ネオン街を遊び尽くした大人たちの終着地
周りには外務省外交史料館、旧郵政省跡に在日ロシア連邦大使館がそびえ立つ由緒ある街・麻布台にいま、ネオン街を遊び尽くしたグルマンたちがこぞって通うイノべーティブレストランがある。
細い木材で設えられた階段を上った中2階。看板を掲げずひっそりと佇むここは、今夏まで『サヴールコンプリス』の名で人気のクラシカルなフランス料理店だった。
リニューアルの知らせを聞いたのは、2018年9月1日。ブームに陰りが見えない“和牛”を“少量多皿”で楽しめる、肉フレンチ『T3(ティースリー)』へと生まれ変わった。
店名に隠れた“3つのT”の意味
同店でシェフを務めるのは、山下浩幸さん(写真下)。地元・千葉の料理学校を卒業後、40年以上続く老舗『銀座レカン』をはじめ、「マンダリン オリエンタル 東京」にある『シグネチャー』でフレンチの基礎を学び、渡米。
「マンダリン オリエンタル ワシントンD.C.」にあった、エリック・ジーボルト氏率いるアメリカンモダンフレンチレストラン『CityZen(シティゼン)』で、インターナショナルな魅せ方、肉の扱い方や火入れの腕を磨いた。
「シェフという仕事に就き料理やお客様と向き合うなかで、食の楽しみ方をもっと広げたい! と強く思うようになりました。『T3』では“和牛”を軸に、僕が日米で学んできたアメリカンとフレンチ、和の3つの異なるジャンルを組み合わせて、新たなスタイルを生み出しました。型にはまらない、唯一無二の味を体験していただきたい」
純粋な眼差しで進化を語る山下さんは、13~15皿もの多皿をコースの最後まで食べ飽きさせないよう、あちらこちらにとっておきの工夫を施す。
山下さんがまずサプライズを仕掛けた場所はメニュー表である(写真上)。開いてみても食材や料理名は見当たらない。羅列されているのは“No12 30℃×48H”といった、まるで暗号のような文字。
ナンバリングされた数字は、皿数「TAZARA(多皿)」を指す。その次には、皿のメインとなる食材の調理温度「Temperature(温度)」と、調理時間「Time(時間)」が続く。
横に描かれた食材のスケッチと“3つのT”を眺めることしばし。どんな料理が出てくるのだろう……。いやがうえにも期待と想像が膨らんでしまう。
ディナーを始める前に嬉しいお知らせが! なんと『dressing』読者のためだけに、期間限定で「特別コース」をご用意していただけることとなった。
期間中に来店すれば、1人20,000円で同店一番人気のスタンダードコース(11,000円)に、ワインペアリング(8,000円)、さらには2名につきシャンパーニュ1本のボトルサービスが付いてくる。またとないこの機会は、グルマンなら逃したくない。
では早速、スペシャルなコースの一部を紹介しよう。
レストランの概念を覆す、サプライズ満載の肉フレンチ
空っぽの江戸切子が運ばれてくると、魚介の芳ばしい香りとともに、たちまち琥珀色に染まっていく。「伊勢海老のコンソメスープ」(写真上)である。
肉フレンチじゃなかったかしら? 器にどっぷりと浸かる伊勢海老の鮮やかな姿態を前に、クエスチョンマークが浮かぶ。
「コンソメスープの条件は、とにかく澄んでいること。綺麗な色に仕上げるため、鳥取県産大山鶏で作ったコンソメを合わせました。甲殻類だけでは白濁してしまうので、鶏肉のプロテインが必要なんです。こっそりだけど、ちゃんと“肉フレンチ”でしょ」と山下さん。
もう一度、グラスに目を向けてみる。濁りのない透き通ったスープをひと口飲めば、海老の濃厚なうまみの奥から、潜んでいた鶏の優しい甘みが遠慮がちに顔を出す。
続く5種類のアミューズ(写真上)は、50cmを超える圧巻の和皿でお客の視線を惹きつける。
「文化財に指定された江戸時代初期の有田焼です。現地まで足を運んで買い付けてきました」。山下さんお気に入りの大きな皿の上に、調理法の異なるひと口サイズの肉料理たちが寄り添う。
「和牛炭タタキ 柚子ソルト」は、皿ではなく炭の上に横たわっている(写真上・下から左2つ目)。変わった演出の理由を訊くと、「火入れの様子を再現しました。炭に肉を直接あてつけて火入れすることで、肉に燻香が入りやすくなるんですよ」と山下さん。
870℃に熱した炭にあてつける時間は、たったの0.5秒。一瞬の熱で脂がとけて、さらに体温が肉の繊維をほどく。噛まずしてとろけていく感触と芳ばしい残り香が、口内にじんわりと切なく漂う。
和皿の上で七変化するのは、温度と調理時間、肉が盛り付けられた器だけじゃない。
だしが染みた「勝部牛のしゃぶしゃぶ」から和のエスプリを感じ、「帆立のタルタル」はアボカドクリームをつけた途端、メキシカン風味に変身する。フランス料理の技が詰まった「24カ月熟成のパルマハムとトリュフのグジェール」と、ブルーチーズをまとった「ビーツのテリーヌ」を食べれば、ひと皿のなかで世界一周のおいしい旅ができあがってしまうのだ。
メインの肉料理「和牛ステーキ 赤城名月卵 牛蒡 柿の木茸」(写真上)は、意外にもコースの中盤にやってくる。胃袋に余裕があるうちに食べてほしいという山下さんの心遣いからだ。
メニューに記された温度と時間は、牛肉の芯温のこと。“40℃×30分”でルポゼした(休ませた)フィレ肉は、心地よい弾力があるのになめらかに繊維がほどけていく。
ゴボウのピューレに、たっぷりのトリュフとパルメザンチーズ、ゴボウ卵、焦がしネギのフォン・ド・ボーを一気に絡めてひと口。うまみを濃厚に重ねたソースから立ち上がる香りは、鼻腔を抜けてフィレ肉をエレガントに飾る。
ペアリングのダークホースは、ブドウの香りと風味を完全再現したノンアルコールワイン
肉のお供は、赤ワインでしょ! 『T3』では、そんな常識も覆される。供されたのは、ワインをオマージュした自家製のノンアルコールワイン(写真下)。
「アルコールペアリングを注文のお客様にも、必ず一杯はノンアルコールドリンクを提供しています。肉の脂の消化を助けてくれる作用のあるお茶やハーブ、スパイスで構築したドリンクを飲んで、食べ疲れた身体をリセットしていただきたい」とマネージャーを務める進藤幸紘さんは、料理に合うワインを想像し、そのブドウの香りや風味を完璧な調合で再現してみせる。
この日の一杯は、20年もののプーアール茶とウーロン茶をベースに、山ブドウの原液を加えて、黒胡椒、クローブ、リコリス、ローズマリー、月桂樹、ミント、炙ったシシトウ、バニラのサヤ、発酵させたブラックベリーを合わせてカベルネ・ソーヴィニヨンの果実味を構築した真紅色のジュース(写真上)。
メイン料理に合わせてひと口飲めば、肉のうまみが膨らみ、ふくよかな芳ばしさが襲う。
シェフの絵心と想像力が詰まった胸キュンデザートで大興奮!
幼い頃から絵を描くのが好きだった山下さんは、持ち前の画才をコースの最後に発揮する。
この日のデザート「苺のチーズムース ホワイトチョコレート」(写真上)は、チカチカと輝く電飾に照らされてやってきた。
オーナメントに見立てられたホワイトチョコレートの球体に、80℃に温めたイチゴのソースをかけると……
顔を出すのは、ケーキのパーツとなる、ジェノワーズやイチゴのダイス、カシス風味のチーズムースたち。甘酸っぱいソースと絡めて食べれば、口の中で完成するというわけだ。
サプライズと遊び心溢れる大人のテーマパーク『T3』には、より満喫するための特等席がある。1日に4席だけのシェフズテーブルだ(写真上)。山下さんが繰り広げる数々のクリエイティビティを、すぐ目の前で体験できる優越感は格別。予約殺到のプレミアムシートを一度は味わってみたい。
なお、『dressing』読者限定の特別メニューを味わい人は、予約時に「dressing特別コースを!」と伝えよう。
【メニュー】
・dressing特別コース(スタンダードコース、ワインペアリングまたはノンアルコールペアリング、2名につき1本のシャンパーニュボトル付き) 20,000円
※予約は2名より。2019年4月末まで
・ショートコース 8,000円
・スタンダードコース 11,000円
・シェフズ テイスティングコース 15,000円
・スペシャリテコース 20,000円〜
・アルコールペアリング(8杯) 8,000円
・ノンアルコールペアリング(6杯) 4,500円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。価格はすべて税抜、別途サービス料10%です
T3(ティースリー)
- 電話番号
- 03-5545-5857
- 営業時間
- ランチ 11:30~15:00(L.O13:00)*ランチは金曜日と土曜日のみ営業、ディナー 18:00~23:00(L.O.20:00)
- 定休日
- 日曜、お盆時期、年末年始
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