ぐるなび主催「GON MEETING2018」、東京会場で開催
外食業界の活性化を目的に、『株式会社ぐるなび』が年に2度開催している戦略共有会議「GON MEETING」。全国21都市でイベントを行うなか、東京では2018年9月27日に開催された。
全国の生産者、飲食メーカー企業による食品展示が賑わいをみせるなか、会場の熱気を高めたのは、飲食店経営者や外食ビジネスに携わるオピニオンリーダーによる講演。
東京では『傳(でん)』オーナーの長谷川在佑氏と、『フロリレージュ』オーナーシェフの川手寛康氏、ジャーナリストの中村孝則氏を迎えてのディスカッションとなった。
テーマは“世界に通用する日本の食文化”
はじめに、この日登壇いただいた2人のシェフと、ジャーナリストをご紹介。
日本料理『傳』オーナーの長谷川在佑(はせがわ ざいゆう)氏(写真上・左)。
花柳界で働く母の影響から食に興味を持ち、高校卒業後、料理人を目指して神楽坂の老舗料亭へ。
29歳の若さで『傳』を開業すると、わずか3年で『ミシュランガイド東京 2011』にて、その料理が二つ星に輝いた。2018年には、『アジアのベストレストラン50』では2位、『世界のベストレストラン50』では17位にランクインし、日本人シェフの最高位に輝く。
続くは、フレンチレストラン『フロリレージュ』オーナーシェフの川手寛康(かわて ひろやす)氏(同・中央)。
洋食店を営む両親の背中を見て育った川手さんは、高校卒業後、『オオハラ・エ・シーアイイー』『ル・ブルギニオン』、フランスの星付きレストランで研鑽。
帰国後『カンテサンス』のスーシェフを経て、30歳で『フロリレージュ』を開業した。2018年は『ミシュランガイド東京 2018』で、そのフランス料理が二つ星に輝いただけでなく、『アジアのベストレストラン50』で3位にランクインし、日本を代表するフランス料理店として話題が絶えない。
今回、ディスカッションをリードしたのは、普段から彼らと親交が深いジャーナリストの中村孝則氏(同・右)。
ガストロノミーだけでなく、ファッションから旅、カルチャーなど幅広い分野で活躍する同氏がこの日は、2013年から務めている『世界のベストレストラン50』の日本評議委員長(チェアマン)の立場から、“マーケットを世界に広げる2人のシェフの取り組み方”に迫った。
『世界のベストレストラン50』と『ミシュランガイド』の違い
中村氏:まずは、3人を結ぶキーワード『世界のベストレストラン50』(以下、50ベスト)についてご説明したいと思います。
世界で最も歴史が古く、権威ある『ミシュランガイド』と対照的に、このアワードが誕生したのは2002年と新しく、英国の『ウィリアム・リード・ビジネス・メディア』が主催しています。
『ミシュランガイド』は、覆面の調査員が対象店に値する星の数を決めます。限られたエリアから店が選ばれるのに対して、『50ベスト』は世界中が対象。へき地でも選ばれる可能性があることも、注目される理由の一つでしょう。
世界中にいる投票者によって投票数が多い順にランキングされますが、審査員は1年半以内に通った店にしか投票することができません。選ばれしレストランには、投票者が世界中から来店し、評価されているというのも大きな特徴です。
僕は、日本のチェアマンとして、国内の投票者を決める役割を担っています。
2人のシェフが『50ベスト』に選ばれた要因とは
中村氏:長谷川さんは昨年、初めて『世界の50ベスト』で45位に選ばれましたね。今年は17位と一気にジャンプアップし、ハイエストクライマー賞も受賞されたことが世界中でニュースにもなりましたが、選ばれる前と後で変わったことはありましたか?
長谷川シェフ:川手さんとは同じ年で、店をオープンした時期も変わらなかったので、どう集客したらよいか2人で夜な夜な話していましたね。オープン当初は、ビラを配る日もありました。
今は海外の方にも若い方にも来てもらいたいし、楽しんで帰ってもらうためには、お客さまを大切にしていかなきゃ! また来たいと思ってもらうには、誰もやっていないことをしなきゃ! と気付かされるようになりました。
中村氏:川手さんは、日本人シェフのフランス料理店として世界の舞台で闘うなか、3年間で3位にまで昇り詰めるという、過去にない功績を残しました。『50ベスト』に選ばれる決め手となった要因などあるのでしょうか?
川手シェフ:僕は、最初から『50ベスト』に入ろうと思っていましたし、『ミシュランガイド』の二つ星も獲ろうと考えていました。
理由は、ランチ7,000円・ディナー13,000円という価格帯で、1日50席を埋めながら、自分のやりたいことと提供していきたいものを一致させるには、日本のお客さまだけでは難しいと思ったからです。
海外のお客さまを呼ぶためには『50ベスト』へのランクインが必要不可欠だと“戦略的”に考えました。
とはいえ、選ばれた決定的な要因は、僕にはわかりません。なぜなら、投票者が世界中に山ほどいて、票をいれるポイントが一人ひとり違うからです。いかに自分がやりたいことと戦略を一致させるかが重要だと思っています。
中村氏:海外のお客さまに対してアプローチするために、サービスの強化やSNSで積極的に発信するなどを意識的にしていることはありますか?
長谷川シェフ:当店は、“ルールがないこと”がルールです。食事中、立ち上がって写真を撮ってもよし。厨房を見学するもよし。箸が使えなかったら、手で食べるのもよし。「わからないことは何でも聞いてくれ、自由に好きに過ごしてくれ」とアナウンスしています。
といっても、僕は英語が喋れません。でも、ちょっとした表情を見逃さない。日本人ならではの相手を気遣う気持ちが伝わっていったのかなと思っています。
また、SNSを上手く使うねと言われますが、発信しているのは、釣りや愛犬、まかないのことばかりです(笑)。でも、そのような投稿やアナウンスが、難しい印象を持たれがちな日本料理を、当店はわかりやすいという印象に変えていたのかもしれませんね。
川手シェフ:僕らのような個人店が、絶対的な武器や資金を持つ店と同じ土俵にあがるという前例はありませんでした。『50ベスト』に選ばれるためには、彼らが持っていないものを持たなきゃと思って、移転して、大きなカウンターを設けましたね。
僕がやりたかったのは、生産者の気持ちを直接お客さまに伝えるということ。意外と海外のお客さまにとって新鮮な体験になっているのではないかと思っています。
『50ベスト』ランクインと外国人客との関係性
中村氏:日本はいま、食によるインバウンド招致に大きく流れがきています。『50ベスト』はグローバルな評価ですし、海外のお客さまの有無がランクインするか否かに連動している部分も大きいと思うのですが、2人にとって外国人客の存在はどれほど重要なのでしょうか?
長谷川シェフ:僕も川手さんも、お客さまを日本人とか外国人とか区別していないですね。
「日本人客の方が少ないね」と言われますが、海外のお客さまの方が多いと気になるのは、僕の店が日本料理店だからなのかなぁ。
自分の店を長く続けていくためにも、もっと柔軟に考えた方がいいですよ。レストランだけじゃなくて、サッカーやプロ野球だって海外から人が来ます。スポーツと同じ感覚で考えてみてください。お客さまは一律、世界中にいるんですよ。
中村氏:川手さんは『50ベスト』に入るためには、海外のお客さまが必要と断言していましたね。
川手シェフ:おっしゃる通りです。安定的な店作りのためには、長谷川さんも言うように、お客さま=日本人という感覚を拭うべきでしょう。
初めの頃は、日本人客と外国人客のバランスをコントロールしていました。でも、もうそういう時代ではありません。当店はフランス料理の名を掲げています。
日本に来てまでフランス料理を食べる外国人客が一体どれだけいるのかを考えると、やはり僕にとって『50ベスト』や『ミシュランガイド』で評価されることは、集客も経営面でも非常にありがたく、インバウンドの重要性を感じています。
マーケットが海外に広がったきっかけ
中村氏:レストランに求める価値って、日本人とグローバルな方とではずいぶん違うと思います。例えば『50ベスト』の審査員たちに話を訊くと、日本のレストランは全体的にクオリティが高いため、評価の基準が“おいしい”か“おいしくない”という結果になりやすい。
しかしながら、海外の方は、味の評価は3割程度で、残りはおもてなしとか、ホスピタリティ、アクセスのしやすさ、シェフの哲学や容姿といった、様々な価値観で評価しているようです。
このように評価するには、いろんな店を知る必要があります。2人のファンが世界中にいるのは、自らが海外へ足を運び、ユニバーサルに人を喜ばせるにはどうすればよいかを常に意識しているからではないでしょうか。
長谷川シェフ:僕は、このシェフに逢いたい! と思って、海外に行ってしまうんです。おいしいか否かのランキングだけでは、僕の店はここまで評価されていないでしょう。
おいしいという価値観は人それぞれだし、育ってきた環境によって大きく変化すると思っています。だから、味の評価が3割というのは正しいと思うんです。
川手シェフ:僕も長谷川さんも、よく海外に行くんです。僕たちの存在を知ってもらい、僕たちの料理を食べてもらうという“戦略”と、他国のシェフたちから学びたいという“欲”がマッチして、徐々にマーケットが海外に広がっていったのではないでしょうか。
レストランの新しい在り方
長谷川シェフ:日本って、レストランの在り方の軸が“おいしさ”なんですよ。プロ野球選手だってヒットを3割打てればすごいのに、僕らの世界は一皿でも気に入らなければ批判されてしまう。
ブラジルは治安が悪いと言われている国ですが、『mocoto(モコト)』というレストランができたことで、その街や周辺の治安が良くなっていったんです。おいしいものを提供するだけじゃなくて、レストランが地域をよくする。
偶然にも、僕らの店はどちらも外苑前に在ります。僕たちが声をあげて、地域一体を盛り上げていきたいと2人で考えたりもしています。
中村氏:川手さんは、経産牛(出産経験のある雌牛)を使ったり、サステナビリティの発信もしていますよね。レストランやシェフにとって、大きな課題となってくるのではないでしょうか。
川手シェフ:僕の店では『サステナブル 経産牛』という名前で肉料理を提供しています。僕の武器は、価値のないものに新たな価値観を与えて発信することです。
「評価は味だけじゃない」と長谷川さんも話していましたが、味を凌駕(りょうが)する個性やコンセプトが必要だと思っています。
そのコンセプトは、時代に左右されがちですが、僕の場合は、サステナブルの活動と、個性、カウンターの存在すべてが一致したからこそ、味じゃないところでも評価を得ることができたと考えています。
中村氏:評価されるためには、時代性やトレンドも読み解いていくことが大切なんですね。
長谷川シェフ:僕の店って、僕だけのお客さまじゃないんですよ。僕以外のスタッフにもお客さまがいっぱいいる。“チーム力”は、どこよりも強いと思っています。
例えば、各国の言葉がわかるスタッフたちが、お客さまの声を聞いて、忍びのようにその内容をこっそり伝えてくれるんです。「京都で鮎と鱧ばっかり食べてきたから、もう顔も見たくないって言っていますよ」とか「昨日、天ぷらいっぱい食べたから、もういらないって言ってますよ」とか。
お客さまの本音を聞けば、作っている途中でも献立を変えるし、鮎はリエットにしてパンに塗ってだしちゃいます。
川手シェフ:それが、新しいレストランの在り方だと思いますよ。
中村氏:『50ベスト』は、シェフに対する投票ではなく、レストランに対する投票なんですよね。授与式では、店を代表してシェフが壇上にあがるけれど、長谷川さんは必ずチームで登壇します。チーム力の強さが、『傳』の在り方だったんですね。
長谷川シェフ:海外のお客さまは遠くから来ているんだから、相手がどうしたら喜ぶかをすごく考えるようになりました。それは、僕自身が世界中のレストランに行って、味だけじゃない楽しい体験をたくさんさせてもらったからだと思います。現地まで行ってみると、気づかされることってたくさんありますよ。
川手シェフ:ライバルを持つことも重要かもしれませんね。1つのレストランでできないことは、2つ3つのレストランでやってもおもしろいんじゃないかと思います。
世界的なコラボレーションブームの魅力
中村氏:海外のシェフたちとライバル関係と言いながらも仲良くされていますよね。いま世界的にコラボレーションがブームとなっていますが、何かメリットがあるのでしょうか? また、どのくらいの頻度で行っていますか?
川手シェフ:そうですね。『フロリレージュ』の存在を知ってもらうためには、コラボレーションはすごく大事なことだと思っています。僕も長谷川さんも、月に一度くらいのペースで行っていますね。
僕らが行くと、次は彼らが僕たちの店に来てイベントをするので、回数は倍になるでしょうか。他国のことを知ったり、その地の食材を見せてもらえたりすることは、料理人にとって大きな魅力のひとつです。
中村氏:その回数は、『ミシュランガイド』や『50ベスト』にランクインしているレストランの中では、多い方なのかな?
長谷川シェフ・川手シェフ:いや、海外のシェフたちはもっと行っていますよ。
長谷川シェフ:僕たちが行くと、彼らは必ず来てくれます。こうして仲良くなったシェフからの口コミで来てくれるお客さまも多く、結果インバウンドに繋がっていると感じますね。今はコラボレーションがすごく流行っていますけど、僕たちが始めた7年前は、受け入れてもらえないこともありました。
ただ、現地に行くことで学べることがたくさんあるんですよ。国によっては、僕らが一番いいと思っている調理方法がベストとは限りませんし、そのことを理解できただけでも、海外からお客さまが来たときに反映することができる。経験しないと得られないことってたくさんあるんです。
『50ベスト』の入り方なんてないと思うけれど、入りたければ、アジアのレストラン50軒全部行ってみたらいいと思います。
川手シェフ:たしかに(笑)。自分の店を知ってもらいたければ、まずは己が先に海外を知ることが肝心ですね。
海外=遠い場所と思わない方がいい。インバウンドが欲しければ、一歩を踏み出す勇気が大切でしょう。
日の丸を背負って闘う2人のシェフが考える未来戦略
中村氏:2020年、『50ベスト』が日本で開催される可能性が高いと言われています。アジアNo.1や世界ランカーを目指すなかでの、2人の今後の戦略について聞かせてください。
長谷川シェフ:これからは国内、特に地方へ目を向けていきたいと思っています。海外のお客さまも今や地方を巡る時代です。日本全体が人を呼べる場所になってくるんじゃないかと思います。日本のことを学びながら、海外でイベントをする方向になりそうですね。
川手シェフ:僕は来年、台湾に店をオープンする予定です。場所や国籍にこだわるのではなく、お客さまが求めているものに指標を合わせて経営すればいいんじゃないかと思うんです。
尊敬されてもムーブメントを起こせないのが日本人。海外に店を出す日本人シェフが増えれば、リスペクトされるだけでなくムーブメントを起こせる時代がやってくるのではないかと思っています。
戦略を立てて攻める『フロリレージュ』の川手シェフと、ハートでぶつかっていく『傳』の長谷川シェフ。
考え方は真逆のようだが、微かなお客の変化も見逃さず、オーダーメイドにもてなす姿勢は変わらない。胃袋を満たすだけにとどまらない唯一無二の体験を求めて、今日も世界中から予約の電話が鳴り続ける。
傳(でん)
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