名古屋の中心・栄三丁目で、敏腕女性シェフが独立開業した話題のフレンチ!
2018年2月、名古屋の一大繁華街・栄三丁目のビル3階にあかりが灯った。店の名は『PADDA(パッダ)』。フランス語で「文鳥」の意味を持つ。
愛らしい文鳥が描かれた扉を開くと、カウンターとテーブル2卓のこぢんまりとした店内。テーマカラーのグリーンと控えめな照明が心を落ち着かせる、居心地のよい空間だ。
カウンターの向こうで細腕を振るうのがオーナーシェフの大野滋子(しげこ)さん。女性シェフひとりということに驚くお客もいるそうだが、持ち前の“丁寧さ”が光る料理で訪れる人たちがたちまち魅了されていく。
手先の器用さと向上心が導いた「女性オーナーシェフ」への道
大野さん(写真上)は、「手に職をつけたい」と調理師学校に進学し、選んだのがフランス料理。幼い頃から手先が器用で細かい作業が得意だったことから、手仕事の多いフランス料理が一番合っていると確信したそうだ。卒業後は名古屋のフランス料理店で修業し、本場の仕事を見てみたいと単身渡仏。
フランス南西部ラ・ロシェルにある『レ・フロ』、リヨン近くのヴォナにある世界的名店『ジョルジュ・ブラン』で1年間学んだ。
前者はアットホームな個人経営、後者は多数の研修生を抱える大所帯。全く異なる環境に身を置き、フランス料理の裾野の広さを目の当たりにしたという。
帰国後は名古屋のフランス料理界を牽引する『壺中天(こちゅうてん)』などで経験を重ね、『Vintage 1970』ではシェフにまで昇りつめる。この先のキャリアを考えた時、ほかの店でまたシェフをやるのか、自分の店でオーナーシェフになるのか二択となった。
「独立開業には不安もありましたが、十分に経験は積みました。今こそ一歩踏み出す時だと思って」と当時の心境を晴れやかに語る。
厨房の経験は豊富だが、ホールの経験はほとんどない大野さん。オープン当初はワインのプロに相談しながらワインリストを作ったが、今は顔ぶれが随分変わってきているという。
「作りたいのは私が心底おいしいと思う料理。それに合わせたいワインを取り揃えるのが、自然だと思ったんです」と肩の力を抜いた結果、自分らしいチョイスとなった。
カウンターの中からお客に語りかけ、好みを探りつつ様子を見ながらタイムリーにワインをサービス。この絶妙な距離感とプライベート感も、居心地のよさの一因なのだろう。
スペシャリテを好きなだけチョイス。『PADDA』の楽しみ方はアラカルトにあり
取り分けスタイルのおまかせメニューもあるが、あれこれ悩んでチョイスするアラカルトにこそ『PADDA』の醍醐味がある。
トラディショナルなフランス料理の技術に裏打ちされたオリジナルメニューは、驚くほどクオリティが高い。
「『ビュルゴー家』のシャラン鴨」(写真上)は大野さんが自信を持って提供するスペシャリテのひとつ。
フレンチでよく耳にする「シャラン鴨」だが、フランス・シャラン地方の中でもビュルゴー家の伝統的な飼育条件を満たす契約農家で育てられたものだけが名乗ることを許される。最高の肉質を誇り、世界中の食通を唸らせる逸品だ。
その「シャラン鴨」をこまめにアロゼ(脂をかけてじっくり火入れするフランス料理の技法)し、低温で火入れした鴨ロースの断面は、美しいロゼ色。弾力を残したやわらかさと、凝縮した肉のうまみがたまらない。
内臓料理をこよなく愛するフランス人は、内臓の特徴を前面に出して調理する。しかし馴染みの薄い日本人に同じレシピで提供するのはいかがだろう?と大野さんは独自にアレンジを加え、「牛ハチノスのカツレツ」(写真上)を作り上げた。
牛の第2胃であるハチノスを程よい食感になるまでしっかり煮込み、10種以上のスパイスを合わせ、ひと晩寝かせて特有の臭みを中和。オーダーが入ったらサックサクの衣をまとわせ、酸味のあるトマトソースとともに供する。
内臓らしさは保ちつつ、苦手意識を払拭する味わいにファン続出。ワインが進むこと間違いなしのメニューだ。
フランス料理の真骨頂といえばパイ包み。サクサクのパイ生地にナイフを入れると、堰(せき)を切ったように放たれる香りとビジュアルが、食べ手を魅了してやまない。
『PADDA』では、アワビのスライスとアワビの肝のムースを封じ込めた「鮑のパイ包み」(写真上)を魚料理のスペシャリテとして提供。
ビネガーとバターを使ったトラディショナルなソース「ブールブラン」を合わせ、フランス料理の王道をいく。パイの食感、アワビの香りとうまみ、バターのコク、ビネガーの酸味が渾然一体となり、五感を存分に楽しませてくれる。
ちょい飲みに最適なビストロメニューも充実。もちろんレシピとプロセスに妥協なし
「ちょい飲みも大歓迎です」と話す大野さん。先述のスペシャリテのほか、「おつまみ」という表現が似合うメニューも揃っており、止まり木的に立ち寄りたい人にはうれしい限り。
なかでも「砂肝のコンフィ」(写真上)は、一杯目のビールやスパークリングワインにはうってつけだ。
ニンニクと塩でひと晩マリネし、オイルでじっくり煮込んだ砂肝は、持ち味のコリコリ感を残しつつ、コンフィらしいしっとり感も楽しめる。ピンチョススタイルで気軽につまめるのも、ちょい飲みにはありがたい。
「パテ・ド・カンパーニュ」(写真上)も手軽なお値段で楽しめる定番の前菜だ。手軽なお値段だからと侮ることなかれ。マリネや火入れ、休ませる時間を含めて4日間を費やす本格的なパテである。
鶏のレバーと鴨の脂のコクに、ニンニクとフランス・バスク地方の唐辛子「ピマン・デスペレット」を加えることで、なんとも魅力的な香味が生まれる。白ワインにも赤ワインにも寄り添い、懐の深さを感じるひと皿だ。
いくつもの四季をフランス料理のコックとして過ごしてきた大野さんは、シーズナブルなメニューも得意とする。定番のほか、旬の幸を取り入れたメニューも充実し、訪れるたびに新たな味わいと巡り会えるのも常連客に愛される理由だろう。
アペリティフ(食前酒)と前菜を頼み、メニューが書かれた黒板を眺めながら、じっくり悩む時間も一興だ。カウンターの向こう側で手際よく料理する大野さんの姿を見守るのも、ライブ感があって楽しい。通えば通っただけ『PADDA』の魅力を発掘することになりそうだ。
【メニュー】
「ビュルゴー家」のシャラン鴨 4,500円
牛ハチノスのカツレツ 1,800円
鮑のパイ包み 3,400円
砂肝のコンフィ 800円
パテ・ド・カンパーニュ 1,000円
コース料理 6,800円~(税込)
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。(コースのみ税込)
フランス料理 PADDA
- 電話番号
- 052-261-3002
- 営業時間
- 18:00~23:00(L.O.)
- 定休日
- 不定休
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。