「日本人より日本のことを知っているシェフ」のフレンチ割烹
日本が大好きで食や文化に誇りを持っている日本人でも、自分の暮らしの範疇にないものは知らない場合が多い。
例えば、地方育ちで流通量の少ない食べ物もそのひとつ。未知のおいしさに初めて出逢うとき、わたしたちは日本の食文化のすばらしさを再確認することだろう。
その道先案内人と言っても過言ではないシェフが、日本在住歴25年のドミニク・コルビさん。
いまや「日本人より日本のことを知っているシェフ」として名高いが、来日時には日本について何の知識も有していなかったという。
「人を幸せにする料理を作りたい」と14歳で料理の道へ
フランス・パリ生まれのコルビさん(写真下)が料理の道を歩み始めたのは14歳のころ。
幼いころは週末ごとに家族が集って祖母の手料理を楽しんでいたが、その時間をなによりも幸せに感じていたことから、自然と「自分も人を幸せにする料理を作りたい」と思うようになった。
最初に入店したのは伝統的なフランス料理レストラン。
そこで2年間きっちり学んで基礎を身に付けた後は、パリ郊外の『ル・タス トヴァン(le Tast’vin)』、フランス南部の有名店『ルピネ(Lepinay・現在は閉店)』、マキシム・ド・パリ系列の『エスパス・カルダン(現在は閉店)』などを転々とすることで、新しい味や調理法を学び続けた。
下積み時代を経て料理長になったのは23歳のとき。
店の2番手として入店した『ヴァンセンヌ競馬場』で、入店から半年後には後継者としてシェフに就任したのだ。
さらに、同店に客として足を運んでいた、パリのグランド・メゾン『ラ・トゥール・ダルジャン』のシェフに認められたことがきっかけとなり、同店に入店。
さらにその後、同店のフランス国外唯一の支店である東京の店を任せたいとの話を持ち掛けられ、28歳で来日したのが1994年のことだ。
28歳で来日後、名店のシェフやプロデューサーに次々と就任
来日後の活躍は目覚ましい。
「ホテルニューオータニ東京」内の『トゥールダルジャン 東京』でエグゼクティブ・シェフとして経験を積んだ後、「ホテルニューオータニ大阪」総料理長および同ホテル内フランス料理店『SAKURA』料理長に就任。
並行して、銀座『ル・シズィエム・サンス・ドゥ・オエノン』のガストロノミー・プロデューサーを務め、2008年にはパリ郊外にフレンチジャパニーズスタイルの高級ビストロ『LE MIYABI』をオープン。
さらに2013年には「ル・コルドン・ブルー日本校」エグゼクティブ・シェフに就任し、2016年には東京・四谷の『メゾン ド ミナミ フレンチ割烹 ドミニク・コルビ 』総料理長に就任した。
そして2019年2月、『フレンチ割烹ドミニク・コルビ』を東京・新橋にオープンするに至ったのだ。
料理のスタイルも独特。
フレンチでありながら、日本の食材やだし文化に共鳴して、バターやクリーム、小麦粉を極力使わずに作っているためとっても軽やか。
また、豊富にそろう日本酒、バラエティ豊かなワインやシャンパンとのマリアージュも、新感覚で楽しめる。
2019年3月前半のメニューは鹿児島県霧島市とコラボしたコース。
前菜からデザートまで、霧島の食材をたっぷり堪能できるコースを提供している。
前菜は、霧島連山麓の澄んだ空気と清流の中で育った「霧島サーモン」に低温処理を施し、菜の花のピューレ、つぼみ菜、ブロッコリーの豆乳マヨネーズの他、辛味大根、ビタミン大根、紅芯大根の3種の大根を添えた美しい色合いの一皿だ(写真下)。
▲霧島サーモン サラダ仕立て
きめが細かく、十分に脂がのっているのにさっぱりとした味わいの霧島サーモンは、低温処理を施すことによってしっとりと柔らかくなり上品な味わい。
ペアリングワインは毎日異なるものが登場
この料理に合わせてコルビさんが選んでくれた一杯は、世界屈指のシャンパーニュ・メゾンによる「ローラン・ペリエ ラ・キュヴェ(LAURENT PERRIER LA CUVEE)」(写真下)。
フレッシュでエレガントなシャンパンは、瑞々しい前菜にぴったりだ。
とはいえ、「この料理にはこのシャンパン」と決まっているわけではなく、「ペアリングは毎日変わります」と明かすコルビさん。ご本人も酒が大好きなこともあり、そのときどきのおすすめをお客に提案することを自分自身も楽しんでいるようだ。
具沢山スープも絶品!
写真下は「スープ」。コルビさんが作るスープはその響きから連想しがちなものとはかなり様相が異なり、鹿児島県特産ブランドの「さつま黒酢ぶり」が真ん中にどっしりと構えているだけでなく、コンフィしたキャベツや芽キャベツまで添えられてかなり賑やか。
▲かぼちゃのスープ
「うちのスープは“食べるスープ”。必ず、肉か魚を入れるようにしています」というコルビさんの言葉通り、食べごたえ抜群だ。
スープに使われているカボチャはもちろん霧島産で滋味豊富。丁寧に裏ごしされたなめらかなスープゆえ、キャベツの食感が心地よいアクセントとなっている。
ペアリングしたのは、「ドゥ・ラドゥセット(De Ladoucette)」(写真上)。
爽やかさの中に厚い果実味が感じられる白ワインはふくよかな香りで、豊潤な甘みに満ちたカボチャと相性抜群。
また、コンフィしたブリをおいしくいただくため、「新政」(写真上)などの日本酒と合わせるのもなかなかオツである。
エネルギーに満ちた黒豚は、豊潤な赤ワインとともに楽しみたい
メインの「黒麹黒豚のロースト」(写真下)は、肉厚でとってもジューシー。
▲黒麹黒豚のロースト
黒麹黒豚とは、麹をエサとして育てられた豚のこと。ストレスを軽減する麹菌の摂取によってストレスフリーですくすくと育っているため、コルビさんいわく「エネルギーがある」豚である。
また、黒麹には消臭作用があるため獣臭が少なく、豚肉の鮮度を保つビタミンEを通常の豚より多く含有しているため、フレッシュな味わいを楽しめるのも特徴だ。
豚肉のソースには、豚でとっただしを煮詰めて、水や野菜とともに炊いたものを採用。付け合わせとして添えられる霧島産野菜の赤カブや小松菜を絡めていただいても美味である。
ペアリングワインは、「アンヌ・グロ&ジャン・ポール・トロ ラ・シオード(Anne Gros & Jean Paul Tollot La Ciaude)」(写真上)。
ベリーの華やかさやミネラルの豊かさを感じる一杯ゆえ、豚肉の豊潤なうまみとともにゆっくりと味わってほしい。
デザートまでペアリングを満喫できる
デザートには、霧島育ちのBIO(オーガニック)の抹茶を使ったアイスが登場(写真下)。
▲霧島抹茶のアイス、黒酢シロップ添え
48時間黒酢に漬け込んだイチゴとともに口に運べば爽やかな風味を楽しめるが、オーク樽貯蔵の「貴醸酒」と合わせてトロリとした甘みを舌の上で堪能するのもステキ。
「来日当初は日本のことを何も知りませんでしたが、知れば知るほど日本のことが大好きになりました。自然豊かだし、いい食材もそろっているし、すばらしい伝統もたくさんある」(コルビさん)。
視察先の京都で出逢った和紙を折敷に採用したり店内に提灯を吊り下げたりと、日本のいいとこどりが日本人より上手なコルビさん。
割烹文化のすばらしさを自分の店にも取り入れたかった
「日本に来て初めて知って感銘を受けたもののひとつが割烹スタイル。『ホテルニューオータニ大阪』に勤務していた当時、仕事終わりに勉強のためにいろんなお店に行きたかったけど、一人だと気が引けていたんです。そんなとき、一人でも腰を落ち着けて日本酒と料理を楽しめる割烹に出逢い、自分の店をオープンするときは絶対割烹にしようと決めていたんです」。
コルビさんのお店は、フレンチでありながら和食材の魅力を存分に楽しめる割烹。日本のすばらしさを改めて噛みしめてみてはいかが?
撮影: 登坂未来
※完全予約制
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