ぐるなび主催「GON MEETING2018」開催
2018年9月12日、帝国ホテル大阪で「ぐるなび戦略共有会議GON MEETING2018」が開催された。1日に渡って多彩なプログラムが実施されたが、その中でも飲食店経営者や外食ビジネスに携わるオピニオンリーダーによる講演に着目。本稿では特に注目を集めた『HAJIME』オーナーシェフの米田肇氏と、『中国菜 エスサワダ』オーナーシェフの澤田州平氏が行った講演をレポートする。
1.『ミシュランガイド』史上最速で三つ星に輝いた『HAJIME』
大阪市西区に店を構えるレストラン『HAJIME』(ハジメ)のオーナーシェフ・米田肇氏。近畿大学理工学部電子工学科卒業後、コンピュータ関連のエンジニアを経て料理の世界へと足を踏み入れた、異色の経歴を持つ人物だ。
「ガストロノミーを通して、人類の未来に貢献する」というビジョンを掲げ、さまざまな分野に挑戦をしている。緻密に計算された高い技術、革新性、妥協なき完成度と料理を通して表現される壮大な世界観が高く評価され、独立後わずか1年5カ月という『ミシュランガイド』史上最速で三つ星に輝いた。「Foodie Top 100 Restaurants」、「Asia's 50 Best Restaurants」、「OAD Top 30 Japanese Restaurants」、「The Best Chef Awards」などの世界ランキングにランクインする。さらに、世界を代表する100人のシェフ「100 chefs au monde」にも選ばれている。
「その街の価値は、レストランの価値で決まる」
世界からも注目を集めている米田シェフの講演テーマは、「その街の価値はレストランの価値で決まる ~『HAJIME』が創り出す価値とは~」というもの。「大阪でとてもいい料理を出しているのに、どうして東京で営業しているレストランの単価のほうが高いのか…、ずっと思っていたんですよね」。そこで、いい街にはトップレストランが集まるのではという発想から、『HAJIME』をオープンした2008年は昼4,000円、夜12,000円という価格を設定した。
「大阪人は金額に対して大変シビアですよね。安いほどいいという価値観も少なからずあります。友人は“そんな値段やったら一発でつぶれてまうで”と言いましたが、逆に自分は周りはやっていないから、いい方法だと思ったんです。良いものを作って、お客様に感動していただく量が金額として評価されると思いました」と米田さんは言う。
自分の料理の根源を求めて茶道や禅宗も追求する
独立した当初、『HAJIME』がとっていたスタンスは、お客様に「毎回新しいメニューを用意すること」だった。が、リピーターが増えすぎて早々に自分の中の引き出しが尽きてしまったという。そこで半年たったところで一度店を休んでフランスへと行ったという。「ある時自分の料理を出したら『これじゃ君が今まで働いた店のコピーじゃないか』と言われたんです」。その時は『そんなことはない!』と思ったが、米田さんの中で消化されずもやもやと残っていた。
そこで、自分の料理の根源はどこにあるんだろうと考え始める。「料理の世界に入るまでに遡って思い返すと、それは両親が作ってくれた家庭料理だったり、友だちと作ったカレーだったり、慣れ親しんだ料理だったんです」。
さらに、日本料理とはなにかを考えても、実は全然知らないことに気づかされた米田さん。京都に行って有名な料亭を訪れると、盛り付けの部分でも見栄えだけではなく、「今日は○△の日だから、これにここがあり、この食材を使っている」と言った具合に、すべてのことに意味があることに驚かされたという。
僕らの価値は僕らでしか作れない
そこから京料理を学び始め、さらにその奥には茶の湯を大成した千利休の美意識が働いているとわかって、茶道や禅宗まで追っていくように。千利休が創り上げた美意識、世界観に触れていく中で、ふと「自分のもつ世界観を自由に表現していいんだ」という考えに至る。「フランス料理や日本料理という枠にとらわれる必要はない。春には葉が芽吹いて、夏は昆虫が活動して、秋は気持ちいい風が吹いて…と、自分が美しいと思ったことを表現したらいい」と気づき、2012年に店の看板から「フランス料理」の文字を外す。
その後毎年5,000円ずつ金額をアップし、今は1人当たりの客単価は60,000円にまで達するように。「いい店というのは、焼き方、ソースの洗練さ、火の入れ方など、最初から最後までクオリティが高い。重要なのは、値段に対して内容が見合っているかどうか。僕らの価値は、僕らでしか作れないんです」と米田シェフは語る。
現在、『HAJIME』を訪れるお客の8割が外国人だという。「『HAJIME』が世界から注目を集めることで、僕の店はもとより、大阪のいろいろなところに足を運んでもらえることになる。B級グルメを巡ったり、バーを訪れたり、観光施設に行って、経済効果が波及する。そんな大阪を世界に広げる広告塔の気持ちでやっていきたい」と米田シェフは語ってくれた。
HAJIME
- 電話番号
- 050-5492-7651
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- ディナー 17:00~23:00
(L.O.19:00)
- 定休日
- 不定休日あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
2.「中華の枠にとらわれない、新風を巻き起こす『エスサワダ』」
続いて講演を行ったのは、大阪・西天満に店を構える『中国菜 エスサワダ』のオーナーシェフ澤田州平氏。「中華の枠にとらわれない、新風を巻き起こすエスサワダの戦略とは」をテーマに語った。
澤田シェフは、高校卒業後、学費を稼ぐためにアルバイトをした中国料理店で料理に興味がわき、辻調理師専門学校へ。その後、さまざまな店で修業を積み、香港へ。香港の名店『福臨門酒家』で本場の広東料理を学び、帰国後はグランフロント大阪『JOE'S SHANGHAI New York(ジョーズ シャンハイ ニューヨーク)』の料理長、心斎橋『中華旬彩サワダ』の総料理長となり、2016年に今の店『中国菜 エスサワダ』をオープンする。オープン後、わずか1年ほどで『ミシュランガイド京都・大阪 2018』の一つ星に輝き、大阪では街の中華料理店としては初の快挙となった。
日本料理やフランス料理の技法をアレンジして「うまみ」を創出
澤田シェフが生み出す中華料理の魅力は、なんといっても他では味わえない独創性。特にこだわっているのが「うまみ」だ。日本料理は「うまみ」の文化と言われるが、それを代表するのがだし。昆布から取り出すグルタミン酸とカツオから出るイノシン酸による相乗効果から生まれる「うまみ」が、古くから日本料理に利用されてきた。一方、フランス料理は肉をはじめ食材が加熱調理によって茶色くなり、香ばしい風味を醸すメイラード反応が、「うまみ」となる。
「自分らしい中華をと考えた時に、日本料理のように自然の食材から出るうまみをベースのだしに使ったり、フランス料理のようにメイラード反応からうまみを創り出したいと思ったんです」と澤田シェフ。
例えば、中国料理でだしといえば上湯(シャンタン)だが、澤田シェフの料理は、その上湯を和風テイストにアレンジ。鶏ガラや豚ガラからとる中国料理のだしにカツオ節を入れ漉して作る新しい上湯を完成させた。「フレンチ的なソースを添えることもあります。そういった他の料理からの技法などを取り入れ、最終的に僕の中国料理として昇華していければと思っています」。
自分の目で見て選んだ食材や生産者の思いも一皿にのせて…
他にも、仕入れは業者に任せっぱなしにせず、なるべく生産者に会うのも澤田シェフのモットー。「料理をお客様にお出しする時に、生産者さんの考えや想いに、自分の考えをのせるとすごく喜んでいただけるんです」。
例えば、名物の「クリスピーチキン」には、栃木県産の小ぶりな香鶏(かおりどり)を使用。こちらは香港での修業先『福臨門本店』の味を再現したかったのだが、日本の地鶏だと硬すぎる、皮が薄いと皮がクリスピーに仕上がらない…など、なかなか条件に合う鶏に出会えなかった。けれども、「4~5年生産者の方を探し回り、オープンのわずか1カ月前に出会うことができたんです」。皮目に熱い油をかけて仕上げたチキンは、皮はパリッ、肉はしっとりジューシーで濃い味わいが評判を呼んでいる。
中国菜 エスサワダ
- 電話番号
- 050-5486-9297
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- ディナー 17:00~22:30
(L.O.20:30、ドリンクL.O.22:00)
最終入店時間20時30分
*現在ランチ営業、アラカルトでの単品注文は致しておりません。
- 定休日
- 不定休日あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
『HAJIME』の米田シェフと『エスサワダ』の澤田シェフに共通すること。それは自分がいいと思うもの、自分がおいしいと思ったことを抵抗なく受け入れ、既成概念にとらわれず、それを体現していくところにある。ここでしか味わえない唯一無二の世界に、大阪の人のみならず、日本、そして世界の人達が「遠くても足を運ぶ価値がある」と評価をしているのである。これからも、両シェフは自らの価値をアップデートして、私たちを五感で楽しませてくれることだろう。