ワインの世界を広げる4つのポイント【ワインナビゲーター・岩瀬大二】
本コラムは、「ワインは面倒だ、勉強しなきゃ飲めない、ような気がしてしまう」といういわゆる「初心者」と自称する皆さんに向けて書いた。
いきなりだが、ワインを教科書の1ページ目から開かなければ語ってはいけないのなら、サッカーはピッチのサイズやボールの直径を把握してからでないと「大迫半端ねえ!」と言っちゃいけないことになる。すべての品種を知らなければいけないのなら野球で言えば、大谷ファンはメジャー30球団の選手を全部知らなきゃいけないというのか。
「スターウォーズ」は1977年公開の最初の作品から見なきゃいけないわけじゃないし、大坂なおみの試合を見る際に、自分が100km/hを超えるサーブを打てなきゃいけないなんてことがあるわけがない。
ワインを楽しむためには勉強しなければいけないのか? たまたま出逢ったワインをきっかけにその扉を開きたい、その気持ちを大切にすればいい。勉強しなければなんてことは思わずに。初心者なんて思わなくていい。体験が少ないだけだ。
好きになれば勝手に吸収できるものなのだからまず好きになっていただきたい。気軽にワインの世界を広げていただきたい。そのための4つの扉へご案内しましょう。
1.覚える順番を気にしない
よく言われた昔のワインの常識。そのひとつが、「ワインが苦手な人は白の甘口ワインからはじめると好きになれる」。だが、むしろ「白」の「甘口」が苦手な人であればこの時点でワインの扉はクローズ。多様なワインにアクセスできる今、もっと自分の好みの合うものからスタートできる。
では、どんなワインから始めるか。それは、自分が普段親しんでいる嗜好品からワインを選ぶこと。ワインを飲む時にちょっとだけ香りや飲んだときの余韻を意識してみよう。そこでは、コーヒーやチョコレート、ジャム、レモンやストロベリーにバナナ、ナッツやハーブなど、それぞれのワインにそれぞれの特徴的な香りやテイストが感じられる。
テイスティングなんて難しい! と思わるかもしれないが、正解を探すわけではなく自分の好きなものが見つかればいいだけで、好きな要素というのは不思議によく見つかったりする。
例えばチョコレートがお好きな方なら、ワインから、ダークかミルクかビターか、もっと慣れてくると酸味や果実味のバランスから、マダガスカル、キューバ、ベトナムなどのチョコレートの産地の特徴を捉えることができるだろう。
ベリー系がお好きなら、まずは「大きな果実」か「小さな果実」か。次に「赤い果実」か「黒い果実」か。さらにそれが「新鮮」か「完熟」しているか。そして「農園」か「自生」か、「ジャム」か「果実そのまま」か。「新鮮な野イチゴ」だったり「ブルーベリーのジャム」だったり、これもお好きならきっと捉えやすい。
ということで、こんなものが好きな方にはこういうワインを扉にしていただきたいというリストを下記に紹介しよう。
フレッシュな黄色い柑橘(レモンやグレープフルーツ)、緑の柑橘(ライム)
◎酸味豊かな白ワイン
甘みのある黄色い果物(バナナ、甘みのあるパイナップル)、白い果物(桃、洋ナシ)
◎果実味のゆったりした白ワイン
ブリオッシュやトースト、クロワッサン、バター
◎樽熟成された白ワインやシャンパーニュ
凝縮感のあるオレンジ
◎ドライなロゼワイン
小さくフレッシュなベリー
◎酸味が豊かな軽めの赤ワイン
コーヒー、チョコレート、タバコ、十分に完熟したベリー
◎濃いめ、重めの赤ワイン
2.好きなブドウ品種で世界一周
ブドウ品種は好きなワインを見つけるために大いにあなたを助けてくれる。ただ、その数は豊富なので一つひとつのブドウ品種の特徴を頭に入れていくのは大変だし、なかなかいろいろな品種を比較して捉える機会もないだろう。
まずは、自分で選べるような場面では、気に入った一つのブドウ品種に絞って、追いかけてみる。
これはスポーツを追いかける時も同じで、たくさんの選手をまんべんなく見るよりも、まずは気に入った一人の選手を見続ける。そうするとその選手を通して、相性のよさそうな選手や、その選手の得意不得意、そもそものルールや戦術、歴史的な出来事、ライバル、フランチャイズの情報などそこから知識や楽しみ方が広がったり、深まったりする。
たまたま出逢ったあなたが好きなブドウ品種があれば、それを軸に付き合っていこう。同じブドウ品種でも造り手や造り方によってさまざまだが、そんな個性も好きなブドウ品種を軸に追いかけていけばわかりやすくそのキャラクターが理解できる。
シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなどは世界中で造られているのでアクセスしやすい。それだとあまりも膨大だということであれば、シラー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランあたりがちょうどいいだろうか。だが何よりも、最初に出逢った好きなワインで追いかけていくのがいいだろう。勉強はいやでも好きなものなら多少アクセスしづらくても追いかけたくなるものだから。
3.第一印象を信じてジャケ買い
1も2も若干の手がかりとなる知識は必要か。そこで感覚を信じてボトルデザインやラベル(エチケット)で選ぶ、いわゆる「ジャケ買い」もありだ。
だいたいこれからワインを楽しもうとする人に対して、ワインのラベルは不親切だ。相当な知識や体験がなければ、味わいがわかるわけでもないし、何よりやっかいないのは国や地域によってラベルでわかる情報が違う。
ブルゴーニュは一番大きく紹介されているのは村名で、生産者の名前は小さめで、ブドウも何だかわからない。もちろんブルゴーニュの場合、村名を名乗る場合に使えるブドウ品種はこれという決まりはあるが、これは知識がなければわからないことだ。
それが他の国に行けば、一番大きく書かれているのは、ブドウ品種だったり、生産者名だったり、ワインにつけられた名前だったり、そもそもシンプルなロゴやロックな絵だけでなんの情報もなかったり。書いてあってもスペイン語圏や、中近東のワインなどは何が書いてあるのかさえわからない。それならこちらも文字で書かれた情報など無視してしまって感覚で選んでもいい。
ワインのジャケ買いも一緒。デザインしているのはそのワインを造っている人なり会社であるわけだから、そのデザインが気に入れば中身のワインも自分が気に入ったものである確率は高い。陽気な絵柄ならおそらく陽気なシーンに合うワインだし、ストイックさを感じればワインも緊張感と集中力のあるものだろう。
もしクラシックなフォントで書かれたデザインがあったとして、あなたが古臭いと感じればそれはあなたにとってはクラシックすぎるワインだろうし、それを懐かしいな、安定感があるな、高級感があるなとポジティブに捉えられればそれは今のあなたにとっていい出逢いになる。
4.故郷…気持ちを寄せるワイン
日本全国には、たくさんのワイナリーがある。ジャケ買いと同様、あなたが好きで、関係を持ちたいと思ってる地域で生まれるワインなら、きっとそれはあなたが求めているもの。郷土料理にあわせ、現地の景色に合わせて飲めば最高だが、都会にいてもワインを通じてあなたとその地域はつながることだろう。
思いを馳せる場所とワインでつながればどんどん体と心が求めだす。
知識などいらない。あなたがつながりたい場所のワインが、あなたのワインの扉を開いてくれるだろう。
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