けが高騰している日本の昆布の現状を憂慮し、他の素材も活用しながら味のバランスを調整することにしたそうです。
京都の老舗料亭を継ぎ15代となり、弟子を育て伝統を継承しながらも新たなチャレンジをし続けている高橋さん。ひとつの世界でプロフェッショナルとして国内外で活躍されているところも尊敬しますし、たくさんの刺激を受けています。
日本酒との相性も高橋さんがちゃんと考えられていて、料理と日本酒との相性をお客さまに楽しんでいただこうとする姿勢がとても魅力的です。とくに一品目の鯛のお造りに、あえて燗酒を合わせて来られるところは、さすが! と感じました。
すべてお座敷の京都本店とは違って、カウンター席で高橋さんや料理人の方々の包丁さばきを見ながらお料理とお酒がいただけるのは、日比谷のお店ならでは。そんなカウンター席での醍醐味と、お料理と日本酒を愉しんでください。
【メニュー】
昼:点心(6品)7,000円、懐石料理(8品)12,000円
夜:懐石料理(9品)18,000円、懐石料理(11品/お抹茶・お菓子付き)23,000円
※おまかせコースのみ。価格はすべて消費税・サービス料別
※品数は変更になる場合がございますのでご了承ください
編集協力:糸田麻里子(フードライター・エディター)
撮影:佐々木雅久
南禅寺 瓢亭 日比谷店
- 電話番号
- 03-6811-2303
- 営業時間
- 昼12:00~15:00(L.O.13:30)、夜17:00~22:30(L.O.20:00)
- 定休日
- 毎週月曜(祝日の場合は翌日火曜)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。