「江戸前寿司をもっと敷居低く」。店主の思いが、粋!
銀座・晴海通りとみゆき通りをつなぐ三原通りに、本格江戸前寿司の技を伝承し、暖簾をあげた店がある。2018年7月30日にオープンした『銀座 鮨 み富』だ。
店主は三橋克典さん。池波正太郎も好んだ銀座の『新富寿し』(現在は閉店)で、修業時代から数えること22年間、3代目の右腕として働いてきた人物だ。なので、開店早々に来店したのは、『新富寿し』時代の馴染み客らだった。
えんじ色の暖簾に、くっきり白抜きの店名。真新しい暖簾をくぐると、カウンター8席のみ。「入りやすい、明るい印象にしたかった」と、三橋さんが話すように、昼間なら広い窓から採光もあり、小ぢんまりしているが開放感に富む雰囲気だ。
総ヒノキのカウンターは、開店してまだ半年だというのに、置き台の色に変化が見られる。直接置く魚の脂がしみて、早くも濃くなっているのだ。どの席からも三橋さんの手元がよく見えるが、常連客に人気なのは、窓際の三橋さんの目の前だ。
千葉県船橋市出身で、海を近くに感じながら育った三橋さんは、学校卒業後、手に職をつけたいと考えた。「たまたま、叔父さんが『新富寿し』で働いていたんです。そのご縁で、修業に入ったのが始まりです」。
修業時代に全身で覚えた技術や知恵に、三橋さんの感性が加わった鮨をテンポよく味わおうではないか。
大満足の、「一人前」にぎり8貫と巻物半分
平日11時30分から15時まで限定の「一人前」は、にぎり8貫と巻物半分からなる。最もお値打ちなメニューだ。
まず登板するのは、ハッと目がさめるような朱色の「赤身」(写真上)。三橋さんは、生の本マグロしか使わないが、この日は伊豆・下田の本マグロを使用。
続いて「ヒラメ昆布〆」(写真上)。昆布で一晩〆めたヒラメは、昆布のふくよかなコクとまろやかさをまとい、ねっとりした食感。甘みの余韻が長い。
生姜とネギをあしらった「カツオ」(写真上)は長崎県産。「この時期の長崎産のものは、脂の乗ったいいカツオなんですよ」と、三橋さんも一押しだ。
口中で、ネタとシャリが同時になくなる!
寡黙に手を動かす三橋さんは、職人気質をたっぷりに口数は少ない。シャリについて尋ねると、「鮨は、ネタとシャリとのバランスが大事。口に入れて、噛んで、同時になくなる感じがいいんです」。
米は、長野県産のコシヒカリ「幻の米」。甘みが強く、魚に合う銘柄を探し求めて出逢ったという。
本わさびは、時期にもよるが、今日は伊豆産。おろしたてを使うので、風味がきわめて高く、辛みと同時に甘みもしっかりと感じられる。
ブリ(写真上)は、脂がほどよく乗った富山県氷見産。噛むとサクッとした歯ごたえに、冬ならではの濃厚な風味が口中に広がる。そして、きれいな脂がシャリを包み込み、スーッと馴染んで口どけていく。一瞬のことなので、目を閉じて静かに味わいたい。
中盤は、江戸前寿司といえば真っ先にイメージする「コハダ」。塩を振り2時間置き、塩抜きをして酢に浸すが、この塩出しの塩梅が仕上がりを左右する。
つまり、この塩梅が職人の腕というわけだ。酢に浸したら2~3日そのままに。しっかり強めに〆めるのが三橋さんの「コハダ」(写真上)だ。
「タコ」(写真上)は神奈川県・三浦半島の佐島産。歯ごたえがしっかりあるが、やわらかさと甘さを合わせ持つ上質なタコだ。歯ごたえを残しつつ食べやすいように、細やかに入った隠し包丁が見事で、タコはかたくて苦手という人にこそ味わってもらいたい。
終盤は、正真正銘の江戸前・羽田産が登場!
「一人前」の宴もたけなわ、正真正銘の江戸前寿司の登場だ。かつては「江戸前」と呼ばれたエリア・羽田産の「穴子」(写真上)。ふわっとした食感に、思いのほかさっぱりしたタレをまとう。
「『新富寿し』では、創業以来、煮汁を加えて継いできたタレを使っていました。うちもそのように継いでいきますが、まだまだこれからです」。
「玉子焼き」(写真上)は、エビのすり身を使った、巻いていない伊達巻のよう。ふんわり口どけがよく、控えめな甘みで後味も優しい。
入魂のかんぴょう巻きは、甘辛自慢
最後の一品は「かんぴょう巻き」(写真上)。『山本海苔店』の肉厚かつ磯香濃い海苔で、シャリとかんぴょうを巻く、インパクトの強い巻き物だ。かんぴょうは、2~3時間じっくりと柔らかく煮て、砂糖と醤油とみりんを加えて煮詰める。玉子焼きとは真逆に、しっかり甘辛く、これをつまみにさらに酒が進むかも。
日本酒は、茅場町の老舗酒屋『今田商店』に相談し、選りすぐりを数種常備する。「たまたま今田商店さんの方がうちのお客さんで、鮨に合う日本酒、時期のおいしいものをお願いすることにしたんです」。
次回は、好きなネタを、順番も個数も自由に注文する「おこのみ」がいいだろう。冷蔵ケースのないカウンターには、氷を敷いた木箱にネタが並ぶので、横目でのぞきながら、ハマグリをはじめ、旬の貝類や〆サバなど、「一人前」には入らなかったネタも味わいたい。
三橋さんは、火曜日夜から水曜日がお休み。その間は、『新富寿し』時代の先輩で、厨房で仕込みを担当する三井勉さんが握るので、年中無休が叶う。
「江戸前鮨は、江戸時代のファストフード。『何かつまませて~』と、何時でも立ち寄ってください。おこのみで2~3貫、お酒1合でサクッと20~30分。そんな風に使ってくださっても」と、三橋さんは語る。
一見には敷居が高い銀座の寿司店。そんな印象を拭ってくれる、庶民の味方の誕生だ。
【メニュー】
・平日11:30~15:00
一人前(にぎり8貫、巻物半分) 4,000円
・11:30〜21:30
おまかせ にぎり(にぎり10貫) 8,000円
おまかせ 刺身 にぎり(お通し、刺身4種、にぎり8貫) 12,000円
ビール(小瓶) 600円
ビール(中瓶) 800円
日本酒(1合) 800円~
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜です
銀座 鮨 み富
- 電話番号
- 050-5487-8968
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 11:30~21:30
- 定休日
- 無
- 公式サイト
- http://mitomi-sushi.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。