日本酒にも醸造所併設パブの波が! 斬新な酒を新鮮な状態で楽しめる
クラフトビールの人気の高まりを受け、都内にも急増している「ブルーパブ(店内にビール醸造所を併設したパブ)」。
2018年7月28日にオープンした『WAKAZE(ワカゼ)三軒茶屋醸造所 + Whim SAKE & TAPAS(ウィム サケ アンド タパス)』は、日本酒と、酒税法上の「その他の醸造酒」にあたる、どぶろくや玄米酒などの醸造所を併設したバーだ。
「日本酒を世界酒に」をミッションに活動するベンチャー企業『株式会社WAKAZE(わかぜ)』の直営店で、これまでの日本酒のカテゴリーにおさまらないような斬新な酒を、新鮮な状態で提供するという。
『WAKAZE 三軒茶屋醸造所 + Whim SAKE & TAPAS)』は、三軒茶屋・栄通りを抜けて目黒方面に少し歩いたところにある。
店内は、打放しコンクリート壁とシンプルな椅子とテーブルが印象的でスタイリッシュな空間。入口から向かって左側、ガラス戸の向こうが醸造所になる。
6坪の醸造室内には4つの小型タンクが並び、常時複数種のお酒を醸造しているという。日本酒の醸造光景を見ることのできる珍しい空間だ。
フードの食材は、『WAKAZE』創業の地である山形県庄内地方の生産者を直接訪ね、生産にかける想いのこもったこだわり食材を使用している。
「真澄」のあらばしりにショックを受け、日本酒の会社を起業
醸造責任者の今井翔也さん(写真上・左)と、『株式会社WAKAZE』代表の稲川琢磨さん(同・右)。
稲川さんは世界的に有名な大手外資系コンサルタント会社に勤務する超エリートだったが、「真澄」という日本酒のあらばしり(加圧せず自然にしぼり出した酒)を飲み、そのおいしさに「頭に雷が落ちたような」ショックを受けたのがきっかけで、『WAKAZE』を起業したという。
しかし現在の日本の法律では、基本的に「清酒(アルコール度数22度未満の日本酒)」の新規製造免許はおりない。そこで『WAKAZE』では、自社の蔵を持たず既存の酒蔵に製造を委託するスタイルで、これまでになかった新しい日本酒を開発し販売してきた。
だがある時、「副原料(原料のうち、米や米麹、水など主原料ではないもの)を発酵途中に使用した酒は『その他の醸造酒』扱いになり、一定の条件を満たせば酒造の新規免許が下りる」ということに気づく。
「日本酒の消費が落ち込んでいる最大の原因は、新規参入がなく新陳代謝が悪いから。僕たちが酒造免許をとり、新しい酒を世の中に送り出せば、新しい日本酒を作りたい人たちも新規参入しやすくなる。
そうすれば日本酒という枠組みを超えたイノベーティブな日本酒=SAKEが生まれて世界中に広まり、新時代が到来するのではと考えました」(稲川さん)。
老舗の酒蔵ほど、“挑戦”に対してあたたかかった
酒造りを指揮する今井さんは、群馬の酒蔵『聖(ひじり)酒造』の三男。東京大学で食品生化学を学んだ後、食品会社に就職したが、稲川さんの活動に共鳴し『WAKAZE』に参加。
秋田の『新政(あらまさ)酒造』や富山の『桝田酒造店』などで修業を積んだ。
「日本酒の蔵元は、新しい試みに挑戦し続けて来た歴史があるため懐が深い。老舗でも『自分たちにとっても刺激になる』と温かく迎えてくれるところが多く、ありがたかったですね」(今井さん)。
すいすい飲める、新感覚の“フレッシュどぶろく”
初回醸造酒の「どぶろく」(写真上)。仕込み水は地元三軒茶屋の井戸水を使用している。
ひと口飲んで、どぶろくのイメージをくつがえすすっきりした後味におどろく。ほのかな酸味、やさしい甘み、舌で押すとくずれる米粒の食感など、さまざまな刺激を感じることができる。
「ミキサーを使うと均一になるので、口の中での溶け方も想像してあえて粒を残しているんです」(今井さん)。
運よく汲みたてのタイミングで飲めれば、液体中に残っている発酵ガスによる泡が口の中でプチプチ弾ける感覚も楽しめる。軽くすいすい飲めてしまうが、アルコール度数は12度前後なので、飲み過ぎには注意。
ビール(ホワイトエール)とどぶろくをミックスした「どぶビー」(写真上)は、ビールならではの爽快感の後、喉を通る時に麹の甘い香りがふわっと花開く。
ゴクゴク飲めるので乾杯用にもいいし、味わいに複雑さがあるので時間をかけてゆっくり飲むのにも向いている。どぶろく初心者にも、どぶろく好きにもおすすめだ。
フードとのペアリングで、新しい日本酒にさらなる新しい味わいが
『WAKAZE』が開発したワイン樽熟成の日本酒「ORBIA(オルビア)」(写真上・左の2本)や、植物由来の香り高い素材を使用した「FONIA(フォニア)」(同・右の2本)。
さまざまな高級フレンチやイタリアンでも取り扱われており、ボトルデザインの美しさから、ギフトとしても人気だという。
これらの個性的な味わいをさらに引き立ててくれるのが、山形の食材を使ったタパスとのペアリング。
バルサミコ酢、中国のたまり醤油、ポートワインなどで豚バラ肉を煮込んだ「豚ポーロ 豆鼓の効いたバルサミコソース」(写真上)。
タパスの力強いコクと濃厚な風味を、ワイン樽で熟成させた「ORBIA(オルビア)SOL-太陽-」(写真上)の豊醇な味わいがしっかり受け止めている。
山形名物だだちゃ豆の薄皮を一粒一粒ていねいにむき、裏ごししてなめらかに仕上げた「だだちゃ豆のフムスディップ」(写真上 ※現在は販売終了)。
合わせたのは力強い味わいに生姜、山椒、柚子という“和のハーブ”の香りを添えた「FONIA(フォニア)TERRA-大地-」(写真上)。
だだちゃ豆の甘さによってTERRAの持つ力強い米のうまみがさらに引き出され、酒のスパイシーな香りと融合してだだちゃ豆の香りがさらにふくらむ。またペアリングによる変化も大きく感じ取ることができる。
トマトの中にドレッシング仕立ての魚介類を仕込んだ「海の幸と井上農場の樹熟トマトのまるごとファルシ」(写真上 ※現在は販売終了)。
ペアリングしたのは、クエン酸を多く生成する焼酎用の白麹を使った「FONIA(フォニア)SORRA-天空-」(写真上)。日本酒のうまみもありつつ柑橘のような爽やかな酸味も感じるので、魚介類に非常によく調和する。
「酒粕クレームブリュレ」(写真上)は、「お酒に強くない人にも楽しんでもらいたい」と考案したスイーツ。仕込みに使った酒粕を生地に練り込んでおり、砂糖に加わる麹特有のやわらかな甘みが嬉しい。
日本酒が苦手な人を連れて行っても、日本酒マニアと行っても、間違いなく驚かせることができそう。そして日本酒の革命を目指すこの店の姿勢から、挑戦することのワクワク感と勇気をもらえる。
店名の「Whim(ウィム)」は英語で「思いつき」の意味。お酒と料理を楽しむことで生まれる会話や、お客とスタッフとのたわいない会話。ちょっとした思いつきから、全く新しい酒と文化を創りだしたいという想いが込められている。
「新しい一歩を踏み出すきっかけになるような“思いつき”が生まれる、そんな店にしたいんです」と稲川さんは力強く語る。
【メニュー】
どぶろく 600円
どぶビー(どぶろく×ビール) 800円
ワイン樽熟成の日本酒ORBIA(オルビア)/GAIA-地球- 900円、SOL-太陽- 900円
ボタニカルSAKE/FONIA(フォニア)/SORRA-天空- 850円、TERRA-大地- 950円
豚ポーロ 豆鼓の効いたバルサミコソース 1,500円
だだちゃ豆のフムスディップ 600円
海の幸と井上農場の樹熟トマトのまるごとファルシ 850円
※価格はすべて税別
WAKAZE三軒茶屋醸造所 + Whim (ウィム) SAKE & TAPAS
- 電話番号
- 03-6336-1361
- 営業時間
- 18:00~23:00
- 定休日
- 水曜
- 公式サイト
- http://wakaze.jp/whim/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。