連載 第12話:『居間 -ima-』店主 多田裕紀さんが通う店
料理人から料理人へ、バトンを受け継いでとっておきの一軒を追う連載【腕利き料理人が通ううまい店】。
白金台のチャイニーズダイニング『私厨房 勇(しちゅうぼう ゆん)』のオーナーシェフ、原勇太さんからバトンを受け継いだのは、広尾の居酒屋『居間 -ima-』の店主、多田裕紀さん。
日本各地から届く鮮魚の刺身から、もつ煮込み、だし巻き卵などの定番まで常時50種以上の肴を深夜までゆっくり楽しめるとあって、業界人も足繁く通う。
朝4時に店を閉め、ほんの少しの仮眠で豊洲へ仕入れに出かける多田さんが、たまの休みに訪れるのが今回の店。次の日まで余韻に浸るという料理、いちファンだと語るその味とは。
ここからは、多田さん自らに語っていただきます!
暖色の壁が印象的な外観。中はナチュラルカラーの客席とオープンキッチン
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東急東横線代官山駅から徒歩4~5分。八幡通りから小道を少し入ったところにイタリアン『ARMONICO(アルモニコ)』はあります。以前は恵比寿にありましたが、2018年7月に代官山へ移転されました。
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キッチンがオープンスタイルになり、オーナーシェフの佐々木泰広さんが出迎えてくれます。知り合ったのは10年ほど前でしょうか。佐々木シェフが麻布十番の『リストランテキオラ』にいらっしゃる頃でした。盛り付けはもちろん、味の合わせ方や重ね方がすばらしく、訪れるたび感動を味わっています。
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カウンターは、座ったときに佐々木シェフの手元が垣間見え、自然と話ができる高さ。幅も広く、居心地がいいんです。『アルモニコ』のメニューは、シェフのスペシャリテや季節の素材、味で構成されるおまかせコースひとつ。前菜、パスタ、メインの炭火焼き、スイーツまで約7種の美味を堪能できます。今回は、私が今まで食べたなかで感動したベスト3の料理をご紹介します!
第3位:「ムール貝とタレッジョチーズのブルスケッタ 黒トリュフ」
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これは、最近訪れたときにいただいてとてもおいしかった、ワンスプーンスタイルの温かな前菜です。仕上げに、具が隠れるほどの黒トリュフをたっぷり! 香りの奥からさまざまな味が現れてくる、贅沢な一品です。
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▲イチジクのパンにソースをかけ、ムール貝、チーズをのせてオーブンへ。仕上げにトリュフをかける
作っている工程を見ると、さまざまな味が重ねられているのがわかります。器の演出もいいですね。では早速、いただきます! …最初はトリュフが香り、チーズの芳ばしさとコク、貝の風味、トマトソースのあと、パンの中のイチジクの酸味が存在感を出してきます。
「貝とイチジクは相性がいいんです。味噌とも合うのでトマトソースには白味噌を少々」と佐々木シェフ。なるほど! 白味噌はいい仕事しますね、私もタルタルソースの隠し味などに使っています。
パン自体にも工夫がなされていて、調和がすばらしい。シェフに聞くと、「和食はどちらかというと引き算で、イタリアンは足し算だと思うんです。何をどう重ねて、味を完成に導くか。味噌や昆布だしといった和の要素を組み合わせることもあります。パスタは昆布だしを少し加えて深みを出すなど。もちろん仕上がりはしっかりイタリアンです」。おいしさを引き出す技ですね。
料理は違うジャンルですが、食材や調味料の組み合わせにいつも刺激を受けます。自分だったら何を重ね、ときには何を引いて和の一品にするか、考えながら味わうのも『アルモニコ』での楽しみのひとつです。
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佐々木シェフがブルスケッタに合わせて出してくれたのは「Ca' Lojera Lugana Riserva del Lupo
(カ・ロヘーラ ルガーナ リゼルヴァ デル・ルポ)2014」。マセラシオン(醸し)をじっくりしているイタリア北西部ロンバルディア州の白ワインで、コクがあり、トリュフやチーズとよく合います。
第2位:「豊後水道の鮮魚のマリネ ブロッコリーのフランとピューレ」
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佐々木シェフは、九州と四国を結ぶ海域、豊後水道(ぶんごすいどう)と程近い大分県の出身。地元の友人から直送されるという魚は、鮮度、味わいともに抜群。いつも何が出てくるのか楽しみな魚料理、今日も野菜やさまざまなソースが重ねられて美しいですね。
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▲本日はスミイカと赤足エビ。それぞれに軽く火通しし、野菜やソースと重ねていく
ベースに敷かれているのはきれいなグリーンのブロッコリーのピューレ、そこにかぶのフランがのり、魚介や野菜が盛られ、ディルのソース、えびのソース、黒オリーブを乾燥させ粉状にした仕上げの黒い粉がかかります。
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食材だけでなく、色のコントラストやソースの重なりも絶妙。甘みやみずみずしさ、うまみ、酸味のニュアンスが、食べるたびに変化していきます。
今日の野菜は、昆布締めにしたニンジン、カリフラワー、紅芯大根、ピクルスにしたレンコン。多様で複雑なのにまとまりがある、佐々木シェフの手腕です。魚介も一つひとつ丁寧に火が通されていて食感のバランスもいいです。
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ワインは、『CALITRO Puglia bianco Verdeca (カリートロ・プーリア ビアンコ ヴェルデカ)2017』。佐々木シェフ曰く「イタリア南東部プーリア州の白ワインで、軽やかな中にレモンのニュアンスがある」とのこと。魚介やディルのソースにぴったり。ワイン選びも佐々木シェフにおまかせで間違いありません。ついつい進んでしまいます。
第1位:「完熟トマトのジュレとモッツァレラチーズのムース」
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ナンバーワンは、やっぱりこれでしょう。佐々木シェフのスペシャリテです。トマト、モッツァレラ、バジルが三位一体になったもの。そう、イタリアンの定番『カプレーゼ』も、シェフの手にかかるとこうなります。
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▲完熟トマトにブラッドオレンジを少し加えた赤いジュレにモッツァレラのムースを重ね、バジルをトッピング
口に含むと、とろっとしたジュレとモッツァレラのなめらかなムースが溶け合って、口の中でカプレーゼの風味が広がります。独創的な料理、おそらく出逢った10年前からいただいていると思います。
「実は少しずつ変わっていて。最初ジュレは透明で、モッツアレラは角切りにしていたかな。今もトマトの酸味の度合いによってゼラチンの量を日々調整しています」と佐々木シェフ。一つひとつ手がかけられ、進化しています。
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ワインはイタリア北東部フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の『Ronc Di Vico Sauvignon(ロンク・ディ・ビィーコ・ソーヴィニヨン)2016』。少しハーブのようなニュアンスがあって、バジルやイタリアンパセリの風味とやさしくマッチします。やはり、この料理は食べないと帰れませんね。
「以前はコースのメニューに入れないこともあったんです。でもその度に(あのカプレーゼを出してほしいと)お客様からリクエストがあって。今は必ず組み込んでいます」とのこと。これで安心です。
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佐々木シェフの料理をいただくと嬉しくて、次の日に食べたものを思い浮かべたりします。自分の料理への刺激にもなりますが、気持ちはいちファンといったところ。シェフもうちの店にいらっしゃることがあり、いつだったか釣った魚を持ってきてくれました。釣りもプロ並みだから、魚のおいしさに説得力があります。今日も感動の味でした。今後ともよろしくお願いします!
【編集後記】
食べ進むたびに笑顔が増えていく多田さんから、シェフへの絶大な信頼感を感じ、味わう喜びが伝わってきました。さわやかなトマトのジュレと、モッツアレラのクリーミーなムースは、口の中でふわっと広がり、すっと溶けて消え、香りと風味が通りすぎる、余韻までおいしい一品でした。
撮影:千々岩友美
【メニュー】
ディナー(コース料理) 8,800円 デザート込み7品
※21:00以降はコース料理の中からアラカルトのご注文も可能
グラスワイン 1,200円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別・サービス料(10%)別です。
※『dressing』プレミアム読者限定のプレゼントあり※
『アルモニコ』佐々木シェフに、ご来店時特典をご用意いただきました。
特典をゲットして、多田裕紀さんが絶賛する『アルモニコ』の味を堪能しましょう!
※取材時にいただきましたご来店時特典は、2019/2/28 まで有効です。
ご来店時特典は…! (続きは「今すぐ続きを読む」へ)
アルモニコ(ARMONICO)
- 電話番号
- 03-6416-0963
- 営業時間
- 18:00~23:00(L.O.21:30)
- 定休日
- 月曜(不定休あり)
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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