1日1組だけのフレンチ『アピス』がオープン!
『ミシュランガイド パリ 2018』で一つ星に輝くパリのフレンチ『PAGES(パージュ)』のスーシェフとしても活躍し、約7年間のフランス滞在から帰国したばかりの横田悠一さんがシェフを務める『Apis(アピス)』。2018年8月12日にグランドオープンし、今までにない斬新なフランス料理に出逢えると噂が広がっている。
「フランス料理のコースなら、今の時季こんな感じかな? と、お客様はイメージをして来店されるでしょう。でも、そのイメージを払拭しちゃいますよ。ぜひ、記憶の中のフランス料理に一旦封印をして、真っ白な気持ちで扉を開けてみてください」と、横田シェフ。予約した私たちは、白いテーブルクロスとナイフフォークのセットを忘れて、いざ!
バーを彷彿する雰囲気に、季節の素材が飾られる
カウンター主体の店内。目の前は手が届きそうなオープンキッチンだ。白いテーブルクロスも、ナイフフォークのセットもなく、月桂樹の葉を利用した箸置きに、吉野杉の箸が縦に並ぶ。フランスで活躍したシェフの、本場仕込みのフランス料理が食べたい! と、意気込んで来店した方は、きっとこのテーブルセットに驚くだろう。
今年帰国したばかりの横田シェフ(写真上・右)が迎えてくれる。優雅な趣の店内に一瞬身構えるが、横田シェフの気さくな人柄で、店内は和やかな雰囲気だ。
「実は、使いたい食材をまだ探し切れていないんです。今は産地を訪ねて、生産者の皆さんの話をもっと聞きたくて。だから、1日1組のゆっくりペースにさせていただいているんです」と、横田シェフ。
小さな空間、1組がカウンターに並び、横田シェフと向かい合うことになるのだが、ディナーは、まずは自己紹介から始まる。
「基本的な理念『地産地消』についてなど、料理人の想いをカウンター越しで伝えるにはどうしたらいいかを考えて、そうだ! 自己紹介から始めてみようと思い立ったんです」。シェフの自己紹介で始まるディナーだなんて、前代未聞ではなかろうか。
カニのすべてを味わうための「ワタリガニ、コンソメ」
びっくり仰天、感動の一品は、「ワタリガニ、コンソメ」(写真上)。こちら、料理名ではなく、読者の皆さまに伝える料理のキーワードだと思っていただきたい。そもそも、メニューも料理名も存在しないのだ。あえて付けるならば、「三浦半島で今朝捕れたばかりのワタリガニを、丸ごと存分に味わうための料理」だ。
イタリア産のハンドメイドという大きなワイングラスの中に、カニの身(バター風味)が乗ったスプーンが入って供される。そこへ、熱々のコンソメが、目の前でスーッと注がれる。透明度の高いアンバー(琥珀)色のコンソメが、カニ特有の香ばしさを放ちながらワイングラスへ流れ、広がる。
コンソメは、ワタリガニの身が入った殻ごとをミキサーで潰し、野菜を加えて色付け。さらに野菜と水分を入れて煮詰めた贅沢なもの。注ぐと、ワイングラスの中にカニの風味が充満。カニの身と濃厚なコンソメと香りを同時に、もったいないけれど、一気に味わいたい。
自家製酵母のパンは、目の前で発酵を進めてからオーブンへ
前菜の途中に、オーブンに入れる前、つまり発酵中の「リンゴの天然酵母パン」が登場する。紅玉をくり抜いたところに、その紅玉を使う自家製酵母のパン生地が入っているのだ。食事を進めている間に発酵が進み、生地がふっくら膨らんでいく様子が見てとれる仕掛け。タイミングを見計らいオーブンへ入れ、甘酸っぱい香りとともに焼きたてが運ばれてくる(写真下)。
リンゴが焼ける時にジュワッとにじむ汁をパンが吸い、焼き上がりは甘酸っぱく、しっとりしている。リンゴの形もキュートで、記憶に残るパンになること請け合いだ。
日本料理を思わせる、組み合わせの妙も愉しみたい
サワラの味噌漬けをほぐし、熊本のアサリ、磯つぶ貝、コンテチーズ、島オクラを合わせた魚料理。トッピングのグリーンは、カタバミだ。カタバミは、甘酸っぱい野草で、「今朝、埼玉県の実家からもらってきたんです」と横田シェフ。卵黄にアサリのエキスを加えたタルタル風のソースを絡めながら口に運べば、一瞬、和の世界なのだが、少量のコンテチーズのアクセントで洋の世界が広がる。途中で、千葉県産落花生「おおまさり」の生を頬張ると、和とも洋ともつかない不思議さが余韻となる。
ちなみに陶器は、東京都世田谷区に工房を持つ吉永哲子(のりこ)さんの作品だ。
店内に飾られる旬の食材はまるでアート!
イチジクの葉や、パイナップルミントなど、横田シェフは埼玉県の実家の畑周辺から季節の恵みをせっせと東京へ持ち帰る。この日は他にかち割りカボチャやホワイトニンニクがカウンターに無造作に置かれていた。見慣れない野菜など、「これは何?」と、気軽に聞いてみよう。横田シェフは喜んで、目の前の食材の紹介を、さらに日本にも素晴らしい食材がたくさんあることを熱心に語ってくれるだろう。
イチジクの香りをまとう「短角牛」に悶絶!
肉料理として登場するのは、山形県短角牛のリブロース。肉はバターをまわしかけ香りを付けながら焼き上げるのだが、このバターにもひと手間が隠されている。新鮮なイチジクの葉を乾燥させた後、バターに浸し香りを移しているのだ。添えられる実は、枝の上で完熟させた、正真正銘の天然もの。肉の香ばしさ、イチジクの風味、さらにマダガスカル産の野生のコショウが持つ森の香りが重なり合う。
締めは、土鍋炊き白米と素朴な「おかか削り」
おまかせコースの締めくくりは、土鍋炊きのごはん。前菜からメインまで型破りのフランス料理を体験してきているが、まさかのごはん!
「埼玉の実家の父が作る『ひとめぼれ』です。手前味噌ですが、食味値(お米のおいしさを表す指数)がなんと96点という味のいいお米なんですよ」。それを、埼玉県寄居町の湧水「日本(やまと)水」を汲んで利用し、滋賀県の雲井窯の最高級の土鍋で炊き上げている。
ごはんのお供は、「おかか削り」。東京都・勝どき『タイコウ』の鰹本枯節(写真上)を、蒸らしが終わる頃に、カッカッカッと削り始める。醤油は、埼玉県の松本醤油商店の「はつかり醤油」。国産大豆と国産小麦を使用して、江戸時代から伝わる蔵と木樽で2年熟成させた横田シェフのお気に入りだ。
横田シェフは、高校卒業後、音楽好きが高じてDJを目指してクラブでアルバイトを始めた。この時に料理を作る楽しさに目覚め、23歳で調理師学校へ。その後、ワーキングホリデーを利用してフランスに渡り、南仏で半年、アルザスで3年半、パリで3年間過ごした。
「今はまだ日本の産地をめぐる旅の途中ですが、少しでも興味を持っていただけたなら、ぜひ気軽に訪ねてください」と、横田シェフ。カウンター越しに日本の食のこれからを語るのも楽しいだろう。
フランスでずっと着ていたコックコートを脱ぎ、帆布で作ったエプロン(岡山県産)を引っ掛けた新しいスタイルで、迎えてくれる。
【メニュー】
おまかせコース 15,000円~
日本酒 1,200円~
シャンパン(グラス)2,000円~
グラスワイン 1,600円~
ボトルワイン 6,500円~
日本酒(1合)1,300円~
※価格は税・サ別
※予約は2日前までに
Apis(アピス)
- 電話番号
- 03-3451-8800
- 営業時間
- 18:00~24:00(L.O.22:00)
- 定休日
- 不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。