幸食のすゝめ#076、重なるレモンには幸いが住む、渋谷
「ドレスのサンドイッチ屋さんの跡地で、何かやろうと思ってるんです」
(『the OPEN BOOK』の田中)開くんからそんな話を聞いたのは、現在四谷三丁目で『bar dress』を開いている森谷さんのサンドイッチ屋が、ちょうど閉店前のカウントダウンで大混雑している頃だった。
いつのまにか渋谷の名所になっていた小さなテイクアウト店の後に、いったい何が誕生するのか?単に『the OPEN BOOK』の渋谷支店ではないだろう?
瞬く間に、開くんが新宿ゴールデン街から渋谷に進出するというニュースは、夜の巷で話題になっていった。
「今、どこですか?武蔵小山で飲みませんか?」、開くんからのLINEが届いたのは猛暑が始まる少し前だった。
『牛太郎』で落ち合い、『豚星』で氷なしのハイボールと串やサラダを食べて、『長平』へ。
ムサコのゴールデンコースを回りながら、開くんがポツンと言った。
「ホフディランの(小宮山)雄飛さんとやろうかと思うんです。彼のカレーと、僕のサワー」。
レモンサワー・ブームの立役者開くんと、何冊ものカレー・レシピ本をベストセラーにして来た雄飛さんのカレー。
即座に、たった1坪の渋谷のオアシスが、たくさんの人で埋められている絵が蜃気楼みたいに頭の中にイメージできた。
8月中、店はオープンしなかった。夏の終わり、LINEが届く。
「お待たせしました、いよいよ9月10日にオープンします。店名は、『レモンライス東京』です」。
その時には、もう店の名物が「レモンライス」という全く新しい食べ物だという情報は聞いていた。しかし、店名のセンスには脱帽した。レモンライスという耳慣れない単語に、東京という言葉を結びつけることで、昭和のムード歌謡「ラブユー東京」のような不思議な化学変化が起きている。一度聞いたら、誰もが絶対に忘れないネーミングだ。
開店日の午後早く、「もう売り切れました」と開くんからのLINE、出遅れた僕は閉店カウントダウン中の渋谷のランドマーク、都内随一の広さと集客数、豊富なメニューで知られる『富士屋本店』で時間を潰し、あのレモンサワーが飲めるバータイムに向かった。
ちょうど1坪のちっちゃなカウンターの中には、開くんと古い友だちの鳥井くんがぎゅうぎゅうに入っている。
渡されたレモンサワーは、下町の強炭酸「kagetsu」で割られるため、本店とは少しニュアンスが違うキリッとした味わい。マイルドな本店バージョンに比べると、なんとなく渋谷感がある。少しだけリーズナブルな価格設定もこの場所にマッチしている。さぁ、明日は『レモンライス東京』に並ぼう!
翌日のお昼前、渋谷桜丘の牛丼屋の前辺りに行列ができている、『レモンライス東京』だ。
雄飛さんに挨拶しながら列に並び、開くんから「レモンライス」を受け取り、冷めないよう足早に「セルリアンタワー東急ホテル」裏の公園に向かう。到着すると、向うのベンチにも「レモンライス」を食べている人がいる。
袋の中には、「レモンライス」のランチパックと、カレーソースが入った小さなパック、ソリマチアキラ画伯が描いたレモンライスの食べ方が印刷されたナプキン。
ランチパックの蓋を開けると、黄・赤・緑のラスタカラーにオレンジと白の鮮やかなヴィジュアルと、爽やかなレモンの香りが一気に公園の空気を一変させる。
まったく新しい渋谷名物の誕生
ソリマチさんの指南書通りに、まずはライスをそのまま。大麦やナッツ、マスタードシードなども炊き込まれた「レモンライス」の味わいは、南インドの家庭料理をモチーフにしながら、まったく新しい雄飛オリジナルに進化している。
次は付け合わせのオニオンアチャール、季節のバジルピクルス、パクチー、辛口のエキゾチックチリソースを少しずつ加えながら食べ進むと、その度に劇的な味変が起こり、スプーンが止まらない。
最後は真打ちのカレーソースをかけて、インド風のカレーライスに!ここでまた、添えられたレモンスライスを搾ると風味がアップする。まちがいなく、渋谷の新名物の誕生だ。
新宿ゴールデン街に新しい風を持込んだ開くんの「レモンサワー」に続いて、今度は渋谷区観光大使の雄飛さんが渋谷の新名物「レモンライス」を作った。
2人が手を繋いだこの場所は、すぐに渋谷の新名所になるだろう。
たった1坪のインディーな渋谷革命
「渋谷に1坪の場所があって、そこでお店やろうと思うんで、雄飛さんカレー考えてください」、開くんのそのひと言が物語の始まりだった。
「地元渋谷、たった1坪、レモンサワー、そんなキーワードをつないで行ったらピンと閃いたのがレモンライスでした」。
レモンサワーを飲みながら雄飛さんの話を聞く。
「なんだか自宅のガレージで友だちとバンドを始めるような感覚で、じゃあ一緒にやろうよ!っていう感じ。まずは、生まれ育った地元渋谷、それと1坪という場所から新しい何かが生まれるというのが、インディーぽいというか、DIY精神でやりたくなった。レモンライスというのも、そこから新たに生まれるものを作りたかったんです。もちろん、ベースはインドのレモンライスですが、作り方もアレンジもまったくオリジナルなんです」。
レモンサワーから、レモンライスへ、開くんから雄飛さんへ、渡されたバトンは渋谷の街に新しい名物と名所を生み出した。
重なるレモンには、幸いが住んでいる。
【メニュー】
レモンライス 800円 (ランチのみ)
レモンサワー 600円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。
Lemon Rice TOKYO (レモンライス東京)
- 電話番号
- 080-9650-3210
- 営業時間
- Lunch 11:45オープン~14:00頃売り切れ次第終了(レモンライス・テイクアウト専門)、Bar Time 18:00~23:00(レモンサワー、ビール、ワインetc.)
- 定休日
- 日曜・祝日・準備日不定休あり
- 公式サイト
- http://lemonrice.tokyo/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。