ボリュームだけじゃない! 素材や手づくりへのこだわりがすごい、創業100余年の老舗定食屋『菱田屋』

【連載】老舗の当主が明かす「老舗が愛され続ける、隠れざるヒミツ」。老舗を守り続ける当主にインタビューを敢行し、「老舗の逸品」「老舗のおもてなし」にスポットを当てる。
♯9『菱田屋』

2019年02月11日
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ボリュームだけじゃない! 素材や手づくりへのこだわりがすごい、創業100余年の老舗定食屋『菱田屋』
Summary
1.東京大学御用達の仕出し専門店から始まり、定食屋を開く
2.中国料理の名店で修業した5代目が加わり、メニューバリエーションが多彩に
3.「おふくろの味」をコンセプトに、良質な素材選びと手づくりの味を貫く

創業100年以上。東大の学生に愛されてきた定食店

東京大学駒場地区キャンパスの最寄り駅・京王井の頭線の駒場東大前駅から徒歩数分。閑静な住宅街にありながら、1日300人が訪れ、行列ができる人気の定食店『菱田屋』。ボリューム満点の定食を、リーズナブルな価格で味わえると評判だ。

創業は明治時代に遡り、この地で100年以上の歴史をもつ老舗である。現在は、中国料理の名店で修業した5代目のアキラさん・優子さん夫妻が中心となり、店を盛り立てている。

東京大学専門の仕出し弁当屋から始まり、地域に愛される街の定食屋へ!

――まずは『菱田屋』の歴史を教えてください。

菱田:「明治時代の頃、東京大学の教授たちに向けた仕出し弁当屋として営業していたのがはじまりと言われています。“明治の頃”というだけで詳しい資料は残っていないのですが、現在の場所で100年以上続いていると伝えられています」

菱田:「最初は東大の中だけに向けてやっていて、次第にお弁当だけでなく、おでんやあんみつ、ラーメン、甘酒なども販売するようになりました。その後、義父(4代目の憲昭さん)の代にお刺身などを販売し始めて、私が店に入ってからは、中華の要素も加えて、いまは何でも屋です(笑)」

▲菱田アキラさん プロフィール
1975年生まれ。高校卒業後、寿司職人を志して料理の道へ進み、中国料理へ転向。渋谷の名店『文琳』で5年間経験を積み、『菱田屋』5代目として妻の優子さん、義父で4代目の憲昭さんとともに繁盛店へと成長させている。

――現在、お客さんは、どんな方が多いですか?

菱田:「現役の学生というよりは、大学院生が多いですね。それから仕事帰りの人。最近は、ご近所の年配の方が一人で来たり、週末は家族連れで客席が埋まることもあります。一昨年、出版した本の影響もあってか、最近は遠方からわざわざ食べに来てくれる人もいます。営業時間が長いので、うちはランチよりも平日の夜のお客様が多いんですよ。とはいえ、夜も落ち着いて飲む雰囲気ではないので、定食をメインに召し上がる方がほとんど。お酒を飲む人もビールを1杯程度飲んで、定食を食べて帰る感じです」

中国料理の名店で修業した経験を、町の定食店に生かす

――アキラさんは、もとは中国料理の修業をしていたのですね。

菱田:「最初は、寿司職人を目指して寿司店で修業していたのですが、当時はなかなか握らせてもらえなくて。すぐに仕事をさせてくれる中国料理に転向したところ、面白くてのめり込んでしまったんです。渋谷の『文琳』で5年間修業しましたが、その間に妻と出会い、27歳のときに婿養子として『菱田屋』に入りました。当時の『菱田屋』は2つの店に分かれていて、昼は定食、夜は隣でスナックを経営していましたが、2002年に改装して一続きの店にしました。それまでは外から店内が見えなかった店をガラス張りにしたので、最初は常連さんに『落ち着かない』と嫌がられましたね(笑)。最近はみんな慣れてきて、何も言われなくなりました」

――アキラさんが入られてから、メニューも大きく変わったのですね。

菱田:「私が入った頃は、刺身もいまほど種類はなくて、マグロの中落ちとかぶつ切りとか、アジのたたき、イワシのたたきとか、それくらい。あとは煮魚、とんかつ、おでんなどが定番でした」

菱田:「いまは、昼は10種類以上の定食、夜は単品で35品程度の料理を提供していますが、その日の仕入れや仕込みによってメニューが変わるので、定番メニューというのはとくにありません」

菱田:「営業中にも食材がなくなり次第どんどんメニューを書き換えるので、オープン直後と閉店間際では、全然メニューが違うんですよ。今日の黒板にある“カジキマグロの柚子胡椒焼き”も、今日から出した新メニューです。最近の若い子は舌が肥えているので(笑)、ジンギスカンやジャークチキン、タンドリーチキンなんかも入れて、リピーターのお客様にも飽きのこないようにしています」

菱田:「それから魚介は、私が寿司店で修業していた頃のつてもあって、毎日豊洲から仕入れています。マグロは、マグロ問屋『やま幸』のもの。ブリやマグロなどは、店で熟成させてから出しています」

▲刺身3点盛定食 1,650円

――たくさんメニューがありますが、なかでもとくに人気のメニューはありますか?

菱田:「メディアでもよく取り上げていただいているのは、『豚肉の生姜焼き定食』ですね。もち豚の肩ロースを250g使用しており、数量も限られているので、早い時間に売り切れてしまうことが多いです。『豚肉味噌漬焼き定食』も、ロングセラーでよく出ているメニューです。最近、よく出るのは、マグロと揚げ物のセット。お刺身と揚げ物の両方を食べられると好評です」

▲特大あなごフライ定食1,250円

菱田:「ほかに、『特大あなごフライ定食』(写真上)、和牛のモモ肉を使った『牛かつ』、『れんこん肉詰めフライ定食』なども人気です」

値頃感とボリュームを強みとしながら、素材と手づくりの味にもこだわる!

――『菱田屋』の料理は、どれもご飯にあうものばかりですね。

菱田:「私が目指しているのは『おふくろの味』。料亭の味とかではなくて、どこか懐かしい、ほっこりする味です。子どもの頃から食べていたような味を、ちょっとプロの仕立てで整えてあげるだけで、難しいことは何もしていません。料理を作るうえで一番大事にしているのは、『作りたてを出す』ということ。デパ地下とかおしゃれな店はいまたくさんありますが、手づくりの味を作りたてで食べられるお店って、あまりないような気がします」

菱田:「うちでは、煮魚はその日に煮ますし、かす漬けは、味噌を合わせるところから手づくり(写真上・左)。メンチカツやシューマイなども冷凍食品は使わず、すべて手作りにこだわっています。それから漬物も自家製(同・右)で、ぬか漬けは、100年以上受け継がれたぬか床で漬けています」

▲肉野菜炒め定食 1,050円

――親しみやすいメニューだからこそ、他との差別化が難しそうです。

菱田:「そうですね。その意味では、寿司店で習った魚の扱い方や、中華の火入れのテクニックなど、今までの経験すべてがいまに生きているように思います。お刺身なんかは、もとの魚が同じなら、味はどこもそこまで大きくは変わらないですよね。だからどこで差をつけるかと考えて、他では味わえないような大きさや厚みにしているんです」

菱田:「それから、うちはメニューが固定ではないので、無理して時季外れの魚は買わず、旬や脂ののりを見ながら、いい素材だけを仕入れているのもこだわりです。肉は芝浦まで買いに行き、自前のスライサーやミンサーで加工します。あらかじめ下処理してあるものは値段が高いので、そこまでしないと、この価格では出せません」

菱田:「ちなみにフライは、お義父さんがずっとラードで揚げていたので、そのやり方に倣っています。揚げたてを出すには、やっぱりラードで揚げたほうがコクがありサクサクしていておいしいと思います」

――将来の夢や目標を教えてください。

菱田:「せっかくこうした仕事をしているので、もっといろいろな食材を使いたいという気持ちがあります。昨今は市場離れが進んで、八百屋さんなどの専門店もモノが売れない時代になっています。だから、うちがたくさん買うことで、彼らも幸せになれるような流れを作りたい。そしてお客さんには、うちに来てお腹いっぱい食べて、幸せな気分になってもらいたいです」

【メニュー】
▼ランチ
日替り定食 700円
豚肉生姜焼き定食 1,050円
豚肉味噌漬焼き定食 1,050円
特大あなごフライ定食 1,250円
生ラムジンギスカン定食 1,350円
まぐろぶつ切りと海老コロッケ定食 1,050円
▼ディナー
まぐろ中とろ刺身 1,050円
刺身2点盛900円、3点盛1,350円
煮魚(かれい)850円
牛カツ 1,450円
自家製焼餃子 350円
肉野菜炒め 750円
ごはんセット 300円
※内容は日によって変わる
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です

菱田屋

住所
〒153-0041 東京都目黒区駒場1-27-12
電話番号
03-3466-8371
営業時間
月~金11:30~14:00(L.O.13:50)、18:00~23:00(L.O.22:00)/土18:00~23:00(L.O.22:00)
定休日
日・祝
ぐるなび
https://r.gnavi.co.jp/rn59dywp0000/
公式サイト
https://www.instagram.com/hishidaya/

※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。