白金の名店が蘇生!!
場所は、東京・白金のプラチナ通りに面する、淡く色褪せたエメラルドグリーン色のビルの地下1階。ここはかつて、フランス料理界を牽引する巨匠の一人・小沢貴彦氏が営むフレンチレストラン『OZAWA』があった場所だ。
白金で築き上げてきた30年の歴史に幕を閉じたのは、2018年春のこと。京都への移転に伴い居抜きとなった名店を、同街を盛り上げてきたふたりが受け継いだ。それが『Restaurant L’allium(レストラン ラリューム)』である。
『ラリューム』を率いるふたりとは、オーナーシェフを務める進藤佳明さん(写真上)と、ソムリエ兼支配人の熊澤大樹さん。出会いは、進藤さんが六本木『ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション』で副料理長として腕を振るい、熊澤さんが恵比寿『シャトーレストラン ジョエル・ロブション』でサービスの研鑽を積んでいた頃へと遡る。
白金台『ジョンティ・アッシュ』の開業にあたって招集されたふたりは、タッグを組むとオープン1年目から『ミシュランガイド東京・横浜・湘南 2014』で一つ星に輝いた。以降、『ミシュランガイド東京 2018』までの5年連続で評価を守り続けるなか、さらなる高みを目指すために独立を決意。2018年8月1日、満を持しての開業を遂げた。
巨匠のエスプリと歴史を継承したもの
『ラリューム』の入り口は、理容店前を回るサインポールが目印。通り過ぎた奥にあるガラス扉を開くと、時代を巻き戻したようなレトロなら旋階段がゆるやかに地階へと誘う。
たどり着く先に広がっているのは、世界的に有名なデザイナーのフィリップ・スタルク氏が手がけた抜群の開放感と、散りばめられたグランメゾンらしい設えたち。
「内装も料理も大きく変えておりません。机やカッシーナの椅子、キッチン道具など、小沢シェフから譲っていただいたものはすべて、スタッフ全員で改修して引き継ぎました」。
そう話す熊澤さんが、とくに大事そうに運ぶのが、小沢シェフから譲り受けた“クリストフル”のカトラリーセットである(写真下)。
「これら数百本ものシルバーは、2日がかりで丁寧に磨き上げた大切なもの。最近は、クロスを敷かずにステンレスのカトラリーや小洒落たプレートでもてなす、カジュアルなフランス料理店が増えてきました。それも素敵ですが、当店ではホンモノを体感していただきたい」(熊澤さん)。
格式のある装いを前に肩肘を張ってしまいそうだが、席へと着くと、意外にも和やかな食卓の景観が待っている。それが『ラリューム』へと進化したところ。『ジョンティ・アッシュ』にも『OZAWA』にもなかった、カウンターが併設されたオープンキッチン(写真下)の存在だ。
「ある時はきちんとしたサービスを受けながら記念日を祝い、ある時は仕事帰りにカウンターでひとりサクッと1~2皿食べて気兼ねなく過ごす。同じお客さまでも用途に合わせて使い方が変えられるような、自由なお店にしたかったのでカウンターやアラカルトメニューを設けました。オープンキッチンに立つと、お客様との距離も近い。リクエストがあればこたえていきたいと思っています。私の師であるロブション氏の教えですね。これが、当店が掲げるコンセプト“モダングランメゾン”です」と進藤さんは微笑む。
日本料理が見え隠れする組み合わせの妙
窓がない地階でも季節の移ろいを感じられるよう、進藤さんは皿の上に“旬”を描く。
例えば、前菜の一品「新秋刀魚 トマトフォンデュとトロ茄子のタルト スダチの香りで」(写真上)。見目麗しい初秋のミルフィーユは、ふにゅっと柔らかいトロ茄子とパイ生地の食感のコントラストの奥に、和のエスプリが潜んでいる。
その正体は、トッピングに飾られた大根と粒マスタード、ミョウガ、生姜、スダチを搾って和えたソース。
「焼いた秋刀魚には、やっぱり大根おろしとスダチが一番合うんですよ」と進藤さん。肝とタプナードのペーストを加えれば、見え隠れする日本の定食の面影から一気にフランス料理へと引き戻される。
食べるタイミングや調理法でフォワグラの種類を変えるのが進藤流!
12品前後のコースのなかで供されるにしては、ボリュームが大きすぎやしないだろうか…。「ペリゴール産フォワグラのプランシャ焼き イチジクのキャラメリゼとタルタルを添えて」(写真上)を見て頭によぎった不安は、ひと口食べるとその口当たりの軽さに払拭される。
独特の香りや余分な脂を削ぎ落としたフォワグラは、しつこさをまったく感じさせない。赤ワインのジャムやナッツ、クランブルを混ぜ込んだイチジクをからめれば、濃厚な脂の甘みが調和されて、うまみの余韻だけを口内に残す。
しかし、理由はそれだけじゃない。進藤さんは、コースの中で提供するのか、単品なのか、ポワレやソテー、テリーヌなどの仕上げ方によって、鳥の種類を変えるのだ。「コースの途中でお出しする場合は、重さを感じさせないように鴨のフォワグラを使用しています」。お客想いの細やかな気遣いと巧妙な鉄板使いで、食べやすいようモダンに演出する。
食材のクセをもうまみに昇華させてしまう、卓越した火入れの技!
この日のメインディッシュ「ランド産 小鳩を藁の薫香をつけてロースト ジロール茸と茶豆のフリカッセを添えて」(写真上)は、その名の通り、芳ばしさとジロール茸の妖艶な香りを携えて登場。噛めばしっとりと柔らかく、薫香に秘めたうまみだけが口中に溢れて鼻腔へと抜ける。驚くのは、どの部位を食べても食感が均一なこと。
「肉の厚みや骨が複雑な鳩は、どうしても焼きムラがでてしまう。均等に火入れするためには、焼く前からどんな風に火が入っていくかをイメージすることが大切なんです。苦みや渋みは消さずに、調理法でうまみを引き出しています。鳩は藁焼きがベストですね」。
進藤さんは快活な表情で、目に見えない脂の量や骨の厚みを経験で的確に推し量り、食材に適した火入れ方法で均等に仕上げていく。
〆は「THE・大人のかき氷」
デザートは、モノトーンのグラニテが覆う「白桃と黒文字のかき氷」(写真上)。まずは、氷だけをひと口。口奥でシャリっと響くたびに、舌に残っていたうまみの余韻がスッキリと塗り替えられていく。
スプーンでそっとすくうと……
黒文字風味のカスタードクリームと黒胡椒を練り込んだメレンゲ、フレッシュなモモとモモのシャーベット、赤すぐりのジュレが顔を出す。黒文字とは、主に楊枝の原料となるクスノキ科の樹木のこと。ほのかな清涼感と芳香を放ち、自然で濃密なモモの甘みと赤すぐりの酸、黒胡椒の辛みが膨らむ。意表をつく組み合わせの妙で、慎ましいルックスから艶やかに垢抜けていく。
レストランとは料理を発表する場所ではなく、来る人を幸せにする場所
「実は、ワインも半分くらい小沢シェフから受け継いだものなんです」と熊澤さん。どれほどすばらしいワインが眠っているのだろう――。
期待が膨らむなかセラーへと案内された場所は、螺旋階段の下。見落としてしまうほど小さな取っ手を引くと、ひっそりと横たわっていた。ここは赤ワイン専用のセラーだそう。
「『ラリューム』ではユニークなペアリングをしつつ、お客さまの望みに合わせてオーダーメイドに提供していきたい」と熊澤さん。
訪れる人がそれぞれのシチュエーションで心から楽しめる料理とサービスを追求する『ラリューム』。正統派であり続けながら居心地のいい空間を目指したふたりが、小沢氏から受け継いだグランメゾンには、レストランとは“お客様の要望や期待にこたえる場所”というロブション氏のプリンシプル(原理・原則)が息づいていた。
【メニュー】
▼ランチ
メニュー レーヴ 3,400円(平日限定)
メニュー オープ 5,000円
メニュー デギュスタシオン 10,800円
▼ディナー
メニュー デギュスタシオン 10,800円
メニュー ラリューム 15,800円
メニュー シェフ 23,000円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込です。別途サービス料10%
Restaurant L’allium(レストラン ラリューム)
- 電話番号
- 050-5487-5088
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- ランチ 12:00~14:30
(L.O.13:00)
ディナー 17:30~22:30
(L.O.19:30)
営業時間短縮要請の全面解除を受けまして、営業時間・酒類のご提供を通常営業とさせて頂きます。解除後も引き続き、感染拡大防止の措置徹底を実施させて頂きます。
- 定休日
- 月曜日を中心に月8回
詳細は店舗まで問い合わせ下さい。
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。