まるで、店全体がシェフズテーブル! 神泉に注目のイタリアンレストランが誕生
渋谷の雑踏を抜けた奥、個性的な隠れ家飲食店が点在する円山町。そんな食通たちが集まるエリアに2018年10月23日、ひときわ強烈な個性を感じさせるイタリアンレストラン『SuperTrattoria LITO(スーペルトラットリア リト)』がオープンした。
小さな看板を目印にヴィンテージ感のある入口の階段を上がってドアを開けると…、
まるでステージ上から客席を見下ろすように、12坪の店内すべてが一目で見渡せる空間が飛び込んでくる。
手前のカウンターが調理台になっており、そのまま客席のテーブルにつながっている。その奥には6人掛けのテーブル、奥には4人掛けのボックス席が2卓あるが、どの席からもシェフの調理姿が見える。
特に調理台とつながっているテーブルは、手を伸ばせば届きそうな距離。食材が目の前で華麗な一皿に仕上げられていく様子は、一瞬たりとも目が離せないほどの迫力だ。
「自分が行きくなるイタリアンの店を作りたかったんです」
「お客さんの目の前ですべての料理ができていく、今までにないライブ感のある店が作りたかったんです」と語るのは、オーナーシェフの市川大介さん(写真下)。
服飾の仕事をしていた23歳の時、白金のピッツェリアで食べたイタリア料理に感動し、「料理をやりたい!」とこの道に入ったという。
料理人としては遅いスタートだったが、国内のイタリアンレストランで修業を積んだ後、28歳でイタリアに渡り約2年半、トスカーナ、ピエモンテ、エミリアロマーニャと、レベルの高いレストランが多い街でさらに研鑽を積んだ。
帰国後は、個性的な飲食店を展開する『株式会社ダルマプロダクション』に所属し、メニューのないイタリアンとして話題を呼んだ『Osteria Urara(オステリア ウララ)』など、いくつかの店で総料理長として立ち上げから関わり、成功に導いている。
『LITO』を開いた理由を「イタリアンが食べたいと思った時に、自分が気軽に行ける店が無かったんです」と市川シェフは語る。カジュアルな店では物足りず、本格的すぎると敷居も値段も高い。
「正統をずらさずに、遊びを取り入れたおもしろい料理を、カジュアルな価格と雰囲気で提供する店があったら」と考え、この店を作った。
計算し尽くされた逸品たちが供される、魅惑のディナーコース
空間だけでなく、メニューのシステムもユニークだ。
ディナーは5,000円のおまかせコースのみ。アラカルトを注文できるのは21時以降となる。
驚くのは、通常6~7品からなるディナーコースの内容。5,000円とお手軽価格にもかかわらず、質の高い品々が楽しめるのだ。
「常連さんが多いため10日に1回は内容を変えています」(市川シェフ)というが、以下はある夜の例。
アミューズは「40日熟成 鴨のテリーナ、18か月パルマ生ハム」(写真上)。生ハムにはラ・フランス、鴨のテリーナには柿とリンゴのマルメラータ(ジャム)が添えられている。どちらもフルーツの甘み、酸味と肉のうまみがお互いを引き立て合う絶妙な相乗効果を生んでおり、コースへの期待をぐっと高めてくれる。
続いては、ハーブとバルサミコ酢のアクセントが極薄の牛肉を引き立てている「源氏和牛のヴェネツィア風カルパッチョ」(写真上・左)、白子とヒラタケの食感のコントラストが楽しい「北海道産白子と原木ヒラタケのヴェネツィア風ソテー」(同・右)と、小ポーションでパンチのある皿が供される。
自家製生パスタ・オレキエッテ(耳たぶのような形をしたショートパスタ)とブロッコリーにボッタルガ(カラスミ)ソースをからませた、「イタリア産ボッタルガ ブロッコリー オレキエッテ」(写真上)。生パスタならではのモチモチの食感が楽しく、カラスミたっぷりのソースとの相性も抜群。
メインは「オーストラリア産仔羊のロースト スーゴとグリーンマスタード」(写真上)。スーゴとは、肉(今回は子羊)と野菜を煮詰めたスープ。そこにピリッとグリーンマスタードを効かせてソースに仕上げている。
雑味が無くシルキーな食感の仔羊肉は、何もつけなくて良いくらいおいしいが、爽やかな辛みのこのソースをつけることで、肉の甘みがさらに引き立つ。市川シェフのセンスが感じられる一皿だ。
ここでコースは終了だが「まだ少し食べられる」という人のための「〆のパスタ(トマトソース)」(写真上)も用意されている。ひとつのコースで生パスタと乾麺、両方が味わえるのは嬉しい。
そして、ドルチェの「パンナコッタ」とカフェでコース終了。これが5,000円とは信じられない。
21時以降のアラカルトに、さらなる魅力が詰まっている
だが感動するのはまだ早い。
この店の個性がよりくっきりと姿をあらわすのは、21時以降に注文できるアラカルト料理だ。
北海道産の柔らかくて歯切れの良い仔牛を使用した「北海道産仔牛ロース コトレッタ」(写真上)は、2~3人でシェアできそうなボリューム。
グリッシーニ(スティック状の細長いパン)を細かく砕いたパン粉で揚げた後、バターやフォンティーナチーズ(北イタリア原産のセミハードタイプチーズ)を絡めてオーブンで焼き、衣をカリカリに、中はしっとりと仕上げている。
脂身の少ない仔牛肉のさっぱりしたうまみを引き出しているのが、バルサミコ酢の本場といわれるモデナ産バルサミコ酢の力強いコクとまろやかな酸味だ。
コトレッタはレモンを搾って食べることが多いが、上質なバルサミコ酢が合わさると、驚くほど味が格上げされる。
「メランツァーネ アッラ パルミジャーナ」(写真上)は、イタリア全土で食べられているグラタンのような郷土料理で、地方によっても微妙に作り方が違う。
市川シェフの作り方は、イタリアでの修業時代、同僚の家に招かれた時に食べさせてもらった家庭の味で、ナスにたっぷりの衣をつけて揚げ、パルミジャーノチーズ、トマトと重ね焼きをしたもの。
ナスを包む衣がパスタを思わせ、絶妙に組み合わされた食材のさまざまな食感を楽しめる。濃厚なのに不思議とホッとするやさしさを感じさせるのは、家庭の味をもとにしているからなのだろう。
「生ハム サラミ 盛り合わせ」(写真上)。右は18カ月熟成させたパルマの生ハム、左は豚の背脂をスパイスで熟成させた生ハム「ラルド」。“幻の生ハム”と呼ばれる「クラテッロ・ディ・ズィベッロ」を彷彿とさせるほどの上質な味わいだ。
「食材は自分がおいしいと思ったものであれば、ブランドにはこだわりません。高級食材ももちろん使いますが、ほとんど変わらない味でカジュアルな価格のものもありますから」と市川シェフは語る。
ラルド(写真上)はやわらかく、薄切りにするのが難しい生ハムだが、見事な薄さで供される。あっという間に溶け、脂の甘みが口いっぱいに広がる。
こだわりは尽きない! 魅力的なラインナップのビールやワインも揃う
入口近くには、珍しいイタリアの地ビール「エミリアロマーニャ 生ビール」のサーバーが設置されている。「どこでも飲める国産のビールを出してもおもしろくないでしょう」という市川シェフのこだわりだ。
「エミリアロマーニャ 生ビール」(写真上)はフルーティな酸味のホワイトビールで、白ワインのような味わいもあり、イタリア料理ともよく合う。
サービス担当の金子和之マネージャー(写真上・左)は、市川シェフと高校のラグビー部時代からと長い付き合い。自然なリレーションから2人の間の信頼感が伝わってきて、居心地のいい雰囲気を作っている。
もちろんワインへのこだわりも強い。
「カベルネやシャルドネなどの(世界中で栽培されている)国際品種ではなく、イタリアの土着品種、古代品種のワインを入れるようにしています」(金子マネージャー)。
市川シェフは2号店、3号店も視野に入れている。
「本格的なイタリア南部の郷土料理を、それぞれ違う形で提供する店をいくつか出してみたいですね。でも最初の目標は、まずこの店を予約の取れない店にすること」と市川シェフは言うが、その目標はあっという間に達成されそうだ。
“知る人ぞ知る”存在である今のうちが、気軽に訪れられるチャンスに違いない。
【メニュー】
イタリアンコース 5,000円
北海道産仔牛ロース コトレッタ 3,200円
生ハム サラミ 盛り合わせ 1,900円
メランツァーネ アッラ パルミジャーナ 1,000円
エミリアロマーニャ 生ビール 900円
白ワイン グラス800円~
赤ワイン グラス800円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。
super trattoria LITO(スーペルトラットリア リト)
- 電話番号
- 03-6712-7381
- 営業時間
- 火曜~金曜18:00~23:30、土曜・日曜12:00~14:30、18:00~23:30
- 定休日
- 毎週月曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。