老舗のうなぎに惚れた少年が歩みだした、うなぎ職人としての道
2018年6月、麻布十番に誕生したうなぎ料理店『うなぎ 時任』。店主の時任恵司(ときとう さとし)さんは、生粋のうなぎ料理人である。
時任さんは、料理人を目指すべく、中学1年生の夏休みに修業先を探すなかで偶然入った『五代目 野田岩(のだいわ) 麻布飯倉本店』で、うなぎのおいしさに衝撃を受ける。『野田岩』といえば、200年以上続くうなぎ料理の名店。そのことを知らず、ただただ純粋に「おいしい!」と感動し、店の雰囲気にも惹かれたのだという。そして、その場でうなぎ職人になることを決意した。
その後、中学卒業と同時に『五代目 野田岩 麻布飯倉本店』にて修業を始める。それから30歳までの15年間、研鑽を積むかたわら、時間を見つけては度々ヨーロッパへ渡り、郷土料理として各地に広まっているうなぎ料理や食文化について学んできた。
そして2014年に独立し、2年間『銀座 ときとう』にてさらに腕を磨いたのち、『うなぎ 時任』をオープンするに至ったのだ。
『うなぎ 時任』の洗練された雰囲気漂う店内は、ゆったりとしたカウンター席が8席。すべての席から時任さんの秀出した調理技術を見ることができ、眼福を味わえる。要予約だが、奥にはカウンターを配備した個室もあり、特別なシーンにも利用できる。
厳選うなぎの美味を堪能できる、さまざまなコースを用意
同店は、単品のうな重もあるものの、塩焼きやうな重を含むコースが主軸である。
ランチは、「ランチコース」(先付・八寸・うな重・デザート)と、そこにお造り・白焼きが付いた「うなぎ懐石コース」を用意。
ディナーは、仕入れ状況により内容は多少変動する場合もあるが、「うなぎ懐石コース」(一例:先付・八寸・椀もの・白焼き・本日の一品・うな重・デザート)から、品数を増やした「お任せコース」「特別お任せコース」と、バラエティに富んだラインナップが魅力。
使用するうなぎは、「身の質が良く、脂とのバランスが取れている」という理由から、通常は愛知県三河一色(みかわいしき)産の養殖のみ。5月から12月頃までは天然うなぎも楽しめ(入荷状況による)、こちらはその時に最も上質なものを厳選し仕入れている。
定番の「白焼き」は、オリジナリティあふれるハイブリッドな逸品!
まずは、うなぎの美味をダイレクトに堪能できる「白焼き」。こちらは、うなぎ懐石コース・お任せコース・特別お任せコースで味わえる一品。
うなぎをさばいて串打ちし、蒸してから備長炭の上へ。火加減を見ながら速やかに位置を変え、手際よく焼き上げていく。
▲包丁を入れると、「サクッ」「サクッ」という魅惑の音が響き渡る
まるでオブジェのように盛り付けられた色彩豊かな「白焼き」(写真上)。早速、時任さんの妙技が光る。単なる白焼きではなく、さまざまな食材とのコラボレーションを楽しむことができるのだ。
左端から、そのままの白焼き、梅肉と梅しそ、生ハム、キャビアのトッピングが施されている。
まずは、そのままの白焼きから。皮の芳ばしい香りとサクサクの歯ざわりを感じると同時に、閉じ込められていたうまみが口の中に広がっていく。
続いて、梅肉と細く千切りされた梅しそは、ほどよい酸味がうなぎの脂と見事にマッチしていて、さっぱりと食べられる。
「昔から、”梅とうなぎは食べ合わせが悪い”という言い伝えがありますが、実はすごく合うんですよ」と時任さん。確かにさっぱりとしていて後味もすっきりしており、良い意味で意外性がある。そして、高まる期待を胸に隣の生ハムへ。こちらは、生ハムの塩気がうなぎの甘みを引き立てており、これまた不思議なくらいうなぎと合う。
そしてキャビアを乗せたものは、ついキャビアのみを2~3粒つまみたくなってしまうが、「ぜひ、うなぎと一緒に食べてください」と時任さん。……なるほど、味の幅のふくらみが感じられる。同店の「白焼き」は、オードブル感覚で一度に4種の味を楽しめ、個々の余韻を残しながら食べ進められる精妙な逸品だ。
やわらかく芳ばしい「うな重」には、職人の技が光る
タレの芳ばしさをまとったうなぎの美味に浸れる「うな重」。コースでは半身になるものの、単品の「うな重」に使われるのは、重さ300gの肉厚で脂がたっぷり乗った愛知県三河一色産のうなぎ。
タレをつけては焼き、つけては焼き……の工程を4回繰り返し、5回目で仕上げられる。
タレには砂糖を一切使わず、厳選した醤油とみりんのみで仕上げている。芳ばしい香りに鼻孔をくすぐられ、気持ちはもう ”うなぎのぼり” (……と、つい言いたくなってしまうほど)である。
そして重箱におさめられ、目の前に現われたところで、笑顔の時任さんが「うちには”儀式”があるんですよ」と砂時計を置く。
なんと、砂が落ちるまで3分待つのである。
出来立てだと水分が多く、「まずは、一口目をおいしく食べてほしい」という思いから、編み出された大事な工程だという。
そしてようやくご対面。
ふたを開けると、ごはんが見えないほど敷き詰められたうなぎに思わず歓声を上げてしまう。横には肝吸い、漬物、美しい容器に入れられたタレも添えられている。
厚みのあるうなぎに箸を入れると、ふわっふわにやわらかく口に入れた瞬間に溶けていく。当然、米にもこだわっており、新潟県魚沼産コシヒカリのなかでも、市場には出回っていないものを使用している。
粒が小さめでふっくらした一粒一粒が立っており、繊細な甘辛のタレとの馴染みも見事である。計算された滋味豊かな味わいが、まさに”時任流”!
肝吸いも、上品なだしの風味と大きな肝の食感が絶妙だ。また、それぞれの漬物の味わいにも丁寧な仕事ぶりを感じられる。
うな重単品は、ランチはもちろんディナーも予約なしでOKとのこと。お土産用メニューもあるので、さまざまなシーンに活用できそうだ。
上品な香りにうっとり! 華麗な「ウナギの赤ワイン煮込み」
フランスの郷土料理「マトロート(魚をワインやシードルで煮る魚料理)」にヒントを得て考案された「ウナギの赤ワイン煮込み」(写真上)は、「お任せコース(20,000円~)」で楽しめる。うなぎを、赤ワインに香草などを加えたソースで煮込み、フォワグラのソテーを乗せ、その上にはトリュフがスライサーから華やかに舞い落ちていく。
「ワインで煮込むとうなぎの脂が落ちるので、フォワグラの脂との相性が良いんです。クリームチーズとも合うんですよ」と、時任さん。
こちらには、フランス産貴腐ワイン(濃厚な甘みと極上の風味を持つ高級ワイン)「シャトー・ディケム(2004)」がよく合う。
「シャトー・ディケム」は、世界3大貴腐ワインのひとつといわれる「ソーテルヌ」の貴腐ワインで、完全に熟した葡萄のみを6~8週間かけて手摘みし、樽のなかで3年以上熟成して造られる。1本のブドウ樹からグラス1杯分のワインしか造られないと言われ、さらに世に出回るための厳しいチェックもあるという。そんな中、この2004年のものは、指折りの高評価を受けている人気の1本なのである。
芳醇な香りとハチミツのような深みのある甘みで、「ウナギの赤ワイン煮込み」のさっぱりとした、やや酸味を感じられるソースとの相性も素晴らしい。やわらかなうなぎの食感と濃厚なフォワグラ、トリュフの香りを際立たせてくれている。
アルコールは、生ビールやグラスワインをはじめ、希少な銘柄のボトルワインやプレミアム日本酒まで幅広く揃う。ぜひ、一品一品と合わせながら、滋味に浸ろう。
新たなうなぎの可能性を求めて、挑戦し続けたい
うなぎ職人を魅力ある職業にしていきたいと語る時任さん。
「うなぎの調理技術を継承するだけでなく、”うなぎは「かば焼き」だけではない”ということを伝えていきたいですね。イタリアでは、クリスマスにうなぎを食べる習慣がありますし、フレンチの技法もうなぎに応用したいです。もちろん、うなぎ屋としてのベースは守りつつ、その中でどんどん挑戦したいですね」(時任さん)
定番はもちろん、驚きと発見・新しいうなぎの味わいに出逢える『うなぎ 時任』。うなぎ好きはもちろん、苦手という人も、ぜひとも一度訪れてみてほしい。”時任流”のうなぎ料理を食すれば、これまでの概念を大きく変えられてしまうはずだ。
撮影:登坂未来
【メニュー】
ランチ
うな重 3,500円
ランチコース 6,000円(先付・八寸・うな重・デザート)
ランチうなぎ懐石コース 10,000円(先付・お造り・八寸・白焼き・うな重・デザート)
ディナー
うな重 4,800円
うなぎ懐石コース 15,000円(一例:先付・八寸・椀もの・白焼き・本日の一品・うな重・デザート)
お任せコース 20,000円(一例:先付・八寸・椀もの・白焼き・本日の一品・本日の鰻の一品・うな重・デザート)
特別お任せコース 30,000円(一例:八寸・椀盛・強肴・白焼・主菜・う巻き・うな重・肝吸・香の物・水菓子)
天然うなぎコース 35,000円(一例:八寸・椀盛・強肴・白焼・主菜・う巻き・うな重・肝吸・香の物・水菓子)
※5月~12月頃は、ランチ・ディナーともに天然うな重も用意あり(時価、提供は入荷状況による)
アルコール
生ビール(白穂乃香) 880円
ワイン グラス1,300円~、ボトル8,000円~
日本酒(一合) 1,400円~
プレミアム日本酒(四合瓶) 14,000円~
※コース内容は仕入れにより変更あり
※別途、サービス料10%
※本記事に掲載された情報は、掲載日時点のものです。また、価格はすべて税抜です
うなぎ 時任
- 電話番号
- 050-5487-4964
- 営業時間
- 月~土 夕食:18:00~21:00(ドリンクL.O.20:30) 水・金・土 ランチ:12:00~14:00(L.O.13:00)(うなぎ売り切れ次第終了 月.木ランチ休み)
- 定休日
- 毎週日曜日 ※不定休日あり
※本記事に掲載された情報は、取材日時点のものです。
※電話番号、営業時間、定休日、メニュー、価格など店舗情報については変更する場合がございますので、店舗にご確認ください。