季節の素材を活かしたつまみとこだわりの酒で“そば前”を満喫! 日本各地のそばの味を愉しめるそば店
小田急小田原線・代々木八幡駅から徒歩約5分。個性ある飲食店や雑貨店などが軒を連ねる地蔵通り商店街沿いに、モダンな店構えのそば店『そばと酒 えもり』がオープンした。
目立つ看板はなく、店頭に張り出された品書きを見なければそば店だとは気づきにくい。けれども、木戸を開ければ、古材や白木を使ったカウンターと地酒の一升瓶が目に入り、落ち着いた空間が広がる。
大きな窓を設けず、あえて明かり取りの小窓のみをしつらえたのは、賑やかな通りから店内が見え過ぎないようにとの配慮から。食事とお酒を静かに愉しんでもらおうという、店主の榎森俊司さんの気遣いだ。
日本各地のそばを毎朝自家製粉。味や香りの違いを堪能できる「十割そば」
榎森さんは山形県出身。英語の勉強のためにカナダに渡ったが、バンクーバーの飲食店で働いているうちに仕事が面白くなり、そのまま現地で料理学校に進学。カナダのレストランに勤めた後帰国し、都内の和食店で修業した。
将来は故郷・山形に店を構えたいと考えている榎森さんは、山形でどんな店を開業するべきか、山形の特産品を活かせる料理をあれこれ思案し、行きついたのがそば店だった。
そばを学ぶため銀座の名店『手打ち蕎麦 成富』で修業。2018年10月にこちらの店を開業した。
榎森さんは日本各地の生産者やそば店から直接、そばのむき実(写真上)を仕入れる。そばは、店内の一角にある石臼で毎朝自家製粉し、挽きたてのそば粉で細やかにそばを打つ。
そばは、素材本来の風味を味わえる十割そばだ。
夜のコースの最後を締めくくる「せいろそば」は、産地の違う2種のそばが盛られる。昼は、せいろのお代わりをオーダーしたお客に、最初に提供したものとは別の産地のそばを供するようにしているという(日によっては提供できない場合もあり)。
榎森さんは、自身の理想とするそばの味わいや喉ごしを追及するというより、それぞれのそばの個性や違いを活かす。産地やそばの銘柄によって、色、香り、食感などが微妙に異なるのが実におもしろい。
この日の「せいろそば」(写真上)は、栃木県益子町産のブランドそば「常陸秋そば」(せいろの左側)と、福井県大野市産の「大野在来そば」(同・右)。右のそばと左のそばを食べ比べてみると、なるほど、味わいが違う。
そばつゆは塩辛さよりもだしのうまみを感じる仕上がりで、そばの味や繊細な香りの違いがわかりやすい。
「端をちょっとつけるのではなく、そばをしっかりつゆに絡ませていただいても辛くありません」と榎森さん。使うカツオ節は厚削りではなく、薄く削ったもの。煮出すのではなくさっと炊いてだしをひいている。
食事の最後を締めくくるそば湯にも注目。茹で汁を供するとなると、茹でれば茹でるほどそばの濃度が上がっていくため、店のオープン時間早々に来たお客と閉店ギリギリに来たお客とでそば湯の味が変わってしまう。それを避けるためにきちんと調理したものを供しているが、これがトロトロ濃厚でそばの香りが凝縮したひと品になっている。つゆに注げばカツオ節の風味が立ち、カツオのうまみを活かしているというこちらの店のつゆの特徴がまた際立ってくる。
そばにもつゆにもこだわっているが、もうひとつ、『えもり』の「せいろそば」を陰で引き立てている要素は、箸。こちらの箸、驚くほどに細い。
「そばを食べていて、残りが少なくなってくるとそばがザルに引っかかったりして箸でつかみにくくなりませんか? 最後の1本まで食べやすいように、箸をいろいろ試しました」。
店主が見つけたのは、竹製の極細の箸。この箸のおかげで、最後のひとかけらまでストレスなくそばを食べることができる。
季節の素材を使ったつまみで“そば前”を愉しむ! 夜のおまかせコースは、そばの香りを活かしたひと皿も
“そば前”とは、そばを食べる前に、そば店の料理を肴にお酒を飲むこと。こちらでは、季節の野菜を軸にした料理が供される。榎森さんの故郷・山形県産の野菜が供されることも多い。
夜のコースの前菜として供されるのは「そば豆腐」(写真上)。そば粉と葛粉を練った“とうふ”を、この日は素揚げして、菜の花や山形県産のキクの花のあんをからめている。そば豆腐はもっちりとした食感。湯気が立ち上るほどにアツアツで供されるあんは彩りも美しく、身体があたたまる。コースのはじめから熱燗でいきたくなる。
コースの2品目「そば前盛り合わせ」(写真上)は、基本3品の構成。この日の3品は……
「紅大豆のひたし豆」(写真上)。紅大豆は山形県の伝統野菜。県南部にある川西町産の紅大豆は、食感をしっかりと残して炊いてある。豆の上にはそばの実を使ったジュレがかかる。
「穴子の煮こごり」(写真上)。穴子のうまみが凝縮した煮汁と、やわらかい穴子の身。お酒がぐんぐんすすむひと品。
「うるいの酢味噌和え」(写真上)。このうるいも山形県産だ。歯ごたえがシャキシャキのうるいに、胡麻の風味のきいた酢味噌が添えられる。
お酒をとことん飲みたいお客には、3品に加えて焼き味噌(写真上)が供されることも。この日の味噌は山形県産の味噌に、甘みのある西京味噌とそばの実、ふきのとうを合わせたもの。そばの実のコリコリとした食感とふきのほろ苦さ。酒飲みにはたまらないアテだ。
夜のコースはほかに、椀物、供する直前にそばを挽いて仕上げるそばがき、鴨などのお肉を使ったひと品、旬を先取りした野菜の天ぷらが出され、せいろそばで締めくくられる。
日本各地から集めた地酒をラインナップ! 骨董品や作家ものなど酒器にもこだわる
お酒は山形県産のものをはじめ、日本各地の珍しい地酒をラインナップしている。
榎森さんの地元・山形の酒販店にセレクトを任せており、店内で熟成させたお酒もあるという。
なかでも店主がおすすめするのは、「軽妙洒脱」(鳥取県『久米桜酒造』/写真上・左)、「天穏」(島根県『板倉酒造』/同・中)、「南部美人 雄三スペシャル」(岩手県『南部美人』/同・右)。どれも食中酒として愉しめる。
酒器にもこだわりがある。貴重な骨董から現代の作家のものまでそろえ、好みのものを選ぶことができる。今日はどの猪口を試そうかと思いめぐらす時間も愉しい。
昼から静かにひとり酒を飲む大人の贅沢!
お昼のメニューは、山形鶏を使った炊き込みご飯とそば、または天ぷらとそばのセットとなるが、「お昼からお酒を飲んでいただけるように、『蕎麦前盛り合わせ』もメニューに載せています」と言う。
日本に昔からある“そば前”文化を大切にしたいという榎森さん(写真上)は、店の設計の時点から、つまみを並べてお酒を飲みやすいようにカウンターの奥行を広く取ることにこだわった。
店には、ひとりで来店して静かに本を読みながらそば前を堪能するお客の姿も。一杯飲みたい時に、バーではなく、こうしたそば店を選択肢のひとつとするのもいい。
落ち着いた店内で味わう日本各地のそばや季節の野菜。賑わいを見せる代々木八幡界隈の飲食店に、またひとつの個性が加わった。
【メニュー】
▼ランチ
せいろ蕎麦(またはかけ蕎麦)+山形鶏とごぼうの炊き込みご飯+季節野菜のおひたし1,200円
せいろ蕎麦(またはかけ蕎麦)+季節の天ぷら盛り合わせ+季節野菜のおひたし 1,800円
蕎麦前盛り合わせ 1,000円
▼ディナー
おまかせ 4,000円
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜きです
そばと酒 えもり
- 電話番号
- 03-3469-7422
- 営業時間
- 12:00~14:00、18:00~22:30
- 定休日
- 水曜 ※木曜は昼休、不定休あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。