軽井沢の名店『沢村』で修業した店主が独立開業した『製パン 雅』
2018年10月11日、閑静な住宅街に建つモダンなマンションの1階に『製パン 雅(みやび)』はオープンした。店主は今井雅人さん。
パン好きなら知らない人はいないだろうという軽井沢の名店『ベーカリー&レストラン 沢村』で7年の修業を経て念願の自店を構えたと聞けば、パン職人の道まっしぐらと想像するが、意外にもスタートは偶発的だった。
たまたまアルバイト先に選んだパン屋で、販売担当となった今井さん。接客のかたわらでパン作りを眺めるうち、興味を持って製造担当を志望した。
しかしその店では冷凍成形生地を使用していたため、粉のこね上げから焼成までを自店で行う「スクラッチ」の現場を見てみたい、と東海地区で店舗を展開する『GURUMAN VITAL(グルマン ヴィタル)』へ。
スクラッチをゼロから学び、東海地区の業務用パンで圧倒的なシェアを誇る『本間製パン』の直営工房『パン工房 アヴァンセ』を経て、自店を持つという確かな目標を定めた。そして最後の修業先に選んだのが『ベーカリー&レストラン 沢村』だった。
同店のパンを見たときに「パンの表情がいい!」と思ったのが志望のきっかけだという。今井さんは故郷の名古屋を後にし、軽井沢の地でパンととことん向き合うことになる。
『沢村』での修業生活は、今井さんの向上心と創作意欲を大いに掻き立てた。工房には常時30種類もの粉が揃い、レシピと粉の相性についても十分に学ぶことができたという。
「『製パン 雅』に並んでいるパンのほとんどが、その頃に構想したレシピなんです」と今井さん。人や環境に恵まれ、次々と浮かぶアイデアを具現化できたのだろう。
ブレないおいしさを生み出すのは、一つひとつのアイテムに描いた理想像
『沢村』での学びを活かし、『製パン 雅』では7~8種類の粉を厳選。パンの特性に合わせて使う粉、配合を細かく変えている。
「クロワッサン」(写真上)は3種の粉をブレンドし、見た目・食感・味・香りを特徴的に表現。ザクザクした食感と適度なボリュームを楽しんでいると、粉の香りが発酵バターに負けていないことに気づかされる。
「クロワッサンは他のデニッシュと折り方を変えています。層をいかに多く作るかよりも、食べごたえと香味を重視した折り方です」(今井さん)。
薄い羽を重ねたような、よくあるエアリーなクロワッサンとは一線を画し、確かな歯ごたえを感じさせつつ、潔い口どけが印象的だ。
「ベリーラテ」(写真上)も今井さんの思い入れが強い一品。クランベリーをはじめとするベリー類とカシューナッツを紅茶に漬け込み、その漬け汁で生地を仕込む。粉に対する水分量は100%で、焼成前の生地は手で持ち上げられないほどの高加水なパンだ。
焼いてもなお、ずっしりと重量感のある生地にベリーやナッツが散りばめられた断面は、なんとも美しい。
薄く切ってほおばると、上品な甘さと芳しい香りが口内を満たし、パンというより上質な焼き菓子を思わせる。
「パン・オ・ルヴァン」(写真上)も粉に対する水分量は110%とかなりの高加水パンだ。天然酵母の力を借りてルヴァン種を起こすところから始め、製パンに費やす時間はおよそ24時間。
3種の粉をブレンドし、国産の「キタノカオリ」でもっちり感、同じく国産の「ニシノカオリ」で香ばしさ、外国産小麦の石臼挽き強力粉「グリストミル」で味の深みを表現。
しっかり焼き込むことで、外はガリッ、中はモチッとしたコントラストを作り出す。ただし、モチッといってもいつまでも口の中に残るのではなく、サッと口どけのするところがさすがだ。
「パン屋たるもの、生地がおいしくなければ意味がない」
菓子パンや惣菜パンにも、もちろん手抜かりはないが、生地の味のみで勝負するハード系や食パン系の作りには並々ならぬ思いで臨んでいる今井さん。
極めてシンプルだからこそ、職人の腕が問われるのが「バゲット」や「バタール」(写真上)。『製パン 雅』では、『沢村』が独自に開発した石臼挽きの粉をベースに3種をブレンド。
ベトナム産のミネラル豊富な天日海塩とフランスの硬水を使って仕込み、長時間発酵させてクリスピーなクラスト(外皮)と適度な水分をたたえたクラム(中身)のギャップを狙う。
断面にはツヤを帯びた気泡が点在し、完成度の高さを物語る。粉の香りや味わい、食感で存在感を主張しつつ、食事と合わせたとたん、名脇役に徹してくれるところが心憎い。
日本人に一番なじみのある「食パン」は2種類をラインナップ。
「湯種(ゆだね)食パン」(写真上)は砂糖・乳製品・卵を使用せず、小麦本来の風味を全面的に活かしたリーンな(素材感がありシンプルな)パン。
バターやジャムなど、合わせるものを選ばないので朝のトーストにぴったりだ。サックサクの食感と鼻腔を満たす小麦の香りに魅了され、足しげく通うファンも多いという。
一方、「食パン 雅」(写真上)は生クリームとハチミツを使ったリッチタイプ。贅沢に厚切りしたバタートーストがおいしいのはもちろんのこと、生地がきめ細かくしっかりしているのでサンドイッチにも最適。
子どもから年配の方までファン層が広く、さまざまなシーンで活躍してくれるオールマイティな食パンである。
店名に込められた店主の美学。雅やかな表情を放つパンがおいしさを物語る
粉と酵母と対峙し、パン職人としての生き方を日々深化させている今井さん。店名はご自身の名前「雅人」から引用したと思いきや、「雅(みやび)やかな表情を放つパンを作りたくて」と意外な理由だった。
「雅という言葉は気高さや優美な様子を表現する言葉。僕が『沢村』に飛び込んだのも、そのハンサムな表情に惚れ込んだからです。パンの見た目は丁寧な仕事のバロメーター。『コレ食べたい!』と思っていただけるパンを作り続けたいですね」と店名に込めた決意を語ってくれた。
「雅」のひと文字が今井さんの美学を象徴しているようだ。
【メニュー】
クロワッサン 200円
ベリーラテ(1本) 1,900円
パン・オ・ルヴァン 520円
バタール 270円
湯種食パン(1斤) 350円
食パン 雅 350円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です
製パン 雅(みやび)
- 電話番号
- 052-753-3082
- 営業時間
- 9:00~18:00
- 定休日
- 月、火曜
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。