グルメな人たちがこぞって通う注目店が林立する、東京・門前仲町。『坊千代』は、東京メトロ、都営地下鉄の門前仲町駅から徒歩5分。運河を超えた街角で、目立つ看板もなくひっそりと営んでいる。
扉を開けると驚くなかれ! 瞬時に、日本に西洋文化が入ってきた、遥か昔にまでタイムスリップだ。
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扉の向こうは、骨董品で設えた特別室
扉の向こうはただ1室、ゲストのためのスペシャルな空間で、奥に厨房を備える。ここでどんな時間を過ごせるのだろう。ふつふつと晩餐への期待が湧いてくる。
まず目を見張るのは、古都の寺院にあるような屏風。
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「こちらは店内で、もっとも古くて大きな骨董です。全長7mもあるんですよ」と、店主の岳野基道(たけのもとみち)さんが気さくに説明をしてくれる。
同店は、2018年春まで東京・荻窪で営んでいたが、築地市場が豊洲に移転したのを機に、門前仲町に移転した。「この屏風を飾れる物件を探しました」と笑う。
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笑顔がやさしい岳野さんは、料理を学ぶべく18歳でイタリアへ。南イタリアを中心に郷土料理やナポリピッツァを修得し、帰国して都内のリストランテでシェフを務めた。が、その後、「日本料理を学び直したい」と、銀座の懐石料理店の門を叩いた。
イタリア料理に加えて日本料理ができる貴重な料理の腕が評価され、在パリユネスコ大使館付公邸料理人として渡仏。帰国後2011年3月に、『坊千代』を開店した。
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自らの「食の表現」を探求し、高みを目指し続ける岳野さんが創るのは、オリジナリティあふれる、新しいスタイルの「懐石料理」だ。
メニューは、月替りの献立・おまかせのフルコースのみ
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店内壁の額の中に、今月の献立が飾られる。しかし、その献立はあくまでもベースとなるもの。訪ねるゲストの好みやリクエスト、または仕入れる素材の状況に応じてメニューが変化するのだ。
例えば、「前に訪ねた時のメニューを、もう一度味わいたい」「高齢の両親を招待するので、柔らかく食べやすいものを」など。このようなリクエストにこたえるのが1日1組、完全予約制の醍醐味で、岳野さんはできる限り対応している。
日本ワインを中心に、料理とのペアリングを
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献立がおまかせならば、お酒も委ねてしまおうではないか。日本ワインを中心に、料理に合うペアリングを提案してくれる「ペアリングコース」は、スパークリングに始まり、およそ4~5種類味わえるかなりお値打ちのオプションコース。
サービスを担当するのは、ソムリエ資格を持つ妻の伸子さん。お酒は岳野さんとともに料理に合わせて選んでいる。
一品一品、器をめでる楽しみも
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漆塗りの天目台に盛られる前菜は、「自家製唐墨(からすみ)と季節の野菜」(写真上)。
左から、ボラの子が出回る昨年11月に仕込んだフレッシュなからすみと、一昨年仕込んだ1年熟成のからすみ。そして、コゴミ、ラディッシュ、タラの芽、蒸し鮑、スナップエンドウ、ウルイと季節の野菜と魚介が並ぶ。中央の明治初頭の九谷焼のお猪口には、フレッシュなからすみを裏ごししたソースが注がれていて、バーニャカウダ仕立てとなっている。
からすみ2種をゆっくり食べ比べてみると、フレッシュなからすみは華のある香りで、熟成したからすみは芳醇な香りが鼻をくすぐり、その違いに思わず目を見張る。
「器は、西洋文化が日本に渡ってきた頃の食卓をイメージして、幕末から大正時代のものを中心に使っています」と、岳野さん。他にも、弥生時代の土器や、パリ在住時代に買ったシルバー、川で集めた石に稚鮎を乗せるなど、骨董に限らない大胆な発想も楽しみだ。
あえて、日本のスパークリングを合わせて
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唐墨や山菜ならば日本酒を選びそうになるが、あえて日本のスパークリングを開栓。ワイナリー『ルミエール』の、山梨県産甲州種を使い、ビン内で二次発酵、長期熟成させたスパークリングワイン。唐墨の濃厚かつまろやかな味わいと、山菜のほのかな苦みが広がる口中に、やさしく弾けるだろう。
里芋とフォアグラによる、スペシャリテ
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岳野さんのスペシャリテの1つ、「フォアグラの大理石」(写真上)。
パリで公邸料理人として日本料理を作っていた頃、里芋の煮っころがしを作ってアレンジしたというエピソードがある。里芋とフォアグラと合わせ、テリーヌ仕立てにしているのだ。
ひと口いただいてみると、里芋部分もフォアグラのように濃厚! 里芋のねっとり感とフォアグラのまったり感が口の中で溶け合い、これまでにない食感を体験できる。
「ソースには15年もののバルサミコを添えていますが、100年もののバルサミコ酢もコレクションしています」と、岳野さん。気になる方は、2,000円(1cc)で追加できるそう。
力強さのある器は、イタリアから取り寄せた大理石をハンマーで割って整えたというから驚きだ。
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九谷焼をあしらったグラスに注ぐワインは、山梨県の八ヶ岳裾野にある『ドメーヌ ミエ・イケノ』の「月香シャルドネ 2016」(写真上)。「フォアグラのまったりとした感じに、樽香と厚みのあるシャルドネを」と、伸子さんがゆったりとした口調で説明する。
隠れメニューのナポリピッツァは、注文必須!
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知る人ぞ知る隠れメニューが存在する。それが、「ナポリピッツァ」(写真上)だ。イタリア修業時代に、本場ナポリでピッツァを学んだ岳野さんは、自家製のモッツァレラを使いフライパンで焼きあげている。この日は、亥年にちなんで猪の「ラグーのピッツァ」。他に、白子やウニ、そら豆のピッツァも登場する。
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ピッツァを取り分ける銘々皿は、明治時代の京焼(写真上)。ペアリングは、あえて日本酒がセレクトされた。しかも、秋田県の「新政 天鷲絨 2017 -Viridian-」(写真上)だ。厚みと余韻が深いしっかりとした日本酒は、自家製のチーズにこの上なく合うだろう。
岳野さんは、素材の大切さを語る。
「自家製チーズは、モッツァレラの他にリコッタやマスカルポーネも作ります。材料となる生乳は『東毛酪農』の低温殺菌牛乳です。様々な生乳で試作しましたが、これじゃなきゃ納得のいくチーズはできなくて」。
生乳選びはほんの一例に過ぎない。素材への探求心は、すべてにおいて妥協を許さないのだ。
メインは、春を伝える桜肉が登場
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江戸時代の古伊万里に美しく盛られるメイン料理は、桜肉(馬肉)のステーキ(写真上)。長野県産の馬のヒレ肉を厚めにカットし、フライパンでゆっくりと焼きあげている。
赤ワインと赤味噌を使ったソースは、見た目よりさっぱりしていて、余韻が滋味深い。あしらった白いレースのような野菜は、ツリーケール。古伊万里のブルー、馬肉の赤のコントラストが目にもやさしいひと皿にまとまっている。桜肉に合わせて、桜の小枝を添える細やかな演出にも心を打たれる。
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合わせるワインは、馬肉と同じ産地、長野県『小布施ワイナリー』のメルローを。
七福柑と銘打った、麗しいデザート
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ミカンの羊羹の上に、世界で一番大きな柑橘・バンペイユ、キンカン、日向夏、八朔(ハッサク)、ピンクグレープフルーツ、そしてライチの砂糖漬けを花びらのようにデコレーションしたデザート。
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食後酒には、自家製の橙のリキュールがバカラのアンティークグラスに注がれる。
食後には、お好みのヴィンテージカップで一息
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最後にコーヒー、または黒豆茶を選べるが、カップ&ソーサーも好きな1客を選ぶことができる。サイドボードに並ぶのは、岳野さんがコツコツと揃えてきたロイヤルクラウンダービー、オールドイマリ。100年以上前から作られてきた英日融合のデザインに、心が躍る。
味、器、空間、音楽。すべてにおいて最善のおもてなしを
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「予約時に、どういう理由で来店されるのか、どんな人が集うかをできる限りうかがっているんです」。岳野さんと妻の伸子さんは、主役のゲストをどうもてなそうかと、最善を尽くす。
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例えば、誕生日でご利用いただけるなら、蓄音機(写真上)で、『誕生日の行進曲』をかけさせていただきます」。きっと、忘れ得ぬひとときになることだろう。
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初めての訪問ならば、一見かしこまった雰囲気を感じるかもしれない。が、岳野さんは気さくでおしゃべりも楽しい。例えば、イタリアから年月と海を越えて届いた等身大の鎧のオブジェ(写真上)に驚いていると、「最近入った、新顔のスタッフなんです。実際に着てみると重いですよ」と、茶目っ気たっぷりに教えてくれる。
めくるめく変わる創作懐石だけでなく、岳野さんの人柄と雰囲気に魅せられた人たちが、来店時に次回の予約をしていく。なるほど、予約困難になるわけだ。
【メニュー】
おまかせコース 10,000円
ナポリピッツァ 2,000円~(予約時に注文を)
▼ドリンク
ペアリングコース 4,000円
(ワインは1本2,000円で持ち込み可能)
※昼夜ともに2~8名の完全予約制
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税込みです
坊千代
- 電話番号
- 050-5487-7736
(お問合わせの際はぐるなびを見たというとスムーズです。)
- 営業時間
- ランチ 12:00~14:00
(L.O.14:00)
ディナー 18:00~21:00
(L.O.21:00)
こちらを目安にご予約お願いします。
追ってお客様のご希望時間をお伺いいたします。
- 定休日
- 無
- 公式サイト
- http://bouchiyo.com
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。
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