シモキタの街に溶け込む。ヴィンテージ感あふれる佇まいのワインスナック
まるで迷路のように路地が入り組む下北沢の街路。だがその路地裏には隠された宝物のように、個性的・マニアックでディープな味わいの店が点在している。
2018年9月にオープンした『DAMIAN -Wine Snack-』(ダミアン ワインスナック)はまさに、そんな下北沢らしい店だ。
場所は、小田急電鉄「下北沢駅」東口から徒歩3分の路地裏。駅近だが路地のさらに奥の路地にあり、間口も狭いうえ看板もないので、かなり見つけにくい。初回は道に迷う人がかなり多いというが、その“隠れ家感”もまた魅力となっている。
下北沢の人気ビストロ『abill(アビル)』の2号店として誕生した同店。元は鍼灸院だった建物を、ほぼスタッフの手で改装したという。
店内はカウンター席のみでワインバーのようだが、ママの田村美穂さん(写真上)と、男女各1名の若い“チーママ”が店に立つスナックスタイルの店だ。
ワインは常時、12種類以上がグラスで楽しめる。ワインリストはなく、その日のおすすめワインのボトルをカウンター上のボードに、赤・白・泡、そしてママのおすすめと、それぞれ軽い味わいからしっかりした味わいの順番に分かりやすく並べられている。
確かにこれであれば、ワイン初心者も味のイメージが直感的につかめ、好みのタイプを見つけることができる。楽しく、心憎いアイデアだ。
お通しとして出しているポップコーン(写真上)は、田村ママの手作り。上質なバターをたっぷり使ったポップコーンが、意外なほどワインによく合う。オープン直前に作っているので、早い時間に入店すれば出来立てを食べられるかも。
熟成にこだわった絶品チーズで、ワインがぐんぐん進む!
フードはチーズを中心に、『abill』のシェフが考案したおつまみから軽食までそろう。
チーズは、世田谷区のチーズ専門店『LAMMAS(ランマス)』から仕入れている。
『LAMMAS』は、生産地の一流熟成士が厳選したものを輸入し、土地の特性に合わせた個々の熟成庫で保管し販売しているという、業界では名の知れたチーズ専門店である。
この日の「チーズ おまかせ3種盛り」(写真上)は、左から青カビタイプ「1924~ミル ヌッフソン ヴァンキャトル」、白カビタイプ「ブリー・ド・モー・ア・ラ・トリュフ」、ハードタイプ「ラクレット」。熟成加減が完璧なのはもちろんだが、塩味の強さの組みあわせが絶妙で、ワインがぐんぐん進む。
このチーズに合わせて田村ママが選んでくれたのは、イタリアのピエモンテ産のナチュラル白ワイン「ランゲ・ビアンコ “ネ?”」(写真上)。フルーティで非常に飲みやすく、スターターとしてぴったりなワインだ。
チーズは単品のオーダーも可能。一番人気は「ブリー・ド・モー・ア・ラ・トリュフ」(写真上)。
パリにあるトリュフ専門店の最高峰『ラ メゾン ド ラ トリュフ』が監修しており、高品質の黒トリュフをマスカルポーネチーズに練り込み、チーズの王様とも呼ばれる白カビ系チーズ、ブリー・ド・モーではさんだもの。
トリュフの香りがアクセントとなり、ブリー・ド・モーの濃厚なうまみがさらに強く感じられる。ワインが止まらなくなるおいしさだ。
『abill』の名物フードメニューでワインが飲める!
『abill』オープン時から人気の名物メニュー「オニオングラタンスープ」(写真上)が食べられることも、同店の大きな魅力。焼き上がるのに時間がかかるので、早めに注文するのがおすすめだ。
とろけて沸き立っているチーズにスプーンを入れて頬張った瞬間、タマネギの濃厚なコクと甘さに驚く。チーズのうまみもタマネギに負けないほど強く、器にこぼれた分までかき集めて食べたくなるほど。これもまた、ワイン泥棒な一品だ。
「オニオングラタンスープ」に合わせてチョイスしてくれたのは、「シャトー・ル・グラーヴ・デ・ヴィオー リザーヴ」(写真上)。植物の根に似たラベルから、常連客の間では「根っこ」と呼ばれる人気ワインだ。軽やかな渋みが、オニオングラタンのコクをさらに引き立ててくれる。
「うちのお客さんは、なぜか全然ワインの名前を覚えてくれないんですよ」と苦笑するのは、オーナーの後藤宏尚さん。
そうした気取らないやりとりも、ワイン初心者にとって居心地がいい雰囲気を作っている。
ワインらしからぬラベルが目を引く京都丹波の「てぐみデラウェア」(写真上)は、酸化防止剤無添加・無濾過の国産スパークリングワイン。
「無濾過なので沈殿物があり、1本のなかでも味わいが違うんです。少なくなってくるほど、ネクターのようなコクが楽しめます」(宏尚さん)。
お茶漬け×赤ワインが合う!? 自然派ワインのプロだからこそ、ペアリングも絶妙
「本日のシメ茶漬」(写真上)は仕入れによって変わるが、この日はカツオをだし醤油で漬けにしたもの。それに濃い目のお茶をかけていただく。
合わせてくれたのは、フランス産のガメイ「ラ ブテイユ ルージュ」(写真上)。これもラベルデザインから、常連客には「イカ」の愛称で呼ばれているとのこと。
単体でも自然派ワイン特有のだしのようなうまみを強く感じるが、ここに茶漬のだし醤油のうまみが加わると、ふたつのうまみが舌の上で違和感なく溶け合い、さらに膨らむ。
赤ワインは和食に合わないイメージがあったが、自然派ワインのガメイは和食と相性が抜群なのだという。
自然派ワインの作り手の想いを、シンプルにカジュアルに、わかりやすく伝えたい!
▲左から田村ママ、オーナーの後藤麻里奈さん、後藤宏尚さん夫妻
後藤さん夫妻は、下北沢の人気ビストロ『abill』のオーナーでもある。『abill』オープン10年目となる節目に何か記念になるようなことをしたいと思い、数年前から夫婦でその魅力にはまっている自然派ワインの店を2号店としてオープンするに至った。
外国人観光客のツアーガイドの顔も持ち、海外経験が豊富な麻里奈さんは、生産地では居酒屋感覚で気楽に飲まれている自然派ワインが、日本では肩ひじをはった雰囲気の店で、ほとんど説明もないまま店のおまかせで飲まされることに不満を感じていたという。
自然派ワインをもっとカジュアルに楽しめて、生産者の想いをわかりやすく明快に伝えられるような店を作りたいと考えた時に浮かんだのが、日本人になじみ深い“スナック”というスタイルだった。
ママの田村さんは麻里奈さんの古くからの友人。飲食店での接客経験は無かったが、「気取らない自然体な人にやってもらいたかったので、彼女ならぴったりだと思いました」と宏尚さんは言う。
クラフト感あふれる内装、カウンターにはママの魂がこもっている
落ち着いた雰囲気で居心地の良い同店だが、前述の通り内装ほとんどを、後藤さん夫妻と田村ママが業者に教わりながら手作業で仕上げたという。
古材のカウンターは、傷や落書きにも温かい味わいがあり、手触りもなめらかで心地いい。これは田村さんが「お客様の手が引っかからないように」との想いをこめ、隅から隅まで丁寧にやすりをかけ、ニスを塗って仕上げたもの。
「このカウンターには、田村さんの魂がこもっているんです」と麻里奈さん。
さらに「いい音楽がお酒をさらにおいしくする」というポリシーから後藤さん夫妻がどうしても作りたかったという本格的なDJブースが、カウンター裏にある。プロのDJを呼び、定期的にイベントも行っているという。
「年齢に関係なく盛り上がって欲しいので、ジャンルにはこだわりません。たまに昭和歌謡ヒットパレードになる夜もありますよ(笑)」(宏尚さん)。
路地に面した窓は大きく開くことができ、暖かい季節にはスタンド形式でさらに気軽にワインを楽しむことができる。ワイン片手に、ママや客同士のフランクな会話も一層弾むことだろう。
自然体で気取らず、やさしくて心地よく、知れば知るほど好きになる。まさに自然派ワインの魅力をそのまま表しているかのような店が、ここにある。
【メニュー】
チャージ 400円
ワイン グラス600円~
チーズ ブリー・ド・モー・ア・ラ・トリュフ、カロテンケーゼ 900円
おまかせ3種盛り 2,000円
オニオングラタンスープ 800円
本日のシメ茶漬 700円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税別です。
Damian -Wine Snack-
- 電話番号
- 03-6805-2775
- 営業時間
- 19:00~翌3:00
- 定休日
- 火曜
- 公式サイト
- http://www.damian.tokyo/
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。