今月の1軒『鳥田中』【by マッキー牧元】
最初の一品に目を見張った。
「鴨の治部煮」(写真上)である。
鴨のロース肉を、野菜や麩とともに煮込んだ金沢の郷土料理だが、その塩梅が素晴らしかった。この料理はたいていの場合、鴨に火が入りすぎて、がっかりする場合が多い。しかし精妙な加熱で、鴨はしっとりと滋味をたたえ、セリのみずみずしさも麩の味が染み込んだ煮加減もピタリと決まっている。
そこには、三者の持ち味が出逢う、「治部煮」という料理の本質があって、心が掴まれた。
焼鳥の前、前菜から楽しい、おいしい!
ここは東京・鐘ヶ淵の『鳥田中』である。
といっても、都心で活動する人の多くは、ピンとこない場所かもしれない。大衆居酒屋好きなら、『はりや』や『丸好酒場』の街といえばわかるかもしれないが、大方の人にとっては、縁がない土地だろう。
大衆居酒屋が似合う街の住宅街に、『鳥田中』はある。駅から細い路地を歩いて行くと、ぽつりと明かりを灯している。
焼鳥屋であるから、鳥料理と焼鳥を頼み待っていると、まず出されたのが「鴨の治部煮」であった。
そして次に、天然の「ヒラマサ」と江戸前の「ヤリイカ」が出される(写真上)。どうやら注文した料理の前に、何品か出されるシステムらしい。
その刺身も、一級品であった。
切り口の角が立ったヒラマサと、隠し包丁を細かく入れたヤリイカを見て、その仕事の確かさに嬉しくなる。ヒラマサからは上品な脂が舌に流れ、ヤリイカはねっとりと甘い。
柚子胡椒とタマネギが添えられた、「胸肉ともも肉のタタキ」(写真上)は香ばしい。
「肉内蔵類の湯びき」(写真上)は味が綺麗。
そして胸肉の「黄味醤油和え」(写真上)は、胸肉の淡い旨味を黄味と醤油のコクが持ち上げている。
続いて、鶏そぼろかをかけて食べる「自家製豆腐」(写真上)も、豆腐自体の豆の香りが立っているからこそ、そぼろをかける意味がある。
焼鳥の前に、俄然楽しくなってきた。
酒が進む、進む。酒の揃えもいい。そして酒の値付けが安い。こりゃあ飲むしかないじゃないですか。
肉を食らう醍醐味がある、丹波地鶏の「焼鳥」
丹波地鶏を使った焼鳥も、立派である。
筋肉質の滋味が弾ける「ソリレス」(写真上・左上)、ねっとりと甘い「レバー」(同・右上)、繊細さがある「内腿」(同・左下)、おろし生姜が乗せられた「ハツ」(同・右下)。
独特の食感で噛みしめる喜びがある「せせり」(写真上・左上)、ふんわりまとめられた「つくね」(同・右上)、その他ハラミや「砂肝」(同・左下)、「皮」(同・右下)など大ぶりの串は、かじりつく楽しさがある。
元気に走り回り、よく運動した鶏だけが持つ、発達した筋肉と養分の濃さがあって、肉を食らう醍醐味がある。
おいしい料理にウマい酒、しかも値段が安い!
焼鳥の合間にと頼んだ料理も、ハズレがない。連れを含めて4人いたので、締めのご飯を4種類頼んでみた。
「〆の濃厚白湯醤油鶏そば」(写真上)はコラーゲンの旨味に満ちたスープが、とろりと舌にからんで、目を細めさせる。
「京都丹波地鶏の親子丼」(写真上)は、濃厚な黄身の甘さがある玉子の半熟具合が良く、そこに鶏の歯ごたえが加わって、勇壮な気分となる。
濃厚地鶏スープの「鶏雑炊」(写真上)も、スープの滋味が濃密で、ひと口すするたびにため息が出る。
「丹波地鶏そぼろ丼」(写真上)は、甘辛い味に支配されることなく、鶏肉の味が生きている。
そして最後のデザートは、上品な甘さの「自家製羊羹と栗のクリーム」(写真上)と、抜かりがない。
勘定をすれば、あれだけ飲んだのに、1人7,000円強と安いじゃありませんか。誰もが、この近隣に住んでいる人を羨ましく思う店である。
【メニュー(一部)】
レバー 200円
せせり 200円
ソリレス 240円
ハツ 220円
皮 200円
〆の濃厚白湯醤油鶏そば 650円
親子丼 700円
丹波地鶏そぼろ丼 650円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです
鳥田中
- 電話番号
- 050-5492-9203
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- 水~日
17:00~22:00
※全席予約席とさせていただいております。(最終入店時間20:00)
※キャンセル席などの状況は、なるべく営業時間外にお電話にてお伺いください。
- 定休日
- 月曜日・火曜日
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。